表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
プリーエフ攻勢
68/68

停車場は血で染まった



 ローゼンハイムの駅は大騒ぎになっていた。

 何しろ、起き抜けに敵襲の可能性ありと通達されたのだ。

 

 「爆弾の設置はまだか!?」


 駅のそばの幹線道路の橋、及び鉄道の橋梁を落とすことが決まった。

 少しでも敵の足を鈍らせるためだ。

 しかし、道路の橋は木製ではなく石で頑丈に出来ているために橋を落とすにはそれなりの爆薬が必要だった。

 

 「は、配線が分かりません!」

 「馬鹿者!なぜ新兵にやらせている!」


 時間稼ぎのための重要な任務に割り当てられたのは、当直の小隊。

 幽霊戦線ゴーストラインにいるのは、殆どが実戦経験のない部隊で何かと不慣れだった。

 それ故に設置に予想より手間と時間がかかった。


 「設置完了まで後、3分です!」


 彼らにとってその3分が命取りになったのだった。


 「ん?何だこの音は?」


 レシプロ機でもなければ戦車でもないエンジン音が彼らの上空から聞こえてくる。


 「て、敵襲!」


 合衆国軍には、ジェットエンジンが存在しないため彼らは音の正体を見破れなかったのだ。

 兵士の一人がそう叫ぶ。

 彼が敵だと気づいたのは、ヴァンダーファルケの機体正面に刻まれた鉄十字を確認したからではなく撃ちかけられたからだった。


 





 『鉄橋に敵を確認、橋を落とす気ですわ!』


 アナリーゼがそう報告すると共に像速して橋へと向かう。

 橋のアーチが邪魔にならないよう橋の横からではなく正体から突っ込むらしい。

 鉄橋を落とそうとしているのなら、道路の橋も落とされるかもしれないな。


 『第3小隊、道路の橋の様子を見てこい』


 鉄道橋にいる敵は、せいぜい小隊半分程度の数だ。

 と考えれば、残りは道路の橋にいると考えていい。


 『了解!』


 第3小隊は、南の方角へと進路を変えた。

 鉄道橋の方ではアナリーゼと敵歩兵の戦闘音が聞こえているが、10秒もしないうちに片付いていた。

 

 『第3小隊、道路上の敵を排除しました!』


 第3小隊からも程なくして状況終了の報告が上がる。


 『わかった』


 これであとは、バイパー戦闘団に連絡を入れればいいだけだ。

 あとは彼らか上手いように事を運んでくれるだろう。


 『こちら【第701試験戦闘団】、ローゼンハイム付近の敵の排除が完了しました。橋に爆薬が設置されてると思われるので歩兵を先行させるようお願いします』


 もし、敵が爆破に戻ってきたら厄介だから解除を要請しておく。


 『鮮やかな手並みだな。了解した』


 バイパー中佐が労いの言葉を返す。

 だが、これは達成して当然の任務だった。

 備蓄燃料の全てを解放してまで行われた大攻勢、しかし燃料には限りがあり作戦開始の午前5時30分から緻密な攻勢計画によるタイムリミットがあるのだ。

 この作戦序盤で転ぶ訳にはいかなかった。






 

 ローゼンハイム駅でバイパー戦闘団とともに燃料補給を受けた俺の戦闘団の次の目標は、周囲の敵航空基地の無力化となった。

 攻勢開始時はアルデンヌ一帯を覆っていた霧が森をぬけたところで晴れ始めたのだ。

 戦車部隊は、敵航空機に対してなす術がない。

 空軍ルフトヴァッフェを頼るべき話なのでは?とも思うが海を挟んで対峙する連合王国やサルディニア共和国の航空基地から飛び立つ連合軍の爆撃機の邀撃で手一杯なので支援は望めない。

 よって俺達に白羽の矢が立ったのだ。


 『敵機、来ます!』

 『さすがに、哨戒網に引っかかるか……第3中隊は滑走路の敵機を上がる前に叩け!残りは空中の敵の始末だ、かかれ!』

 

 連合王国の海軍で言うところの沿岸監視員コーストウォッチャー(陸上の場合の言い方はしらん)に見つかったのだろう。

 さすがに一方的に攻撃できるなんてかんがえは甘かったらしい。

 離陸した敵機よりも高度は上だ、第3中隊を支援するためにもここは敵を釣り上げるか。


 『第1、2中隊、全機上昇しろ!』

 

 これに敵が引っかかってくれれば、第3中隊は敵機の地上撃破がしやすい。

 自由共和国空軍は、騎士道精神に基づいた空戦を好むと言うが、そんなことに付き合っていたのでは作戦に支障をきたす。

 それに何より俺達は戦闘機じゃない。

 新兵科で新機材のヴァンダーファルケだ。


 『敵機8機、来ます!』

 『それでいい!』


 隣を飛ぶアナリーゼに目配せを送る。

 それだけで彼女は俺の意図を察してくれた。

 彼女は、単機で離脱すると徐々にエンジン出力を下げた。

 敵機は、それに構わず俺達目掛けて上昇し続ける。

 地上では、上手い具合に地上撃破が進んでいる。


 『よし全機、格闘戦に移れ!』


 元々速力が低い分、格闘戦はお手の物だ。

 エンジン出力の妙で、戦闘機には出来ない機動がヴァンダーファルケには出来る。

 周囲のそこかしこで空中戦が始まった。

 追い縋るロレーヌ十字の機体の射線を回避しながら機関銃を撃ち続ける。

 小口径でも数の暴力で損傷を与え続け、距離が開けば対戦車ライフルの出番。

 機関銃弾は、コックピットや翼部に当たれば致命傷、対戦車ライフルの30ミリ弾は大きい口径故にどこでも当たれば致命的な打撃を与えられる。


 『配置につきましたわ!』


 釣りだされた敵機の最後部につけたアナリーゼ機がライフルで敵機に射撃した。

 そのまま立て続けに2機目を撃墜する。

 2個中隊18機のヴァンダーファルケに対して損失を出した敵は6機。

 乱闘に持ち込めばヴァンダーファルケの独壇場だ。

 空戦はあっという間に終わった。

 だが、敵航空機との戦闘が集結すると次は猛烈な対空砲火が俺達を出迎えた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ