撤退
結果から言うとオデッサの制空権を巡る一連の戦闘は、痛み分けに終わった。
敵の戦爆連合の邀撃のため出撃した先日の戦闘では、【第701試験戦闘団】のみで被撃墜6機、撃墜・撃破19という戦果だった。
撃墜された6機のうち、パイロット2名を収容することが出来たが他のパイロットに至っては無理だった。
損耗率は、2割。
決して高くはない数値だが、部隊の機数自体が27機と少ないために無視できない数値となっている。
「君達には、帰還命令が国防陸軍参謀本部より通達された。【第701試験戦闘団】の活躍により敵部隊に痛打を与えたこと、キシニョフにいる諸将より聞き及んでいる。これには感謝しかない」
第6航空艦隊は、極度の消耗により作戦能力を喪失したことにより既に後方へと機材を移動させ始めている。
それに併せての撤退命令ということなのだろう。
ちなみに、昨日の敵前線後方の航空基地に対しての夜間攻撃により相当数の敵機を地上撃破しているため、ある程度の間ではあるが制空権の心配はしなくていいということらしい。
「上級大将閣下の撤退はどうなさるのです?」
キシニョフの陥落は時間の問題だという。
包囲下にあっては、弾薬と食糧、そして燃料と物資に事欠くだろうから出来ることは、限られている。
「われわれも明日にはオデッサから退却するつもりだ。退却後はキシニョフを包囲する敵の一角を崩しキシニョフにいる友軍の撤退を支援しつつトランシルヴァニア山脈で再度立て直す」
トランシルヴァニア山脈は、ロム二王国中部にある山岳地帯で天然の要害だ。
過去にロム二王国を失陥しそうになった際も、そこで抵抗したことがありトーチカ等の設営も済んでいると聞く。
「そうですか。閣下のご武運をお祈り申し上げます」
「少佐と中尉もな」
そう言葉を交わして面会は終わった。
「いったいどうやったら意のままに部隊を動かせるんだろうな」
俺は、上官のシュタウヘン少将のことを思って言った。
「あの人は見えないパイプが各機関にありますわ。今回もそれを使ったに違い……空襲警報でしてよ?」
アナリーゼの言葉を遮るようにけたたましくサイレンが鳴り響く。
「らしいな。航空艦隊の夜間攻撃で地上撃破したんじゃなかったのか?」
聞いていた話では、徹底的に敵航空基地を叩いたとあった。
なのに敵は、作戦行動をとっているではないか。
「完全では無いというのとでしょうね」
既に友軍の航空機部隊は退却をしているため航空戦力は俺たち意外にない。
「中尉、戦闘団に出撃準備をさせろ!」
「了解しましたわ」
敵の行動可能な航空機は、どれ程かは分からないが少数のはずだ。
夜間攻撃で叩かれて即座に戦力回復が出来るはずない。
機体の調子が振るわず整備中のヴァンダーファルケもあるが、2個中隊くらいは迎撃にあげられるはずだ。
出撃許可を得て、格納庫に向かうと既に出撃準備を終えた部下たちが集まっていた。
俺もヴァンダーファルケを装着し立ち上がる。
出撃可能機数は16機。
2個中隊には、僅かに及ばないがこれだけあれば、できることは十分にある。
『戦闘団各機、作戦目的は敵をこの格納庫に近づけないことだ。行け!』
この格納庫には、【第701試験戦闘団】を運ぶ輸送機まで駐機されている。
これを失えば俺たちは帰るに帰れないのだ。
ヴァンダーファルケが次々と垂直離陸を始める。
既に基地外縁部の高射砲も火を噴き始めていた。
『エンジン出力最大!早急に高度を上げろ!』
高射砲陣地を襲う敵機が視界に入る。
超低空飛行で侵入してきた敵は、何かを探し回るように飛んでいる。
そして――――彼らは上昇中の俺達を捉えた。