オデッサ空戦(2)
「後ろを取られたか!?」
咄嗟の判断でスロットルを前へと押し出す。
間一髪で敵機の射線から逃れる。
『戦闘団各機に通達、のんびり射撃機会を窺う暇はない。とにかく動き続けろ!』
止まれば、死あるのみだ。
舐めてかかったわけじゃないが、予想よりも幾分、厳しい戦いを強いられている。
敵の戦闘機隊は、どうすれば最大限爆撃機を守れるかを心得ている。
俺達が照準に捉えて攻撃しようとすれば、銃撃を浴びせにくる。
自身の機体を守るだけでも手一杯だ。
『コミー共が寄って集って執拗い!』
通信に混じるアナリーゼの声もかなり苛立っている。
この状況を打開する策は、何かないのか……。
敵の戦闘機隊との戦力差は、俺達と友軍戦闘機隊の合計すれば大差ない。
そして、俺達は2つの指揮系統の部隊だが敵は指揮系統が一つ。
その状態で2つの指揮系統を持つ部隊を相手取っているのだから、隙は自然と産まれてくる。
なら、その利点を活かせばいいはずだ。
『少佐、一旦戦力を集中させた方がいいと思いますの』
アナリーゼもそこに気付いたらしい。
『それが懸命だな』
敵に追われているのは、友軍機全てじゃない。
この戦場のどこかでは、敵が過剰に戦力を投入しているだろうし、逆に穴も空いているはず。
2つの集団を相手にしていて敵の指揮系統は、混乱していないはずがない。
だとすれば……局地的有利な戦況を作れるはずだ。
『戦闘団各機、俺の元へ集合しろ。信号弾が上がった場所が目印だ。アナリーゼ中尉、信号弾を!』
『了解しましたわ』
アナリーゼが信号弾を打ち上げる。
これに気付いて寄ってくるのは、味方だけでなく敵も含まれるだろう。
『第1中隊各機、つられて寄ってきた敵の掃討だ』
既に第1中隊は、迎撃準備を整えている。
『11時の方向から敵機接近!』
固まっている俺達を狙い目だと思ってやって来たのだろう。
だが、複数に対して単独でやってくる敵など、こちらからも狙い目だ。
『お馬鹿ね』
アナリーゼが無常の一発を撃ち出す。
パイロットを失った機体は、前のめりに下降していった。
『7時方向から敵機2、来ます!』
『3時方向から敵機1』
次々と敵機が接近するが、尽くそれを落としていく。
敵とヘッドオンする真っ向勝負なら、対戦車ライフルの30mm弾でも戦闘機相手に十分に戦える。
相対速度的に敵は回避のしようがない。
初弾さえ外さなければ、ほぼ確実にこちらが勝つ。
『第2中隊、招集完了』
『第3中隊、招集地点へ集合しました』
最初から散開する必要などなかったのだ。
敵に主導権を握られていた戦場、だが戦力を集中したことにより全方位を警戒できるようになったこちらに付け入る隙はないはずだ。
『了解した、これより戦況をひっくり返すぞ!』