行く末は珈琲のように2
「さて、我が帝国陸軍が新兵器の導入を計画していることは知っておるかね」
シュタウヘン少将から聞いたそれは、初耳だった。
「いえ、まったく」
「そうか、機密保持がうまくできているようで安心した。防諜体制もうまく機能していることを願うばかりだが。我が陸軍は昨今、秘匿呼称StahlBirdmanの配備を検討している」
注目の新兵器であれば、ある程度の将兵が知っていそうなものだが秘匿呼称StahlBirdmanというのは全くもって聞いたことがない。
敵国の諜報員に知られることを恐れて、機密保持に力を入れているのだろう。
つまり、それだけ敵に対しての効果が期待される兵器ということでもあるわけだ。
「鋼鉄の鳥人という意味ですが、小官では想像しかねます」
me-262の話から続いているから戦闘機なのだろうか……いや、それなら空軍の管轄になるはずだ。
「ふむ、なら解説しよう」
「感謝します」
少将は、書類を何枚か俺の方に差し出してきた。
「それを見ながら聞くといい」
与えられた資料には、StahlBirdmanの写真が貼られている。
それは、斬新な切り口による全く新しい考え方の兵器だ。
「これは……」
予想の斜め上を行く、その兵器に自分の声が少し裏返っているのが分かる。
「StahlBirdmanのルーツは、me-262にある。陸軍総司令部は、空軍の導入する新型戦闘機StahlBirdmanの着想を得たのだ。レシプロにするという案もあったが、新しいもの見たさとプロペラでは翼が無ければまともの飛行はできない。そう言った理由からジェットエンジンを使用することとなった」
StahlBirdmanの試作機を写した写真は、期待感に満ちた一枚だった。
「空からの歩兵の戦闘を支援すること、敵の有力な陸上部隊を空から叩くことを想定して開発された兵器だ。我らには兵力がない。切り札もない。そんな状況を脱却する兵器であると陸軍総司令部は確信している。まさに貴官の言う新たな視点による新たな兵器ではないかな?」
これが空を飛び、敵の装甲部隊に打撃を与える。
その光景を想像するのは容易だった。
搭載する兵器は、30㎜の対戦車ライフルだという。
戦車の正面装甲は破れないが、上から狙う分にはエンジン回りなどの装甲の少ない部分を撃てば、かなり強力な一撃になるだろう。
「これがつかえれば、かなり前線は楽になるかもしれませんね」
「ああ、そうだ。それに一応、上昇限界の高度は、爆撃機の迎撃も想定して高度だ。ライフルの射程の500メートルを考慮しても、高度7000メートル弱の敵までなら迎撃できる。連邦軍の爆撃機を相手取るなら迎撃は容易すいだろう」
連合軍の爆撃機の爆撃高度は、大凡10000メートルだが連邦軍の爆撃機は、そこまでの性能を持っていない。
「新たな視点による新たな戦術も可能になると思わんか?」
少将は、その年齢に似合わない悪童のような笑みを浮かべている。
「ですが、まだ開発段階なのでは?」
「そうだ、だがあと一つのピースが埋まれば大凡完成したといってもいい」
もうそこまで、開発が進んでいたのか……試作機を作るくらいには、ということなのだろう。
「で、その最後のピースというのは?」
シュタウヘン少将の目が真っすぐに俺を見据えた。
「君だ、エルンハルト大尉」
「どういう意味です?」
もったいつけるように少将はコーヒーの入ったカップに口をつけた。
「必要なのは、優秀なテストパイロットだ。君は今でこそ陸軍に所属しているが以前は空軍でバトル・オブ・ブリテンにも参加して生き残ったと聞く。そんな君に、テストパイロットを頼みたい」
テストパイロットということは、俺がこの威信をかけたといっても過言ではない新兵器に意見をするということだ。
「小官なんかでよいのでしょうか?」
そんな大任をやりおおせる気がしない。
「ああ、是非にも頼みたい。すでに、メッサーシュミット社とユンカース社の開発チームには話を通しておいた。向こうも了承済みだ」
どうやら、断ろうにも初めから退路は用意されていなかったらしい。
「……わかりました。謹んで拝命いたします」
「頼りにしておる。いい兵器にしてやってくれ」