白兵戦Ⅲ
捕虜に尋問して、答えさせた階段の場所は、一番窓側の通路、つまり客船の両サイドにあるということだった。
「第2中隊は、右側から行け」
第1中隊は、左側からだ。
幸いにして階段のそばまでは、さっき突入した際に掃討しておいたから無事にたどり着けるだろう。
しかし、問題は階段上だ。
バリケードでも作られているようなら、それを突破するのに苦労するだろう。
『第3中隊は、両舷側の階段を探し出して階段及び階段の上を射撃しろ』
そこで、第3中隊のヴァンダーファルケに、仕事をしてもらうことにした。
『階段と思しきものを発見。数箇所ありますが如何しましょう。』
客船の進行方向側に艦橋があるから、それに行くのに最も近い階段を使って行けばいい。
つまり、一番手前の階段だ。
『一番手前とその次の階段だけで構わない』
念には念を入れて、その隣の階段も掃除をしてもらうことにした。
しばらくすると、階段付近から窓ガラスに穴頑張って開く音や悲鳴が聞こえた。
30ミリの対戦車ライフルで射撃しているから、人に当たれば、体が吹き飛ぶだろうし船の壁を貫くのには何の苦労もない。
「私が戦闘を行きますわ」
アナリーゼが志願してきたが、それは指揮官として譲れない。
指揮官が先陣をきらなくては、部下に示しがつかないのだ。
「もし、少佐に万が一のことがどうなさるつもりなのです?」
「そのために副官やアナリーゼ中尉がいる。指揮官の俺の顔を立たせてくれ」
そう言うと、それ以上アナリーゼは言い募るようなことはしなかった。
「わかりましたわ」
階段の下まで着くと一応、手榴弾を投げ込んで上の様子を窺う。
敵が近くに寄っていれば、手榴弾の爆発に巻き込まれてくれるだろう。
しかし上からは物音一つしない。
第3中隊の射撃で逃げているか死んでいるかのどちらかだろう。
「行くぞ」
射撃によりところどころ穴の空いた階段は、血塗られている。
射撃で死んだ敵兵の血だ。
最後の手前で、顔だけ出して周囲の様子を窺うが二階は静まり返っている。
周囲にあるのは、射撃と手榴弾によりバラバラとなった敵兵の骸だけだ。
そこに何人の敵兵がいたのかを数えることさえ難しい有様だった。
「おそらく、敵はいない。だが油断するなよ」
後続の第1中隊の8人に言い聞かせて、最後の段に足をかけて二階へと上がった。
無論、敵からの射撃は無く後続の8人も無事に上がりきる。
ダダダダン―――。
突如、響く射撃音。
即座に音の方向に振り向くと射撃したのはアナリーゼだった。
「ぐッ……」
ガタリと倒れる音と呻き声を残して倒れる敵兵。
「敵の死体に隠れていたようですわね」
おそらくは、俺たち全員が二階に上がりきったところで射撃して殺すつもりだったのだろう。
「なぜ気づいた?」
「損傷の無い状態だったので、撃ってみただけですわ。私も生きているとは思いませんでしたけど」
確かに、第3中隊の射撃に晒されて損傷が無いのはおかしな話だった。
「そうか、助かった。感謝する」
先頭の俺が気づけなかったんじゃ、部下への示しも何もあったもんじゃないな。
上がったところで、通路を右に曲がると再び階段があった。
ちょうどさっきまで登っていた階段の真上だ。
ここも同じ要領で手榴弾を投げ込み様子を窺いながら登っていく。
そして最上階である3階にたどり着いた。
3階はデッキと艦橋しかなく、艦橋に入る扉は階段を上がってすぐのところだった。
「行くぞ」
扉の左右に部下を置いて、俺が扉を開けた瞬間に敵がいれば射撃できるようにする。
扉を開けるタイミングを悟られないよう扉を開けるまでわざと時間をかける。
痺れをきらしたら敵の方から来ることもあるかもしれない。
ノブに手をかける。
そして少しずつ、ノブを回していく。
扉の向こう側からは、やはり物音一つしない。
十分にノブを回しきったら扉に足をあてて一気に蹴り開けた。
そして、前方に向かって滑り込みつつ部屋の様子も窺う。
扉の傍にいた敵の射撃は、空を切るだけに終わる。
一射撃目は、回避できたらしい。
敵がこちらを振り向く前に銃を構えて、引鉄を引く。
アナリーゼもしほぼ同じタイミングで室内に射撃をしつつ突入し、振り向いてこちらに注意を向けた敵に銃を撃ち込む。
そして後続の第1中隊全員が部屋になだれ込んで艦橋を制圧。
敵はどうやら二人しかこの部屋にはいないらしかった。
そしてこの後重要になる操縦士達は無事だ。
こちらを向いて両手を頭の後ろで組んでいる。
抵抗の意思はないらしい。
「服と所持品を検めろ」
さっきの死体に隠れていた敵兵に射撃されそうになるようなことがないよう銃を所持していないかを、確かめさせる。
「持ってないようですわね」
アナリーゼが言うのだから、信頼していいだろう。
「それなら結構」
「船長は誰だ?」
帝国の公用語ではなく連合王国の公用語で問い掛ける。
すると、大柄の男一人が両手を頭の後ろで組んだまま名乗り出た。
「自分です」
「そうか、ならば早速だが船の行き先をキールに向けてもらいたい。と、言いたいところだがその前にさっきの護衛艦から脱出した君たちの同胞を救出しなければならない。やってくれるか?」
もちろん彼の可能な選択は一つしかないのだが、彼は嫌々といった様子ではなく
「同胞を救出できるのならば、喜んで引き受けましょう」
と、進んで引き受けてくれた。
一応、軍人を除く乗組員の彼らが連合王国へ帰国できるよう後から手配しておこう。
「全員、配置につけ」
彼の指示の元、船はさっきまで戦場だった海域に戻ることとなった。