白兵戦Ⅱ
「以上が捕虜に尋問した結果ですわ」
アナリーゼから報告を受ける。
内容を要約すると、船内の様々な箇所に潜伏し敵はゲリラ戦を仕掛けるという戦法をとっているということだ。
幸いなのは、敵兵の規模が大規模ではなく2個小隊と小規模な編成だったことだろう。
人数に直せば40人といったところだ。
既に現時点で4人を脱落させたわけだから残りは、36人。
「どこにいるか分からないのが怖いな」
クイーン・メリーは、全長310メートルで幅36メートルの大型客船だ。
部屋の数も数百という数。
階層も数階あるから少人数で行こうものなら返り討ちに会う可能性すらある。
「ですが相手は、一線級の部隊では無いですし殺れない数では無いですわ」
アナリーゼがそう言うと簡単そうに聞こえてしまうが、それは人的損害を考慮しないやり方だ。
「一人の脱落者も出したくないから、それは却下だな」
「お優しいですわね」
アナリーゼが煙草を咥えてこちらに向けてくる。
火をつけろ、ということか……。
「吸うのか?意外だな」
煙草に火をつけてやると、白い息を吐いて気だるげに言った。
「少佐の前では吸わないだけですよ?」
「なぜだ?」
煙を燻らせると続けて
「だって少佐は、吸われないでしょ?だから煙草は、お嫌いかなと思って…そんな人の前で煙草を吸って幻滅されるなんて嫌ですもの」
理由は俺を気遣ってのことらしかった。
「そんなことか……気にするな。吸いたいときに吸えばいい」
どうせいつ果てるとも知れない命だ。
可能な限り好きに生きる方が悔いも少なくていいだろう。
「でも、体には気をつけろよ?煙草は自分の健康にも周りの人間にも良くない」
「まぁ、私の身を気遣ってくれてますの?」
アナリーゼは、目を丸くして咥えていた煙草を落とした。
それを俺は、拾って軽く口と触れる部分を拭うとアナリーゼに咥えさせる。
彼女の口元をまじまじと見たのは初めてかもしれない。
綺麗な唇してるんだな、何となくそう思った。
でもそれをアナリーゼに悟られるのはなぜか少し恥ずかしくて、急いで目を逸らして考えるのをやめた。
「さて、この後どうするか……」
意識を完全に別の方に向けるために敢えて口に出す。
「ふふふ」
アナリーゼは、そんな俺の考えを見透かしたかのように笑った。
「少佐、私に一つ考えがありましてよ?」
アナリーゼは、しかし何もそれについて言及することはなく、俺の意向に合わせて意見してくれた。
「というと?」
「簡単です。行き先を無理やり帝国のの港に向けてしまえばいいのです」
言われてみればその通りだ。
ゲリラ戦を挑む敵に付き合う必要は無い。
艦橋を占領してしまえば、この船の操船は、こちらの思うまま。
航海士達を従わせるだけで済む。
それに舵を奪ってしまえば、放っておいても敵の方から奪い返しに来るだろう。
そうしなければ、この船は奴らの目的地に着かない。
「それは名案だな」
艦橋は、外から見たところ最上階だ。
「各員聞け、艦橋を占領してこの船の行き先をキールに向ける。すぐに取り掛かるぞ」
休憩で弛緩した空気を一気に引き締める。
戦闘前の独特な高揚感に自然とグリップを握る手に力が入った。