白兵戦
爆発寸前まで手元に置いておいた手榴弾は、敵に逃亡のタイミングを与えずしっかりとドア付近に群がっていた敵兵達の間で爆発してくれた。
血生臭いの立ち込める通路には、さっきまで人だったなにかが散乱している。
俺とアナリーゼを除いて中隊メンバーはのきなみ顔をしかめているだろうな。
扉から覗く限りでは、通路に人影は見えない。
通路に面している部屋を一つずつ確かめないといけなそうだ。
見過ごして背後を取られたときどうなるかは言うまでもない。
「第三小隊、後ろを見てろ」
隠し通路ではないが通路の天井裏を伝って来る可能性は否定出来ないから九人のうち三人は、背後に備えさせる。
「了解」
短くこわばった返事が帰ってくる。
さて、まずは一部屋目だ。
部屋の扉の死角から思い切って蹴り開ける。
呼気の音さえも聞こえないのでそろりと中を覗く。
ここは空か……。
さらに次の部屋の様子を窺うがこちらも空だった。
「これは予想以上に手間がかかるかもしれませんわね」
俺がちょうど思ったことをアナリーゼが口にした。
一部屋一部屋しらみ潰しに敵を探してくとなると全長310メートルにもなる客船だ、1日かけたって終わる気がしない。
「他の中隊を呼ぶか」
人手を増やして対応するのが1番だろう。
「少佐、前方で通路が交差します」
アナリーゼが前方を銃身で指し示す。
俺が敵兵なら、間違いなく角で待ち伏せるだろうな。
相手の死角となるし、部屋のように逃げ場のない場所でもない。
退くことも可能な場所ーーーーーつまり待ち伏せするにはこの上ない場所なわけだ。
「確実にいるだろうな」
咳払いのひとつさえ聞こえてこないが、高確率で敵がいるだろう。
服に押し当て音を立てないように手榴弾のピンを抜く。
そしてそれを通路の交差する真ん中に投げ込んだ。
床に手榴弾が落ちて転げる乾いた音が響く。
その瞬間だーーーーー壁から人影が飛び出た。
壁から出た何者かの足が転がした手榴弾を蹴って遠ざけようとする。
「見つけましてよっ!」
俺の命令を待つまでもなくアナリーゼが引鉄を引いた。
その足は7.92×33mm弾の猛射を浴びて血を噴き上げる。
「ぐぉッ……!」
苦悶の声も合わせて響いた。
そして一人の男が交差する通路の死角から倒れでて自らの血溜まりに沈んだ。
「おい、しっかりしろっ!」
倒れた兵士を心配して死角から出てきた人影をさらにアナリーゼのMP43が物言わぬ屍へと変えてしまう。
「他にいるか!いるなら武器を捨てて投降しろ」
死角には、まだ人のいる雰囲気がある。
投降勧告を出すと武器を床に落とす音が聞こえてきた。
そして壁から震える手が出てきた。
武器を持ってないことのアピールだろう。
死角にいた敵が投降したのだ。
「そのままこちらに出てこい」
両の手を頭の後ろで組み抵抗の意思がないことを示す二人が廊下の死角から、恐る恐るといった足つきで廊下に出てきた。
「アナリーゼ中尉、適当に尋問し情報を収集しろ」
投降した二人に使い道を見つけた俺は、アナリーゼに尋問するように言うと、一旦休憩をとることにした。
こいつらから情報を得ればもっと効果的に、早くこの船を拿捕する方法が見つかるかもしれない。