クイーン・メリー
「第二、第三中隊は即時対応可能な態勢を維持し上空で待機しろ」
全長310メートルの巨大な客船クイーン・メリーに俺たちが今から行うのは前部甲板への着艦だ。
ヴァンダーファルケを装着した中隊が降り立ってもスペースが余るほどに広いだろう。
『第一中隊は、威嚇射撃を行いつつ着艦しろ』
R4Mロケット弾を残している機体が、客船の窓に対してロケット弾を撃ち込む。
それだけで、窓から様子を伺っていた敵兵は、黙り込んだ。
その間に着艦してヴァンダーファルケを外して機体背面のミッションパックに付けておいた歩兵装備を持つ。
具体的にはMP44(フルオートの突撃銃)と手榴弾だ。
船内は、狭くヴァンダーファルケを装着したまま、入っていくのが難しいため外さざるを得ないのだ。
「アナリーゼ中尉、勧告を」
こちらも白兵戦は望まない。
人的損失を出すようなことを進んでしたくはないからな。
「了解しました」
そう言って拡声器のスイッチを入れてこほんと咳払いをしたアナリーゼは、船員に聞き取りやすい声で話し出す。
「我々は帝国国防陸軍所属【第701試験戦闘団】である。イギリス軍輸送船クイーン・メリーは、現時刻をもって我々が接収する。この船は既に我が戦闘団によって包囲されている。乗組員は武装を解除し直ちに甲板へ上がることをお願いしたい。抵抗する場合は、容赦なく射殺する」
お願いと言いつつも、選択肢のない勧告をアナリーゼがし終えたとき、船内で散発的な銃声が突然響いた。
見る限りでは、こちらに向かって撃たれたものでは無い。
なら、船内でのものか。
理由は分からないが船内で銃を撃ったやつがいるらしい。
そして悲鳴じみた声が外にいる俺達にも聞こえてきた。
「どういうことかしら?」
アナリーゼもわけがわからないと困惑している。
しかし、その答えはすぐさま示された。
「聞きな!帝国のクソどもが!俺たちはお前らに投降するつもりは無い。この船が欲しいならその手で奪うんだな!」
窓を叩き割って一人の男がこちらに向かって、そう叫んだ。
白兵戦は、避けれなかったか……。
彼の言葉から察するに先程の銃声は、投降しようとした船員を撃った音だろう。
男はそう言い終わると、船内へと戻っていく。
それを逃す第二、第三中隊ではなかった。
数発の射撃音が響いた後、その男は窓からこちらに身を投げることとなった。
敵となってしまえば、容赦はしないということだ。
「どうやら、こちらから行くほか無さそうだ」
俺を除く第一中隊八名は既にMP44を手に持ち白兵戦の用意は出来ている。
ヴァンダーファルケを装備する俺たちは陸軍に所属しながらも編成は空軍を参考にしているから定数九名で一個中隊だ。
さすがに心許ないが、こうなった以上やるしかなぁだろう。
「手榴弾は、有効活用しろ」
言ってしまえば瞬間的な最大火力は、一人二個の手榴弾だ。
突撃銃はフルオートだが面での攻撃とはならない。
広範囲への攻撃が可能な手榴弾は、貴重だ。
上空で待機する第二、第三中隊を見上げると、シュナイダー中尉は、それで察してくれたか攻撃の指示を出した。
そして、船の周りに展開すると狙い構わず装備するライフルを撃ち始めた。
それに残弾のR4Mも混じる。
俺たちの突入への火力支援だ。
注意を空に向けさせ突入する第一中隊の被弾確率を下げるための対策だ。
「第一中隊、突入するぞ」
手榴弾のピンを抜いて正面と扉をあけると同時に中へと投げ込む。
ついに白兵戦の幕が上がった。