ベルト海峡海戦
雪の降るバルト海上空を援ポ船団撃沈の任務を受けて飛行している。
十一月ともなれば、さすがに冬将軍のお出ましで北欧は、雪に覆われ始めていた。
つい四日前まで総統暗殺計画であるオペレーションワルキューレに従事していた訳だが、端的に言えば計画は失敗した。
総統のいる作戦会議室が爆発した瞬間こそ見てはいたものの、爆弾はどういう訳か目標を殺すほどのダメージを与えることが出来なかったらしい。
この目で爆発を見ているからこそ信じれない話ではあるが……。
「あれが報告にあった船団か」
Fernglas 08を覗くと、ベルト海峡に進入しようする船団が見えた。
「えぇ、真ん中の大きな船がクイーン・メリーですわね」
アナリーゼの言う通り、海峡に進入してくる輪形陣の中央の船は、輸送船と言うよりかは客船らしい見た目だった。
「よく知ってるな」
「まだ父がいた頃、父に連れられてあれに乗って合衆国に行ったことがありました」
アナリーゼは、元は大きな商家の一人娘だ。
上級階層の乗る客船に乗るような機会があっても不思議じゃない。
「乗り心地は、どうだったんです?」
部隊内の誰かがそんな質問を送る。
敵前だと言うのに緊張感を感じさせないのは、この戦闘団のいいところだ。
緊張感で悲壮な顔面になっているのは、補充で入ってきた五人くらいだ。
というのもオペレーションワルキューレで俺とアナリーゼが戦闘団に不在の間、部隊はジークフリート戦線で友軍の撤退を支援するために連日戦闘を行っていた。
その中で、五機を消耗したために補充部隊から最も適正ある五人を抽出し補充したのだ。
「戦艦ビスマルク程度の速度がでます、もちろん海の旅は快適でしてよ」
戦艦ビスマルクは公表値で27ノット、テスト時は30.5ノットをたたき出した瞬足の戦艦だ。
「それは、随分と速いな」
客船としては、速い部類と言えるだろう。
だからこそ、援ポ船団に使用することに納得がいく。
理由は、帝国軍の哨戒網を速さでくぐり抜けるためだ。
哨戒網に見つかれば、如何に瞬足といえども航空機や潜水艦、駆逐艦に撃沈されてしまう可能性が高くなってしまう。
まぁ、今回に限ってはその哨戒網が機能出来てないのだが(連日の爆撃で潜水艦基地や沿岸のレーダー群、駆潜艇が撃沈されてしまった)……。
「情報部の人間には感謝ですわね」
今回の任務は、情報部が掴んだクイーン・メリーを含む船団がベルト海峡を通過するという情報に基づいて行動指針が策定されている。
情報部の情報無しには成立しえなかったのだ。
「それはそうと、護衛は駆逐艦だな」
クイーン・メリーを囲む輪形陣には、六隻の駆逐艦と四隻の駆潜艇がいる。
対空は、駆逐艦が担い対潜は駆潜艇が担うということなのだろう。
「武装が分かれば、対策も取りやすいんだがな……」
さすがにそこまで詳細な情報を知り得るわけもない。
ただ、双眼鏡越しに遠目に見た限りでは、連装砲が二基が確認できる。
それが六隻いるから全体で十二基二十四門。おそらくは速射可能な砲塔だろうから凡そ五秒程度の間隔で射撃が可能なはず。
単純計算すると二百八十八発が一分間に撃ち出される砲弾の数だ。
ユトランド沖のときほどではないにしろ濃厚な対空砲火を受けることは間違いない。
上空から挑みかかるのは愚策だろう。
まずやるべき事は、護衛の駆逐艦を黙らせることだ。
そして今回、新しく追加された新装備の実戦テストも兼ねている。
それを使うことも、今回の任務に含まれている。
新装備はグロスフスMG42機関銃に変わって搭載されたR4Mだ。
端的に言えばロケット弾で520 gのヘキソゲン炸薬を内蔵する直径五十五ミリの大型弾頭で重量は三キロ程度。ヴァンダーファルケの元となったMe262に搭載予定のものを実験するために今回の任務に装備することとなったのだ。
そもそも対戦車ライフルで艦船の相手をするのが大変なこともユトランド沖で実感していたしそれを報告書に書いて上に提出したから今回の新装備搭載の話が出たのだろう。
「各機に通達、濃密なら対空砲火が予測されるため攻撃は低空進入して行う。まずは護衛艦艇を黙らせるぞ。ロケット弾の搭載量は二発と少ない。無駄撃ちするなよ」
「了解!」
返事には、これからの戦闘への高揚感が滲み出ている。
いつも通り、士気は旺盛だな。
「よし、全隊突撃!」
リードを放された犬のように隼たちがエンジンをフルスロットルにして駆け出した。
ここから物語は後半戦に突入します。
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