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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
オペレーション【ワルキューレ】
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エルヴ救援



 「これで完全に露見しましたわ」


 アナリーゼ中尉は、四つ角に横たわる二つの骸を見てため息交じりに言った。

 俺達は、会食の場から去ったクルンハイム大佐とヴァルメ少佐の二人の後をつけてきたわけだが、あの二人がここまで早まった行動をするとは思わなかった。


 「仮に二人の行動目的が秘密警察ゲシュタポにバレていなかったとしても、その二人を尾行していた二人が行方をくらませたとなれば、露見は避けられないな」

 

 幾度となく総統暗殺を計画しそのすべてが未遂に終わっている国防軍だ。

 まず疑われるのは間違いない。


 「で、どうする?」


 正直言って頭が痛い話だ。

 計画は実行前から頓挫の気配が濃厚。

 下手をすれば俺達にも疑いの目は向くだろう。

 

 「とりあえず、このまま放置するのはよろしくないので彼らを何処かへ隠すべきだと思いますわ」


 アナリーゼは、そう言うや否や転がる二つの骸のうち軽そうな方の負傷部分に手早く布をかぶせて自分の服に血が付着しないようにしてから肩に担いだ。


 「予想より重いですわ」


 俺もそれを真似て肩に担ぎ上げる。

 いつ誰に見られるとも限らないから急いだほうが良さそうだ。


 「とりあえず空き家でも見つけて放り込むか」


 幸いなことに今は戦時だ。

 空き家などいくらでもあるだろう。

 家主が戦死したとか、家族で疎開しているとか親戚のもとに身を寄せているとか理由は様々だ。

 連合運の戦略爆撃機部隊の大陸進出は遅れており、この街は未だに爆撃の被害を受けていない。 

 なので灯火管制を敷いているというわけではなかった。

 

 「あそこの家は、明かりがついていません。おそらく空き家ですわ」


 玄関の戸口に立ってしばらく様子を覗うが中からは物音ひとつしない。


 「らしいな」


 空き家と判断して、なるべく音を立てないよう窓枠に沿って布を当てて窓を叩き割る。

 それから少し中の様子を覗うがやはり中からは物音一つしなかった。


 「完全に空き家だな」


 そう判断して、二つの亡骸を窓から家の中へと放り込む。

 そして即座にその場から去った。






 

 

 「前方の茂みに発砲炎を確認!!」

 「六時方向から迫撃砲と思しき発砲音!!」


 エルヴの街には、まだ日も昇らないうちから冷えた大気をつんざくような砲声が響いていた。


 「畜生、救援はまだかよっ!!」


 次々に砲弾が着弾しルクレルク通り沿った建物を瓦礫の山へと変えていく。

 リエージュやベルビエといった周辺の諸都市を占領した連合軍が姿を現したのだ。

 すでに連合軍はアーツェン付近まで進出しておりエルヴの街に立て籠もる帝国軍は完全に孤立していた。

 幾度かの降伏勧告を連合軍は送ってきたがそのすべてを帝国軍は蹴った。

 理由は単純。

 帝国の最高権力者である総統が、撤退を禁じ徹底抗戦を下令したからだ。

 しかし戦車二個中隊に歩兵一個連隊では、積極的戦闘を行うわけにはいかずエルヴの街に籠り続けることしかできなかった。

 

 「エンジン音、近づきます!!」


 十分な明るさが無くその正体を目で判別することはできなかったが、音だけでその場にいる全員が正体を把握することができた。


 「クッソ、何両いやがる……」


 すでに街に立て籠もる友軍の戦車部隊も砲身を迫る敵戦車部隊に向けて発砲のときを待っている。

 しかし、彼我の戦力差はどうあらがっても補えるほどではないほどに開いていた。

 

 「敵戦車、有効射程距離内に到達!!」


 距離が縮まるにつれ敵の陣容が明らかになりはじめた。

 今まで合衆国軍の主力戦車であったM4《シャーマン》に混じってみたことの無いシルエットが散見される。


 「新型までいるのか!!」


 M4《シャーマン》であれば、味方の戦車部隊の装備する砲であれば、十分に撃破可能であったがその戦車は違った。

 防盾に味方戦車の射弾が命中すると、火花を散らして弾いてみせた。


 「抜けないのか!?」


 すでに敵の戦車のうち数量のM4《シャーマン》が擱座や大破して行き足を止めていたが新型の戦車の前進を止めることはできていない。

 そして――――――


 「東より低空で侵入する航空機を確認!!」


 朝焼けの始まった空を背負って接近する黒い点が東の方角に見えた。 

 

 「今度は爆撃かよっ!!」

 「遮蔽物の陰に隠れてやり過ごせ!!」


 しかし低空で侵入する黒点からはレシプロ機特有のエンジン音は聞こえない。

 やがてその姿を視認できるまでの距離に近づいたとき兵士の誰かの漏らした声は、さざ波のようにあたりに広がった。


 「【救世主メシア】だ……」 


 


 



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