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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
オペレーション【ワルキューレ】
43/68

会食


 

 「お迎えにあがりました。お二方ともご乗車ください」


 フランクフルトの駅で汽車を降りたところでタイミングよく送迎の車が来た。

 運転手が手のひらのうちの黄色いカードを僅かに見せる。


 「子細はシュタウヘン少将から伺っております」


 彼もワルキューレ作戦を支える一人らしい。


 「あぁ、助かる」


 周囲の様子を覗ってみれば人垣に溶け込むように、しかし周囲とは異質な空気感を纏う男が二人いた。

 目線を合わせないよう直視は避ける。


 「秘密警察ゲシュタポがいますのね」


 アナリーゼも気付いていた。

 

 「何しろこの街の外れには、秘密警察長官のゲッペルスに総統閣下までいらっしゃるらしいので」


 尉官の軍服を纏った運転手が言った。


 「他のメンバーは大丈夫なのか?」


 俺達が作戦を決行するわけではないから俺達だけが無事にこの街に来れても意味はないのだ。


 「えぇ、すでにこの街に入っておられます」

 「なら一安心だ」


 秘密警察ゲシュタポの監視にさえ引っかからなければ、おそらく上手くいくはずだ。

 そのために何か月も費やして準備をしてきたことはシュタウヘンから聞いている。

 手帳に似せた小型爆弾の開発、作戦決行場所のアードラーホルストの見取り図の入手、総統をアードラーホルスト二留め置くための算段など、やることは多かったのだ。


 「奴らに勘繰りをされる前に車を出します」

 「そうしてくれ」


 俺とそう歳の変わらない青年尉官は、アクセルを踏み込んだ。 







 


 「アードラーホルストに向かうのは明後日となっております。本日は、こちらでアルブレヒト・メルツ・フォン・クイルンハイム大佐と会食を行う運びとなっています」


 車で向かったのは豪奢な外観の宿泊施設だった。

 そして俺達二人は、その一階部分にあるレストランで作戦を共に行う二人の人物と顔合わせを行うこととなった。

 運転手の青年尉官と別れた俺とアナリーゼはレストランに入ってそれらしい人物を探す。

 軍務中ではないので俺達は無論、相手も軍服は脱いでいるはずだ。

 それにこの会食が秘密警察ゲシュタポに露見することは防ぎたい。

 身分を隠すために私服を着ている必要があるのだ。

 相手も二人ということで二人連れの客を探す。

 後ろから肩をトントンとアナリーゼに叩かれた。


 「あれではなくて?」


 彼女の目線の方を見ると、アナリーゼが示した男が手招きをした。

 その男のテーブルは四人掛けであることからも間違いないだろう。


 「御足労願ってすまないね」


 鷹揚そうにアルブレヒト・メルツ・フォン・クイルンハイム大佐は言った。


 「いえ、任務ですので」

 「前線から離れたがどうだね?」


 部下を置いて後方勤務になることには後ろめたさのようなものを覚えたが、これも命令があってのことだから仕方ない。


 「汽車の中で、羽を伸ばせて旅行気分でした」


 当たり障りのないような答えを返す。


 「それは結構。で、横の女性が狂姫……失礼、アナリーゼ中尉だな?」


 狂姫と呼ぶことは失礼と思ったのか、クルンハイム大佐は言い直した。


 「はい。狂姫と呼んでくださっても構いませんわ」


 アナリーゼが軽く会釈をしながら言った。


 「しかし軍属にしておくにはもったいないな」


 言外に美しいとアナリーゼを褒めた。


 「恐縮ですわ」

 「大佐、時間もありませんのでそろそろ本題に移りませんと……」


 クルンハイム大佐の横に掛けていた男が遠慮がちに言った。


 「おっと、そうだな」


 クルンハイムは腕時計を見てから俺達に席に着くよう促した。

 そして居ずまいを正して言った。


 「基本は小官とヴァルメ少佐と二人で作戦行動をとる」


 俺の最大の関心事であることを見抜いたようにクルンハイム大佐は、話を切り出した。


 「なら俺とアナリーゼ中尉は何をすれば?」


 てっきり俺たち二人もアードラーホルストに侵入する物だとばかり思っていた。


 「4人で行動をすれば自ずと目立つでしょう。あなた方は私たちの退路を確保してさえくれれば問題ない」


 アードラーホルストには1200名の武装親衛隊が現在、総統の身辺警護のために駐留していると聞く。

 戦闘事態を避けるよう彼ら二人を逃がすというのは難しいかもしれない。


 「あなた方が下手人とバレてしまっている場合、どうするのです?」


 そうでああるならば戦闘は必須だ。


 「そのときは―――――想定しておくに越したことはないですが、信管が作動するまでには時間があります。その必要は無いだろう」


 クルンハイム大差は絶対の自信があるのか想定の必要は無い、と言った。


 「物事に絶対が無いことを、お忘れなきよう」


 思慮が足りないのでは?と思ったが相手は上官、努めて冷静に言葉を選んで注意する。


 「華々しい戦果を挙げる部隊の指揮官である少佐は、随分と慎重な方だな」


 臆病だ、とでも言いたげにクルンハイムは軽んじるような目でこちらを見た。

 華々しい戦果を挙げている、そのために必要なのが冷静さと慎重さなのだ。


 「アードラーホルストでの事が済んだら、どうなさるので?」


 その軽蔑に付き合う必要もないので話を進める。


 「緊急出動ワルキューレの発動を行い、ベンドラー街を占拠し、軍と政治の全権を掌握する」


 帝都ゲルマニアには国家権力のすべてが集中している。

 そこを押さえれば、もはや帝国を掌握したと言えるだろう。

 その点においては、時間が最重要だろうな。

 通信局、放送局を押さえることは急務だろう。


 「ささ、冷えないうちに食べるといい」


 一抹の不安を覚えながらも、その日はそれ以上その話題が切り出されることはなかった。

 


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