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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
ジークフリート戦線
40/68

激突ユトランド沖2



 『303号機、被弾!!』

 『307号機、撃墜!!』


 全速で敵輪形陣へと突入する第3、第4中隊のヴァンダーファルケ18機を敵の火箭が容赦なく襲う。

 合衆国海軍の新鋭空母『ランドルフ』『ベニントン』、連合王国海軍ロイヤルネイヴィーの空母『フォーミダブル』を守るべく放たれる火箭は、数限りない。

 3隻の空母を守るために輪形陣を組む連合王国海軍ロイヤルネイヴィーのダイドー級防空巡洋艦、ベローナ級軽巡洋艦の対空砲火は熾烈を極めている。

 ヴァンダーファルケが対空レーダーをかいくぐって接近してきたために発見が遅れ主砲による撃墜をすることはできなかったが、その遅れを取り戻そうとするように巡洋艦の機銃座は激しく火を噴く。

 40㎜弾が、20ミリ弾が次々と低高度から侵入するヴァンダーファルケに照準を合わせて放たれているのだ。


 『煙幕の使用許可を!!このままでは持ちません!!』


 第2中隊の指揮官だが今回は第3、第4中隊の指揮を任せている第701試験戦闘団の副官であるノルトマン・シュナイダー中尉が悲鳴にも似た声で言った。


 『今、使えば効果が十分になる前に使い切るぞ!!』

 『で、ですが……損害が』


 使うな、と言ったにも関わらず言い募るシュナイダー中尉に


 『今、使えば散った戦友の命が無駄になりましてよ?』


 アナリーゼ中尉が諭すように言った。

 階級は同じ中尉のアナリーゼ、そして部隊の指揮官であり上官の俺に言われればそれ以上、シュナイダーは言い募ろうとはしなかった。


 『了解……』

 

 突撃するヴァンダーファルケの1機が俺たちの眼下で爆発四散した。

 これで損害は3機目だ。

 つまり1個小隊が戦力として消えたことになる。

 これだけの機銃座に狙われているにも関わらず損害がたった3機と少ないのはヴァンダーファルケの被弾面積が少ないことに因るのだろう。

 

 『401号機、被弾!!』


 4機目の被撃墜は第4中隊の中隊長機だった。

 

 「ヴァイマン少尉が落ちましたわ」


 隣にいるアナリーゼは抑揚のない声音で淡々と事実を告げた。

 その抑揚のない声に、平時ならきっと俺は機嫌を悪くしていたかもしれない。

 味方の被撃墜に何も思わないのか、と。

 だが今は、それで良かった、むしろその声音の方が良かった。

 今は作戦行動中、そして俺は指揮官だ。

 感傷的になるわけにはいかなかった。

 気の迷いでも生まれてしまおうものならば、それは作戦行動のさまだげでしかない。


 「あぁ、わかっている」


 だから俺も淡々と返した。


 『発煙装置、起動せよ』


 シュナイダー中尉の声が、14機のパイロット達の復唱がヘッドセットから聞こえてくる。

 連合王国海軍ロイヤルネイヴィーのダイドー級防空巡洋艦、ベローナ級軽巡洋艦で構成された輪形陣に突入する少し手前、第3、第4中隊の残存機14機が一斉に煙幕を焚き始めた。

 

 『309号機、大破』

 『406号機、撃墜』


 その間にも数機のヴァンダーファルケたちが火箭に絡めとられていく。

 しかし各機の背負ったミッションパックに取り付けられたミッションパックから吐き出される煙幕は確実に巡洋艦の機銃に取りつき引鉄を引く機銃員たちの視界を悪化させていた。


 「少佐、南の方から友軍機が」


 アナリーゼが南の方角、つまり俺たちの来た方向を指し示す。

 友軍航空機部隊の機体は見えないまでもその音から距離が縮まっていることは分かった。


 「そろそろだな」


 視界を眼下に戻せば、第3、第4中隊は輪形陣を抜け離脱に移っていた。

 そして巡洋艦の舷側一杯に立ち込める煙幕。


 『第1、第2中隊各機、突撃せよ』


 スロットルを押し倒す。

 機体は急激に速力を得て海面がどんどん迫ってくる。

 高度計はフルスロットルにした高度500からあっという間に高度を下げ高度300を示していた。

 もう少しといったところか……。

 と、離脱するヴァンダーファルケに追いすがるように銃弾を浴びせていた機銃座が銃身をこちらに振り上げた。

 幾重にも立ち上る火箭は確かに熾烈なものだ。

 足がすくむほどに弾幕は濃密、しかし精度を欠いていた。

 先に低高度で煙幕を焚いた第3、第4中隊様様だな。

 自ら敵の弾幕に突入格好となった第1、第2中隊にも損害がで始めた。


 『106号機、撃墜』

 『203号機、撃墜』


 周囲で何機かのヴァンダーファルケが爆発を起こして散っていく。

 所詮、ヴァンダーファルケの装甲は小銃弾くらいにしか耐弾性能を発揮しない。

 20mmや40mmの対空機銃弾は、易々とヴァンダーファルケの装甲を貫き、パイロットを傷つけた。


 『108機、撃墜!!』


  パイロットを撃ち抜かれた機体は、煙をあげることも無く爆発することも無く、制御を失って墜落して行く。

 240……230……220……210……200……190―――――

 さっきまであれほどまでに早かった高度の低下が今はじれったい程に遅く感じられる。

 

 『208号機、撃墜』


 180……170……160……150―――――

 そろそろか――――――。


 『各機、スロットルを引いて高度を100に保ち、発煙装置を起動せよ!!』


 前に押し出されて寝ていたスロットルを思いきり手前に引く。

 わずかに機体がつんのめるような感覚があり加速一辺倒だった機体の速度が目に見えて減った。

 後ろに続く第1、第2中隊の各機も同様の動きをしていてすでに白い煙幕を放出し始めていた。


 『アナリーゼ中尉!!俺たちは、空母を目指すぞ』

 『了解、第2小隊は私に続きなさい』


 第1小隊、第2小隊の残存5機の搭載する発煙装置の煙幕は他の機体とは異なり着色されている。


 『第1小隊目標、敵空母1番艦、第2小隊目標、敵空母2番艦!!散開しろ』


 着色された煙幕で敵空母上空をマーキングするために5機のヴァンダーファルケは大きく散開した。


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