激突ユトランド沖
海面すれすれの低空飛行で36機のヴァンダーファルケが4つの集団に別れて北上していた。
バーニアから勢いよく噴射された空気が波を荒立てる。
「まもなく敵対空レーダーの探知範囲に入りますわ」
隣を飛ぶアナリーゼ中尉が敵の警戒範囲に入ったことを告げた。
「最悪、敵航空機との戦闘に備えたほうがいいかもしれないな」
レーダーに探知されにくい低高度を飛行、かつ探知されにくい大きさの機体ではあるのだが不安は拭えない。
敵の艦上機がF6Fであったとしてもヴァンダーファルケの二倍以上の速度を出せるわけで容易に振り切れるはずがなかった。
「反応が大きいほうに敵は引き寄せられるはずですわ」
中尉は後方に目線を向ける。
「そうだな。それもそれで目的達成のためには、どうかとは思うが……」
俺達、第701試験戦闘団の後方には第三航空艦隊、帝都防空艦隊の夜間戦闘機、重戦闘機、急降下爆機が距離をあけて追従している。
彼らには僅か18機程度の護衛戦闘機が随伴しているが、敵空母の艦載機数を考えれば、どの程度艦船攻撃機を守り通せるのかはわからない。
『前方上方よりエンジン音多数!!』
編隊を構成する機体のパイロットのうち誰かが気づいたのだろう、ヘッドセットに緊張感をにじませた声が響く。
第701試験戦闘団によるジークフリート戦線での損害を憂えた連合国軍が編成した隼狩り部隊―――――TF39の艦載機が、俺達を探してジークフリート戦線に向かうのだ。
「灯台下暗し、ですわね」
案外、近くに敵が迫っていることすら知らず遠方を索敵している敵が可笑しいのだろう、そう言って中尉はくすりと笑った。
幸いにしてTF39の艦載機部隊の針路は、後続の第3航空艦隊、帝都防空艦隊所属機の針路にぶつかることは無い。
つまり両者が会敵することは無いはずだ。
TF39の艦載機部隊はジークフリート戦線のある南西へ、友軍航空部隊は北へ向かう。
タイミングさえ問題なければ、こちらの部隊が発見される可能性はないだろうないだろう。
だが、敵を見つけた以上、燃料と作戦行動の都合上攻撃を仕掛けるわけにはいかないが友軍に伝達しておくべきだろう。
『こちらアドラー01、敵の航空機部隊の南下を確認。目標はジークフリート戦線と推定。敵航空機部隊の来襲に注意されたし』
『こちらアドラーシャンツェ、了解した。報告に感謝する』
作戦司令部との回線は無事に接続されていて問題なく通達することができた。
「少しは、役立ててもらえるといいですわね」
中尉が嘆息気味に言った。
目下、昼間戦闘機部隊は消耗を避けるため連合国軍の昼間爆撃の迎撃以外で稼働することは無い。
つまり、TF39の艦載機部隊の目標が地上目標となった場合、友軍地上部隊を守るものは何もないのだ。
陸軍部隊からは航空機支援の要請が空軍に出てはいるものの、連日の迎撃任務で欠員補充さえままならない空軍に、余力は無かった。
『前方に目標と思しき艦影を発見』
第一中隊よりも先を行く低高度侵入組の第3中隊、第4中隊から連絡が入る。
『第701試験戦闘団、全機に通達。無線封鎖を解除する』
敵からの補足を避けるために解除してきた無線封鎖を解除した。
『全機、速度最大。突撃隊形作れ!!』
スロットルを前に押し出し巡航速度以上の速度を得る。
それと同時に第1中隊、第2中隊を率いて高度を上げつつミッションパックに付属する増槽を投下した。
先を行く二個中隊を狙って敵の高角砲が、対空機銃が火を噴いた。
隼狩り部隊と隼による死闘が幕を開けたのだ。