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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
ジークフリート戦線
34/68

Frontline Ⅲ


 『大隊各位、もうすぐアーツェンの街だ。もう一度、任務について説明しておく。我々の主任務は司令部の防衛にある。したがって攻撃目標は、司令部を害する敵ということになる。対空戦車にくれぐれも気を付けるようにしろ』


 眼下には、敵軍の侵攻により荒らされた農地が広がる。

 遠くからは時折、砲声が混じって聞こえてくる。


 『了解!!』


 全パイロットからの復唱が返ってくる。


 「エルンハルト少佐、攻撃目標は敵すべてってことかしら?」


 指揮官であるエルンハルトの後ろを飛ぶ機体―――二番機のパイロットから質問が上がった。


 『アナリーゼ中尉、そういうことになるな』

 『昂りますわね』


 アナリーゼ中尉と呼ばれたパイロットは、軍隊では珍しく女性だ。

 珍しいというと語弊がある。

 帝国軍の東部戦線で戦闘を行っている敵国ロシャス連邦では、女性兵士もそれなりにいるという。

 女性のエースパイロットが生まれるくらいには―――――――連邦の軍隊には、女性がいるのだ。

 アナリーゼは、ニヤリと口角を吊り上げる。

 美しい容貌とプラチナブロンドのヘアには、どこか歪いびつで似つかわしくない笑い方だ。


 『中尉、俺たちの得物も残しといてくださいよ』


 ほかのパイロットたちの声が笑い声をあげた。


 『それは。あなたたちの頑張り次第ではなくて?』

 『中尉殿は、言ってくれますなぁ』


 また、笑いが起こる。

 前線将兵から漂う緊張感や悲壮感といったものは、影すらも見えないほどに感じることはない。


 『おしゃべりはそこまでだ』


 前方を見据えると数キロ先には、硝煙立ち込める半壊した街があった。


 『第2中隊は、残存兵の退路を開け。第3中隊、第4中隊は敵戦車部隊を叩き残る第1中隊は、敵歩兵戦力を削ぎ第3中隊、第4中隊の攻撃を容易ならしめる。俺に続け』 


 スロットルを前に押し出しエンジン出力を上げたヴァンダーファルケたちが各中隊ごとに中隊長機を先頭に各々の目標へと散開していく。


 『少佐、対空戦車は確認できなくてよ?』


 アナリーゼが、Fernglas 08(帝国軍の装備する双眼鏡)を覗きながらそう言った。


 『M19対空自走砲がいないならありがたい』


 M19対空自走砲とは、合衆国軍の装備する対空戦車で40㎜機関砲や12.7㎜重機関銃を装備している車両で、帝国空軍の難敵として戦線各地でその姿を目撃されている。


 『速度そのまま、機関銃をメインに索敵するぞ』








 ―――アーツェン司令部付近―――



 『二時方向、塀の向こうに敵機関銃を発見』

 『六時方向、小隊規模の敵歩兵確認』


 一か所にとどまることなく、飛行しながら敵にとっては絶望を帝国軍にとっては救済を施していく。


 「こっちに来たぞ、統制射撃、撃てぇっ!!」


 合衆国軍兵が、小隊規模で密集し一か所を狙う銃撃を行うが撃ち出された弾は、むなしく空を斬る。


 「良き的ですのね」


 プラチナブロンドの髪の女性兵士が歪な笑みとともに撃つ。

 その動作には、一切の躊躇もない。


 「おやすみなさいませ」


 撃ち出された弾は、狙い過たず兵士の頭を打ち抜く。

 いや、粉砕するといった方が正しいか。

 彼女の装備は、Eisenzaunというこの部隊の専用装備となっている新式の対戦車ライフル。

 撃ち出されるのは30㎜弾。

 脳漿をぶちまけたその兵士を見た周囲の兵士たちは恐怖で自分たちの小銃を撃つことさえ忘れた。


 『中尉、弾の無駄遣いはするな。機関銃の方を使え』


 対戦車ライフルは、携行弾数が少ない。

 それ故に、一発は貴重だ。


 「なら武器を換装する間に、これももらってくださらない?」


 彼女は、いくつかのStielhandgranate 24手榴弾を兵士たちに向かって落としていく。

 それの爆発範囲は10mほど。

 3秒の遅延時間で唖然とする兵士たちにできることはなく―――爆発。

 肉片をあたりにまき散らす。

 狂姫という二つ名を彼女が持つ理由のわかる行動だった。


 『こちら第3中隊、敵戦車部隊を全て沈黙させました。これより第4中隊と共に残敵掃討に移ります』


 劣勢だった守備隊も態勢を立て直したのか息を吹き返し街角のいたるところで合衆国軍部隊と銃撃戦を繰り広げていた。

 数で勝る合衆国軍歩兵を影が覆う。

 銃撃の手を休めてこちらを見上げた兵士の顔は絶望で満たされた。


 「くるなぁぁぁぁぁっ」


 銃を乱射しながら喚き散らす。

 投降しないか……。

 敵は白旗を上げるつもりは無さそうだ。

 そう思えば引鉄をひく指に躊躇いは生まれない。

 乾いた連射音が街角に冷たく響いた。

 そこに残されたのは、さっきまで人だった何かだ。

 そんな殺戮は、美しい街並みだったアーツェンの各所で見受けられた。

 市街地には、擱座した戦車が、燃える装甲車が頭を失った胴体が―――――いたるところに散乱していた。

 

 『投降する者以外は、射殺せよ』


 空き家に逃げ込もうと走る歩兵の行く手に落とされる手榴弾。

 上を見上げた瞬間に肉塊へと変わった歩兵。

 繰り広げられたのは数十分の殺戮。

 やがて街からは、銃声が止んだ。 


 『アーツェン司令部より前線将兵各員に通達、戦闘は収束した。至急、負傷兵の治療と部隊の再編成に当たられたし。併せて【救世主メシア】に神の祝福あれ』


 街を見下ろせば救護所が設営された中心部の教会を目指す疲れた背中があった。

 そしてその傍には、並べられた多数の骸もあった。

 胸の前で小さく十字を切り黙祷する。

 彼らの犠牲と引き換えに合衆国軍の攻勢は、とん挫したのだ。

 

 『戦闘団長より701試験戦闘団各位に通達、帰投する』


 


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