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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
ジークフリート戦線
31/68

FrontlineⅠ



 俺の知る限りでは、東部戦線の戦況は好転しているらしかった。

 燃料の備蓄を喪失したロシャス連邦軍は、帝国領マジャロルサーグへの侵攻作戦を停止せざるを得ない状況となり、戦局は帝国軍の優勢へと傾いた。

 司令部を失った南方軍に組織的抵抗を行うことはかなわず、混乱は周囲の戦線へと波及―――――総統命令により、帝国軍は第7軍団を基幹とした部隊を再編成しロムニ共和国へと再侵攻をかけ再び占領下に置いたという話だ。


 『まだまだ、戦争は長引きそうですね』


 眼下の森を見つめながら、第2中隊の指揮官であり第701試験戦闘団の副官であるノルトマン・シュナイダー中尉が物憂げな声で言った。


 『つまり、祖国を侵略する者たちに罪を償う機会を与えられるということですわね』


 もう一人の中尉であるアナリーゼ中尉は相変わらずだった。


 『そうだな、まだ俺達は入国審査を続ける必要がありそうだな』


 帝国はロムニ王国を再占領したことによって莫大な算出量を誇る油田を再び保持することになった。

 それは、国防軍総司令部の燃料面への不安を払拭し作戦立案への制限をなくした。

 

 『少佐、12時方向に不正入国する一団を発見しましてよ?』


 アナリーゼがFernglas 08(帝国軍の装備する双眼鏡)を覗きながら報告する。

 今、この戦闘団の担任戦区となっているのはヒュルトゲンの森だった。

 ヒュルトゲンの森はジークフリート戦線の南部で帝国軍が現在、攻撃を受けているアーヘンの南方にある。 

 密集した針葉樹林はわずかな道、軌跡や防火帯で分断されていて戦車や装甲車両を装備した機甲師団の行動を制限するにはうってつけの地形なのだが合衆国軍は、森に籠る帝国軍の5倍の戦力を投入していたため少しづつでは、あるが押されていた。

 もっとも合衆国軍も守備隊要塞、地雷敷設区域、有刺鉄線とブービートラップなどによってそれなりに屍の山を築いていた。

 さらには、開けた道を迫撃砲や火砲、対戦車砲などが射線におさめて機甲部隊を逼塞しながら狙っている。


 『規模は?』

 『戦車が15、輸送車両が10両といったところですわ』


 前線への支援部隊か……。


 『なら、彼らの祖国にお帰り願おう』

 『遺体としてですわね?』


 この森林では、味方部隊も敵の接近に気づきずらい。

 わずかな歩兵部隊でさえ、脅威になり得るので取り逃がすわけにはいかなかった。

 

 『第1中隊は、ライフルを第2中隊は、機関銃に装備を切り替えろ。残りの中隊は、周囲を索敵しろ』


 機関銃を装備することによって弾種の切り替えが可能になったこと作戦に幅を持つことができたのは昨日の暗黒の金曜日で確認が済んでいた。

 暗黒の金曜日というのは、連合国軍のブラックウォッチ(ロイヤル・ハイランド)連隊をホーゲルヘイデにおいて殲滅させた後、連合国軍の無線を傍受した際に含まれていた言葉だ。

 時間当たりの犠牲者数で言えば6月に連合国軍が行った史上最大の上陸作戦であるノルマン上陸作戦を上回るといっても過言ではない犠牲者数だった。


 『気づかれたらしいですわ』


 アナリーゼ中尉は、ライフルのスコープを覗きながら言った。

 俺も、スコープを覗いてみるとこちらを見上げて何かを騒いでいる敵兵を視界におさめた。

 

 『統制射撃でもされなければ、この隼に簡単に傷はつけられないだろうな』


 敵には、対空兵器が何一つとしてなかった。

 戦車に載っている車載機銃は、こちらから撃たれることを恐れてか誰も操作する戦車兵がいない。 

 固くハッチの中に籠ったままだ。


 『第1中隊、各個にて撃ち方始め。鉄の棺桶にしてやれ』


 敵の装備する戦車は、東部戦線で帝国軍の相手取る連邦軍の戦車ほど装甲は厚くない。

 一部には、重装甲の戦車を装備する部隊もいるがこんな不整地に投入されるはずはなかった。

 ただでさえ鈍い動きがさらに鈍くなり作戦行動の妨げになるからだ。

 引鉄を引けば、鋭い反動が手元に残る。

 それを補助アームが吸収し射撃精度を確かなものに変えていた。

 エンジングリルに命中すれば火柱を上げハッチに命中すれば、貫通し中にいる戦車兵を亡骸に変えた。

 次々に轟轟と音を立てて燃える鉄製の棺桶。

 発火しなかった戦車からは、乗員が中からハッチを開けて這い出してくる。

 散発的な歩兵の小銃による反撃はあるものの一方的なライフルの射撃を止めるには至らない。

 あっという間に、15両の戦車は動かぬ鉄塊に変わった。


 『撃ち方止め。第2中隊、掃討しろ』


 残された200余の歩兵に対して無慈悲の機関銃掃射。

 破壊された輸送車両を捨てて逃げだす敵歩兵。

 それを機関銃掃射の射弾が追う。

 

 『逃がしませんわ』


 アナリーゼが機関銃掃射から逃れた敵歩兵を30㎜弾で撃ち抜く。

 スコープ越しに脳漿が飛び散るのが見えた。

 狼が群れで得物を追い立てるような狩は、木々のまばらだったところから歩兵は鬱蒼とした茂みへと逃げ込んだところで終わった。


 『それ以上は、弾薬の無駄だ。撃ち方止め』


 戦果の確認はするまでもない。

 戦車や輸送車両は全て撃破。

 200余の歩兵は、半分以上が骸を晒していることから損害は5割以上は確定で判定は全滅といったところだろう。


 『第3、4中隊は、どうか?』


 索敵に出していた他の中隊に確認をとると状況は、こちらと変わりなかった。


 『敵の歩兵部隊を発見し全滅させました』

 『敵輸送部隊を殲滅を確認』


 小規模戦力との交戦(交戦といっても一方的な狩りだが)があったらしかった。


 『了解した。各隊はこれより補給地点07に集結しろ。補給を受けて任務を続行する』


 今日も空は陰鬱な曇りだった。

 霧が出れば、航空戦力にも該当するこの戦闘団は動けない。

 気象台は、ジークフリート戦線周辺の今後の気象予想を悪天候になると報じている。

 それまでに、なるべく多くの敵に出血を強いなければならない。

 

 

 

 


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