schwarz Freitag
いよいよ、東部戦線の次は西部戦線へ。
引き続きお付き合いよろしくお願いします。
――――――ウーンスドレヒト近郊――――――
帝国国防陸軍第15軍の守るブレスケンス・ポケット南面は血雨が降っていた。
『アードラー01より各員に通達、装甲師団のお出ましだ。ここで食い止めろ』
連合王国で樹立したポーリッシュ亡命政権が送り出した最精鋭の部隊、第1装甲師団が姿を現したのだ。
備え付けの機関銃を乱射しながら、戦車部隊が大挙してレオポルト運河を守るべく展開した友軍へと迫る。
連合王国製の戦車、合衆国製の戦車と部隊を構成する戦車は一体感がないが故国を取り返すべく戦いに身を投じる彼らの士気が盛んなのはわかった。
『機動遊撃だ!!』
各中隊ごとに纏まって飛行しながら地上の敵に対してひたすらにライフルの引き鉄を引く。
エンジングリルに命中した30㎜弾は、エンジンに火災を発生させた。
車両によっては、戦車のハッチを貫通するものある。
運河の中や岸では、打ち抜かれた戦車が行き足を止め鉄屑の山を築いていた。
『造作もありませんわね』
横を飛ぶアナリーゼ中尉が、興奮気味に無情の弾丸を撃ちだす。
ハッチの上に機銃を乗せた戦車もあるが、撃たれることを恐れてか、ハッチから顔を覗かす者はいない。
『少佐、もはや狩り場ですぜ?』
『こいつは、いいや。スコアを稼げる』
戦闘団の士気は、敵を容易に屠れるためか高い。
『一両でも多く削れ。ただ油断はするな』
形勢不利と判断したのか敵部隊が撤退を始めた。
渡り始めたばかりの運河から次々に退いていく。
堤防で動きが鈍くなった戦車も格好の得物だ。
そのエンジングリルを狙い撃ちにされ黒煙を上げ足を止める。
『前線の各部隊へ通達。友軍観測班より入電。敵の航空勢力の接近を観測した。繰り返す、敵の航空勢力を確認した』
ヘッドセットから聞こえた通信は、俺達に撤退を促すのには十分だった。
運河より西方はすでに連合国軍によって占拠されていて、この周辺で最も有力なウーンスドレヒト航空基地もすでにネーデルダンドの支配下にあった。
そこから敵の航空部隊が出撃したのだ。
『戦闘団各員、今のは聞いたな?低高度で一旦、戦場からの離脱を図る』
『了解!!』
敵の航空勢力とは、おそらく戦闘機部隊だ。
そう考えられる理由は、いくつかあって最前線の航空基地に当たるウーンスドレヒト航空基地周辺は、制空権をいまだに空軍と争っている状況下にある。
そんなところに、一機当たりの価値の高い爆撃機部隊は、展開させない。
もう一つは、この第701試験戦闘団の抑止になるのは、戦闘機部隊しかいないからだ。
西の空からは爆撃機に比べると、いくらか軽いエンジン音が響いている。
『進路を北にとる』
北には、連合国軍のブラックウォッチ(ロイヤル・ハイランド)連隊とカルガリー・ハイランダーズ連隊が展開しているはずだった。
2つの連隊ではあるが、その連隊を攻撃することの意味合いは大きい。
連合王国の加盟国のひとつであるトロント王国の部隊で北方からの侵攻の基幹部隊だからだ。
『歩兵刈りなのでしょうか?』
アナリーゼ中尉が、兵装を対戦車ライフルからグロスフスMG42機関銃に切り替えながらそう訊いてきた。
『そうなるな。流石に少し嫌か?』
対歩兵戦闘だと、ただ上空から機銃弾をばら撒く大量虐殺だ。
誰も望んで行いたいことではないだろう。
『いいえ、祖国を侵さんとする奴らを殺して回ることに躊躇いはありません。ただ……スコアにならないな、と思っただけですわ』
彼女にこういう面の心配をするのは無意味だったことを思い出した。
『そうだな。悪いがいくら殺してもスコアにはならない。戦略上、価値があるが時間価値で考えれば敵の爆撃機や戦闘機、装甲部隊を刈って回った方がよっぽどいいだろうな』
歩兵一人の価値なんてものは、その程度だ。
少数で戦況を変えることなどまずありえない。
それができたとしてもプロパガンダの映画の中だけだろう。
そんな事を話しているうちに、味方部隊へと攻撃を仕掛けている連隊規模の敵歩兵部隊を確認することができた。
『アードラー01より各員へ、兵装の転換は終わったか?』
西部戦線に派遣されるにあたってヴァンダーファルケには追加でグロスフスMG42機関銃が装備された。
歩兵に対して30㎜弾を撃つようならば、弾の金額が馬鹿にならないし携行弾数が少ないから効果が薄くなってしまう。
その点、小口径の機銃弾は効率が良かった。
『中尉、友軍に勧告しろ。一旦、掃除をするとな』
一番先に兵装転換を終えていたアナリーゼに命令を出す。
アナリーゼは、軽く咳ばらいをして告げた。
『第701戦闘団よりチル戦闘団へ要請。ホーゲルヘイデ地点03からの即時撤退を要請します』