weit Donner Ⅶ
「ここまで来ても敵の接触を受けないか……」
36機のヴァンダーファルケは一機も欠けることなくオデッサ市の上空へと達していた。
「敵とはいえ油断は感心しませんわ」
アナリーゼ中尉の言う通りで、港湾部にある監視塔からの探照灯は見受けられなかったし対空レーダーに察知されて迎撃戦闘機が上がってくるといったこともなかった。
「ここから、数百キロも戦線は離れてるのだから緩んでいても仕方のないことなのかもしれないな」
最新の装備、最新の機材は最前線行きだ。
無論、前線の損失を埋めることに充てられることだってある。
だから後方は基本的に装備や人材が充実していない。
「まもなく第一目標上空」
ヘッドセットに響く副官のノルトマン・シュナイダー中尉の声は、どこか緊張感を感じさせる。
「中尉、そう緊張するな。銃を撃って発火させるだけだ」
緊張感を持つことは、必要なことだが過度の緊張感は支障をきたすことにつながる。
わずかに明るい港湾部を抜けて暗闇に眼が慣れてきたころだ。
地上の様子も何となく把握するぐらいはできる。
数十両のトラック、貨物駅、貨車、燃料タンク。
どうやら第一目標の燃料集積地らしかった。
見渡す限り黒い円柱状のものが整然と並べられている。
「各機、どこでもいい。撃て」
燃料の入っているドラム缶に穴をあけて中の燃料を外へ出してしまう。
適度に燃料を周囲に撒いたら手榴弾を一つ落とすだけ。
普通に手榴弾で爆発を起こすだけでもいいがこの方が火の回りが早い。
乾いた銃声とともに30㎜弾が撃ちだされる。
それらは、次々にドラム缶の薄い側面を貫く。
そして勢いよく辺りに内容物が撒かれ始めた。
「撃ち方止め」
これ以上は、弾の無駄だろう。
あとは、火をつけるだけだ。
「各機、上昇するぞ」
燃料のにおいの充満する空気を引き裂いて上昇する。
気化した燃料にまで一瞬で火が回ったとしたら俺たちも巻き込まれてしまうだろう。
それを避けるための動作だ。
そのついでのように手榴弾を投下。
数秒の間を開けて爆発――――――火柱が轟音と共に上がり、周囲は真昼のような明るさになった。
そして、次々と引火が続き小爆発が立て続けに起きる。
「大きなキャンプファイヤーですわ」
アナリーゼ中尉は、愉し気な顔で足元を見下ろす。
「芋と肉でも持ってくればよかったか?」
携行食には、温める物がないからな。
そう言うと、笑いが起きた。
「追手がかかる前に次、行くぞ」
「了解!!」
次の第2目標がメインターゲットなのだ、ここで追手に捕まるわけにはいかなかった。