weit DonnerⅣ
「水上レーダーに感あり」
肉眼では、暗い海の上を進む味方艦艇を捉えることさえ難しいが、レーダーにはしっかりと味方艦艇も映り込んでいる。
「距離と数は?」
「距離22000、数4隻」
イオニア海までの制海権は、第16試験飛行隊によって奪取していたがそこから外の制海権は、とれていない。
「了解した。距離14000で30度に変針」
敵艦隊に先んじてT字を描くのだ。
それにより優位な態勢のまま数的不利を抱える敵艦隊に対し、一方的に射撃を集中させることになる。
「敵艦、増速」
レーダーマンの報告に対しソルダディ級駆逐艦「アルティリエーレ」艦長のアイヒマン・バルクホルン中佐が力強く頷いた。
「『タンホイザー』に下令、最大戦速。敵の気の変わらないうちに距離を詰めて叩く」
8隻のうち一個駆逐隊4隻が速度を上げて前方へと突っ走る。
騎士を意味するタンホイザーの言葉にも劣らない速度だ。
出し得る最大戦速は38ノット。
「レーダー射撃の命中精度を知っての突撃だろう」
西の海上を艦橋からアイヒマンは睨むがそこにはただ暗い海が横たわるだけだ。
レーダー射撃は、制度が良くないため距離を詰めての攻撃が一般的だ。
「敵との距離、14000!!」
「了解、『フライクーゲル』各艦一斉変針」
突撃中の一個駆逐隊も含め8隻が一斉に変針する。
先んじて突撃した一個駆逐隊を含め2つのT字を描いた。
「敵艦、変針。『タンホイザー』に引き付けられてます」
8隻を4隻ずつに分け敵と数を同じにしたため同数なら数的不利を補えると判断したのか敵は『タンホイザー』の進路へと変針する。
「『フライクーゲル』各艦、最大戦速!!敵の横っ腹に突撃する!!」
撃ち放たれた弾丸のように4隻の駆逐艦が夜の海を東に突き進む。
「『タンホイザー』より通信、我、攻撃を開始せり」
西の海域では、ところどころマズルフラッシュにより明るくなっていた。
そして明るくなったところには艦影が映し出される。
「各艦、右砲戦用意!!」
近づくにつれて敵の艦影が鮮明になる。
「そろそろだな。隠忍自重もここまでだ。砲撃始め!!」
右舷側の海面が炎を反射して赤く染まる。
ソルダディ級駆逐艦の搭載する主砲、50口径12cm Model1936 5門が一斉に射撃を開始したのだ。
砲撃音が耳朶を撃ち発射に伴う衝撃は艦体を突き上げる。
「レジオナリオ、ミトラリエーレ、ヴェリーテ撃ち方始めました」
各艦が2基の連装砲と1基の単装砲から発射炎を轟かせる。
「本艦の射弾が狭叉を得ました」
砲術の報告にアイヒマンは満足げな表情を見せた。
「一斉射目から狭叉を得たのなら十分だ。次は当てろよ」
最初の射撃から敵艦のそばに着弾させたのだ。
再び衝撃が駆け抜ける。
そして―――――敵駆逐艦から火柱が上がった。
撃ちだされた5発のうち1発が魚雷発射管に命中したのだ。
炸薬量の多い魚雷に命中すれば、駆逐艦はおろか巡洋艦であっても致命打だ。
「め、命中っ!!」
火柱を上げた敵艦は、そのまま折れるように海中へと没していく。
「目標、敵2番艦」
距離を詰めたことにより味方の駆逐艦による射撃は制度を増していた。
「敵艦、変針。一斉回頭の模様!!」
全滅を避けるためなのか3隻となった敵駆逐艦が一斉に踵を返した。
「逃すな、砲撃続行」
『タンホイザー』、『フライクーゲル』の8隻が食らいつくように撤退する敵駆逐艦の後を追う。
敵の駆逐艦よりもソルダディ級駆逐の方が優速なのだ。
8隻、40門から撃ちだされル射弾は、敵駆逐艦を2隻落伍させた。
「敵2番艦、行き足が止まりました」
「敵3番艦、沈黙」
しかし、突然「アルティリエーレ」に並走するような形で突撃していた「ヴェリーテ」が大爆発を起こした。
「ヴェリーテ、轟沈!!」
「どうなっている状況を知らせろ!!」
爆発四散というに等しい形で消えた「ヴェリーテ」の生存者は、望めない。
「わ、わかりません」
そのとき、見張り員とレーダーマンが同時に叫ぶように報告した。
「雷跡多数確認!!」
「新たな敵をレーダー上に確認。大型1、中型1、小型4!! 距離24000」
大型は、おそらく重巡洋艦で中型は軽巡洋艦、小型は駆逐艦だろう。
「24000からの砲撃は、まず当たらない。敵魚雷だ!!」
このタイミングでの魚雷到達からしておそらく3隻分の魚雷だ。
敵の駆逐艦のタイプまでは判然としないが一般的な王室海軍の駆逐艦なら53.3cm4連装魚雷発射管2基を搭載しているから単純計算で魚雷24本。
「各艦へ通達しろ。魚雷へ警戒しろとな」
アイヒマンは口角泡を飛ばして命令した。
「前方より雷跡4!!」
見張り員が報告した。
「艦首を立てろ!!」
艦首を立てることによって魚雷の被雷確率が下がる。
「雷跡、本艦の両脇を抜けました」
その報告にアイヒマンを含め艦橋内の全員が安堵の息を漏らす。
「引き続き、警戒を怠るな」
その後しばらくの間、7隻の駆逐艦には何の異変も起きなかったことでアイヒマンは魚雷を回避しきったと判断した。
「新たな敵との距離は?」
魚雷を避けている間に敵との距離は詰まっていた。
「距離、16000」
「了解した、『タンホイザー』、『フライクーゲル』の全艦に下令。右雷戦用意」
敵艦隊に対し転舵して右舷を向ける。
「魚雷発射始め!!」
駆逐艦7隻から合計42本の魚雷が放たれた。
「各艦、回頭。これより戦闘海域から離脱する」
これ以上的との距離を詰めては、今度は駆逐艦7隻が刈られる番になってしまう。
その場に留まり魚雷の命中を確認することなく7隻の駆逐艦は海域を後にしていく。
―――――――――意見募集―――――――――
タイトルを帝国語にして表記していますが
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