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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
東部戦線
17/68

erlöser.


 木々の間に潜んでいた6両の戦車の前方に多数のエンジン音が響いた。


 「敵戦車だ!!」

 「チッ、すでに俺らのロムニからの撤退に感づいて戦車を先行させてたのかよ」


 ロムニ共和国軍が、連邦軍に降伏したことによってロムニ共和国の国軍45万がそのまま敵となった。

 すでに同地の帝国軍司令部の機能は麻痺しており各部隊ごとの退却を余儀なくされていた彼らに組織的な後退戦を戦うことなどできなかった。

 

 『殿軍しんがりより本隊へ。我、敵部隊の接触を受く』


 通信機器に向かって6両を指揮する中隊長は、叫んだ。

 曇天の空の下、数千メートル先には多数の敵部隊が驀進してきていた。

 それは、獲物を逃さんとする肉食動物のように殿軍に牙をむいた。


 「距離3000になったら各個にて撃て」


 連邦の主力戦車T34よりも遠くから無慈悲の一撃を浴びせるティーガーの名を冠された戦車。

 その攻撃は絶対で、しかし圧倒的に数が不足していた。

 砲塔を貫通し中で砲弾が誘爆したのか数量のT34が火柱を上げる。

 履帯に被弾した戦車はその場で擱座した。

 それでもT34は、止まらない。

 それどころか、丘を乗り越えてきた新手のT34が続々と姿を現した。


 「こいつら、どんだけ湧いて出る!?」


 T34が、有効弾を一発出すまでに数量のT34が鉄屑と化す。

 しかし数に任せた敵は、前進を止めない。

 6両の帝国軍戦車とT34の彼我の距離は、どんどん縮まっていく。

 距離が詰まれば、砲の貫通力において劣るT34も確実に痛打を帝国軍戦車に与え始めた。

 一両が大破し、一両がエンジンに被弾し火達磨となる。

 やがて6両は奔流に飲み込まれるように姿を消した。

 

 


 


 30余両の戦車とそれに守られるように数十台のハーフトラックが土煙を上げながら街道を何かに追われるように後方を警戒しつつ西へと急いでいた。

 それは、撤退中の帝国軍の一部隊だ。

 ハーフトラックに乗せられた兵士達は、疲労の色濃く負傷している者も多い。

 紛れもなく敗残の姿だった。


 随伴する戦車にも激戦の名残りのある車両も見受けられた。

 しかし、そのエンジン音は高らかに響き未だに確かな力を有していることを示していた。

 ティーガーパンサー

 獰猛な、肉食動物の名を冠した二種の戦車は、まだ健在だ。


 『大隊長より通達、殿軍しんがりの部隊が、接敵した。第1小隊、第2小隊以外の各隊は、反転し殿軍の救援に向かう』


 殿軍の支援要請を受けた戦車部隊指揮官がそう下令する。

 歩兵を乗せたハーフトラックに随伴する2個小隊を残して定数を大きく割り込んだ大隊が反転していく。


 『両小隊は、第3装甲軍との合流を目指せ』


 第3装甲軍も彼ら同様、撤退中の部隊だが周囲にいる味方部隊では最も有力な部隊だった。


 『了解―――。中佐、ご武運を祈ります』


 返ってくるのは了承と、別れの言葉。

 30両にも満たない大隊が、味方の救援へと死へと急いでいく。

 

 『なに、またどこかで会うさ』


 ヘッドセットに残された声の意味を誰もが分かっていた。





 4両の戦車が守るハーフトラックの上空を4つの編隊が高速で西へと向かっていく。


 「敵機!!」


 誰かの叫び声に反応したのか多くの者が空を見上げる。


 「いや、違うぞっ!!翼に鉄十字の模様があるぞ!!」

 「ほんとだ!! ならあれは味方なのか!?」

 「いや、あんな機体は知らないし聞いたこともない」


 前線の将兵たちにその機体を知る者は誰もいない。

 しかし味方であることは確からしく帝国の紋章たる鉄十字の付いたその機体は攻撃してくることなく真っすぐ西へと向かっていく。

 やがてハーフトラックに乗ってあるいは徒歩で撤退していく彼らの耳に爆撃機のエンジン音が聞こえた。


 「これは、爆撃機の音じゃないか?」

 「俺らには対空戦車もないんだぞ!?」


 彼らは、最悪の場合を考えたのか呆然としたまなざしを東の空へと向けた。

 すると、爆撃機のエンジン音に呼応するように謎の機体たちが高度を上げていく。


 「あれは、味方だ」

 「俺らを助けに来てくれたんだ」

 「がんばれよ!! 戦友!!」


 粛々と撤退していた彼らが喚声に沸く。

 遠くでは、火を噴いて落ちていく敵爆撃機の姿がいくつも見受けられた。


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