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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
701戦闘団始動
12/68

少佐任官



 4月に入り、寒さも和らいできたが帝国軍の緊張感は暖かな春とは真逆で逼迫の度合いを増していた。

 帝都郊外のヴュンスドルフに設けられた地下ブンカー(航空攻撃から避難するためのシェルター)に車を飛ばす。

 秘匿呼称StahlBirdmanの開発が三月末で終了し生産できる状態になったため俺は、テストパイロットの任を終えたのだ。

 爆撃機の迎撃が可能であることを示したために、陸軍だけではなく空軍ルフトバッフェからも早期の生産開始を要求する声が上がっていて親衛隊への配備も検討されているらしいという話も風の噂に聞いた。

 歩哨に自分のケンカルテを渡すと敬礼して中へと通された。

 呼び出し人は無論、フリードリヒ・フォン・シュタウヘン少将だ。

 コンクリートの通路を歩いて少将の私室へと向かう。

 重厚感のある木製の扉をノックすると中から声が聞こえた。


 「大尉か?」

 「レーベレヒト・エルンハルト大尉であります」

 「入れ」


 中から、鍵が開けられるる音がしたかと思うと扉が開けられた。


 「コーヒーか?紅茶か?」

 「コーヒーで」


 椅子に腰かけてしばらく待っていると、やがてふくよかな匂いが部屋に漂った。

 

 「連合王国が羨ましいな。コーヒーも紅茶も両方の産地がかの国の植民地だ」


 冗談めかして少将は、そう言うとトレーに載せてコーヒーカップをテーブルに置いた。


 「君のおかげで、開発もはかどったようで何よりだ。MAN社やメッサーシュミット社から爆撃機の脅威より守ってくれたことに感謝するとの声も届いてきた。流石といったところだな」

 「お褒めに預かり光栄です」


 少将は、引き出しの中から封筒を一つ取り出して机の上に置いた。


 「これには、秘匿呼称StahlBirdmanの今後に関する重要事項が記載されているので目を通してほしい」


 封筒を受け取り中の書類を手に取った。

 秘匿呼称StahlBirdmanは、4月より50機ほどの試験配備分が生産され運用状況に合わせて増備していくとある。

 さらに読み進めていくと、大隊規模の試験部隊を創設し実戦投入し効果を確かめるとあり最後に部隊の指揮官を――――――レーベレヒト・エルンハルト少佐とすると書かれていた。


 「これは……?」

 

 状況がうまく呑み込めず、少将に思わず訊き返す。


 「試験飛行中の機体であるにもかかわらず爆撃機から重要な工場を守ったことを材料に人事局に話をつけておいた。昇進おめでとう。エルンハルト少佐」


 俺が、試験部隊の部隊長に?

 まだ、実感がわかなかった。

 今まで俺が預かってきたのは、せいぜい小隊くらいまでで大隊といえば、その9倍から12倍の規模だ。


 「人事局は、もはや形骸化しているとはいえ、尉官から佐官への昇進だ。試験部隊を編成するにあたって実に都合のいいタイミングで爆撃機撃墜の功があって助かった。無論、なければ無理矢理にでも話を押し通すだけだがな。体裁を考えると何かしらの功があった方がいい」


 そもそもテストパイロットの話をしてきたときから少将はそのつもりだったのだろう。


 「この話、断るはずはあるまい?」


 責任は大きくなるが、俸給は上がる、特段の文句はなかった。

 結婚していて家族がいるわけではないが俺には一応、養っている人間がいる。


 「試験部隊指揮官の大任、謹んで拝命いたします」


 そう言うと少将は、満足げな笑みを浮かべた。


 「質問をよろしいでしょうか?」


 一つ、気になることがあった。


 「構わん」

 「では一つ。部隊の編制状況はどうなっているのでしょうか?」


 少将は、執務用の机に重ねられていた書類の中から紙の束を抜き出して持ってくると俺の前に広げた。

 その束は全て部隊の兵士のヴェアパスの写しだった。


 「部隊は、宣伝プロパガンダの側面もあり女性もいる」


 そう言って二枚を取り出す。

 片方は、帝都にある劇団の顔の知れた女優だった。


 「8月からの試験配備を想定しているため部隊に用意された訓練時間も3か月余りと短い。が、その分燃料は黒海経由で必要なだけ回すよう手筈は整えておいた。いろいろ余裕がなくて申し訳ない」


 物資や資金、そして燃料に余裕がないのは知っていた。

 

 「それだけ用意していただけるのなら、おそらく問題はありません。可能な限り練度を上げて戦闘への備えをしたいと思います」

 「本当に申し訳ない。が、帝国にはもう余裕がないのだ」


 街の様子を見ていれば、兵士の顔ぶれを見ていれば、それはよくわかることだった。

 街は、賑わいをなくし兵士は、気付けば若いのと老いたのが目立つ。


 「重々承知しております」


 そうか……と言うと少将はコーヒーを飲み干した。


 「一つ書面になかったことだが少佐は、このフリードリヒ・フォン・シュタウヘン少将の直属になる。したがって試験部隊も同様だ。よろしく頼むぞ」

 「よろしくお願いします」


 固い握手を交わした。

 

 「それと少佐は、これから3日の休養だ。東部に出発する前にいろいろ買い足して置くといい。向こうじゃこっちのバイエルンワインは手に入らないからな」


 部隊の訓練は、マジャロルサーグ王国に展開する比較的有力な帝国軍第7軍団のもとで行われる。

 部隊の実戦投入は8月からとなっているので東部から西部に転属があるとしてもしばらくは本国に帰ってこれそうにない。

 その前にあっておきたい人がいた。


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