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蒼空の鉄騎兵―斜陽の戦線にて―  作者: Karabiner
701戦闘団始動
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接敵 2



 ようやく戦場に着いたか……。

 爆撃機は、味方機に上下の反復攻撃を仕掛けられ梯団コンバットボックスが乱れている。

 崩れた梯団が4つ―――10機程度で組んでいただろうそれは、すでに跡形はなくただただ執拗な攻撃を耐え忍んでいるといった姿だ。

 しかし、味方の迎撃をかいくぐってくる敵爆撃機もいた。

 

  『1つ目の梯団の2機を取り逃がした。手の空いている小隊はあるか!?撃墜を頼むっ』


 邀撃部隊の指揮官の要請が、ヘッドセットに響くがそれに答えれる小隊は、いない。

 俺が、迎撃するというべきか……。

 通信のチャンネルは、すでに迎撃部隊の周波数に合わせてある。


 『こちら、レーベレヒト・エルンハルト大尉。その2機の撃墜は、小官が引き受ける』


 本当は、部隊名も名乗らないといけないのだが、あいにく今の俺はどこの部隊にも所属していない状態だ。

 

 『エルンハルト大尉、貴官の所属は!?』

 

 やはり、所属を聞いてきたか……。


 『今は、どこにも所属していない。いて言うならメッサーシュミット社で新兵器のテストパイロットをしている』


 唸る声が、ヘッドセット越しに聞こえてきた。

 おそらく俺の実力が単機で爆撃機2機を落とすことができるのか、ということについて考えているのだろう。

 実力を示せるものがあれば―――。

 そう考えたときに頭をよぎったのはバトル・オブ・ブリテンの記憶だ。

 

 「『小官はもともと第2航空艦隊所属の戦闘機パイロットでした。バトル・オブ・ブリテンでの公認の撃墜数は、12機』


 12機という数字は、当時のJG52(第52戦闘航空団)のエースパイロットであるエーリヒ・ハルトマン、ゲルハルト・バルクホルン、ギュンター・ラルらには及ばないが、十分多いと言える数だ。


 『バトル・オブ・ブリテンで12機……。力量を疑うような真似をして済まない。こちらの撃ち漏らした機体の処理をお願いしたい』


 指揮官の態度は、先程までと打って変わった。

 軍隊とは、集団での戦果は無論とこと、個人の技量も重視される社会だ。


 「了解した」


 この機体の想定する攻撃目標は、戦車になっているため装備しているのはEisenzaunという新式の対戦車ライフルだった。

 このライフルは、大口径かつ高威力で既存のライフルが貫通できる装甲が距離300mで30mm弱であったのに対して同じ距離300mでは55㎜を貫通することができる。

 機構には無反動砲の原理が用いられ、その正確性や反動の削減といった点についてもしっかりと考慮されている兵器だ。

 ただし、重量が非常に大きいため歩兵による運用は不可能となってしまっている。

 スコープを覗き、レティクル板のターゲットドットを敵爆撃機に合わせる。

 狙いは、エンジンと行きたいところだが翼の元の部分が、面積が大きく狙いやすい。

 少し偏差を考慮して位置を調整する。

 爆撃機の飛行高度より500m高い高度にいる俺には、薄雲を挟んでいるためか爆撃機の機銃座は気付いていないらしく撃ってこない。

 あるいは、友軍邀撃部隊への対応に忙しくこちらに構う余裕もないのか。

 静止状態で、音も出していないしそもそも500mも離れた位置にいては、やはり気付かれていないだけなのかもしれない。

 彼我の距離は、もう少しで有効射程距離の500mとなるぐらいだろうか。

 冬の大気でよく冷やされた引鉄に指を掛け照準をもう一度確認し力をかけて引いた。

 そして―――あたりの空気を振るわせて弾が撃ち出される。

 無反動砲の仕組みを取り入れたライフルは作用反作用則により反動をガス圧で相殺するためにブレが少なく精度が高い。

 やや、射撃間隔は遅めなものの、この運用方法ならなんら問題はなかった。

 撃ち出された30mm弾は、狙い過たず翼の元の部分に着弾。

 スコープ越しに、破片が散るのが見えた。

 そして骨子に上手く当たったのか、翼が根元から折れ爆撃機は錐揉み状に堕ちていく。

 しかし、いつまでもそれを見ている暇はない。

 二機目がすでに射程に入ろうとしていた。

 狙いは、先程の機体と同じ翼の基部。

 ターゲットドットを偏差を考慮して合わせ、引き金を引く。

 乾いた射撃音が次の瞬間、鈍い爆発音に変わった。

 少し、狙いがずれて着弾したのは、どうやらエンジンらしかった。

 機体の片翼が爆砕して、先程の機体を追うように墜ちていった。


 『大尉、3機がそちらに向かう!!』


 邀撃隊の撃ち漏らしたのだろう3機がこちらに向かってきていた。


 『了解』


 先程の2機と同じように、翼の基部に狙いをつけて立て続けに撃墜した。

 が、3機目に照準を合わせたときにはさすがに距離がなかった。

 スコープの中いっぱいに映る爆撃機。

 と、機銃座がさすがにこちらの存在に気づいたらしく大量の弾を撃ち出してきた。

 とっさの判断で、スロットルを押し出し射線を切り上昇する。

 それに追いすがるように火箭が伸びる。

 かろうじて、射弾を躱すが安心できる状態ではない。

 

 「くっ……」


 早く墜とさねば、こちらがられる。

 照準をつける場所を選んでる余裕はない。

 爆撃機がターゲットドットに重なったところで引き金を引く。

 爆発四散する光景を想像したがそれは起きない。

 致命打には、ならなかったのだ。

 

 「っつ……」


 機銃座の射線から逃れるべく、反転し下降へと転じる。

 下降する方が速度が出て敵弾を振り切れるはずだからだ。

 爆撃機の方が、この機体より速度が出るために爆撃機に追い抜かされる。

 そして爆撃機と同じ高度になり、後方に位置するため機銃座の死角に入ることができた。

 このチャンスをものにしてみせる。


 『墜ちろ―――空の要塞』

 ターゲットドットを爆撃機のエンジンに合わせ、引き金を引く。

 スコープ越しに、エンジンカウリングから破片が飛び散ったのが分かった。

 そして、しばらくするとボンっという音ともにエンジンが火を噴き、黒煙をひきながら高度を下げていった。

 白い落下傘が浮かんだ―――自動消火装置による消火では、どうにもならないことを悟ってクルーは機体を捨てたのだろう。


 『大尉!!2機がそちらに向かった!!』


 ハッと後方を振り向くと、二機の爆撃機がこちらへと猛速で突っ込んできていた。

 照準を合わせ、引き金を引く―――が、弾が撃ち出されることはなかった。

 

 『小官は、弾切れです』


 装填発数は、6発。

 それに加えて、テストフライトだったために予備弾倉は持ち合わせていなかった。

 弾をすべて撃ち尽くしたのだ。

 爆撃機が通り抜けていく。

 後方からは、アウスブルクの街を守ろうとする対空砲の音が冬の冷え切った大気をつんざく様にに殷々と《いんいん》響いていた。


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