第二節
以前と同じ大型ショッピングモールは、相も変わらずクリスマスムード一色だ。
ケーキ屋さんではクリスマスケーキの予約をする客がいて、雑貨屋ではサンタのコスプレ衣装を選別する客がいて、目的はなくともただ歩いているカップルなんかもいて、とにかくどこを見ても皆がクリスマスを楽しみにしていることがよくわかった。
類に漏れず、僕もクリスマスを楽しみにしている。
そう考えると、そのクリスマスムード一色というものの風景の一環に僕もいるという事になる。
「今年は去年よりも盛大にしたいなぁ。」
隣を歩く大輔が独り言のようにつぶやく。
僕はそれを独り言だと勝手に解釈して、無視する。
そのまましばらく無言で散策していた。
親友ともなると、無言の時間は苦にはならないのだ。
五分ほど経った頃、大輔が何かを閃いたように「あっ」と言った。
僕はとりあえずその言葉を拾って「どうした?」と声をかける。
すると、大輔は「いい事を思いついたぜ」と、不敵に笑った。
こいつがこう言う笑みを浮かべる時はろくな事にならない。
なんだか嫌な予感がした。
「今年のクリスマスはさ、俺カップルとお前カップルでダブルデートしないか?」
「あー。そうだな。それもいいかもな」
結局、この日は昨年と同様に二人とも彼女へのクリスマスプレゼントを買い、帰路についた。
大輔の提案は一旦保留にしておいた。
僕が一人で勝手に決めてしまうのは申し訳ないと思ったからだ。
大輔を家まで送った後、僕は近くのコンビニに車を止め、携帯電話の電話帳を開いた。
そして、愛する恋人の名前を探し出し、『 菱野加奈 』という名前が見えたところで画面のスライドをやめる。
時刻は夜の九時過ぎだ。
あまり電話をかけて良い時間ではないが、夜中というわけではないから、気にせずにコールボタンを押した。
二コール以内に加奈さんは電話に出てくれた。
加奈さんはいつも、電話をかければすぐに出てくれる。
寝ていない限り。
マメで真面目な彼女らしい。
『 もしもし? 』という彼女の可愛らしい声が耳に届く。
あぁ。僕は今ものすごく幸せだ。
憧れていた加奈さんと恋人関係になり、こうして電話を通して会話をすることができるようになったからだ。
「もしもし? 急にかけてごめんね。大丈夫だった?」
謝ると、気にしなくていいよと加奈さんは言った。
彼女の優しさを噛み締めながら、僕は単刀直入に聞く。
「突然なんだけどさ、なんか大輔がクリスマスにダブルデートしようって誘ってきたんだよ。どうする?」
『うーん。まぁ、いいんじゃない?』
あっさりとした加奈さんの返事で、僕らはクリスマスにダブルデートをすることになった。
後になって考えてみれば、大輔のこの提案が僕の長い長い苦しみの原因になっていたのかもしれない。