第三節
あれからまた三年が経った。
僕たちは同じ高校に進学し、三年間を同じクラスで過ごした。
加奈の受ける高校と同じレベルの高校を受けるのは無謀だと、中学三年の時に担任の森本先生に言われた。
僕自身も無謀だと思っていたけれど、死に物狂いで勉強をしてギリギリだけれど合格することができた。
合格発表の時、二人とも合格できたのだと知った時は互いに体を抱き寄せて柄にもなく大きな声を出して喜んだ。
周りの目は白かったけれど、嬉しかったのだから仕方がない。
ガタガタとバスに揺られながら、僕は車窓を流れる街並みを眺める。
「飴、食べる?」
肩をつつきながら加奈が聞いてくる。
「何味?」
「ハッカ」
食い気味に答える加奈に思わず笑みが零れる。
「ハッカ味、好きだよね」
「うん。美味しいからね」
加奈は嬉しそうにハッカ味だけ残してあるサクマドロップスの缶を眺める。
そんな加奈の横顔を見ると、僕は幸せな気持ちで満たされた。
これが………………僕の求めた幸せの一部だ。
「じゃあありがたく貰うよ」
「うん」
手渡された飴を舐め、再び外の風景に視線を向ける。
どんどんバスは山を登って行き、見える景色は木々や雑草が多くなっていった。
街が見えなくなるわけではないが、その姿は徐々に小さくなってゆく。
緑の葉をつける木々にまだ蝉の姿は見えない。
「あれからもう三年も経つんだよね」
相変わらず缶を見つめながら、加奈がポツリと言葉を零した。
僕はそれに答えない。
「どうして……大輔だったのかな」
震える声に胸が締め付けられる。
あの時、駅のホームで加奈は昔の話をされることを嫌がっていた。
でも、きっとそれは昔の恥ずかしい記憶を掘り返されるのを嫌がっていたんじゃなくて、加奈が大輔に抱いていた綺麗な感情を馬鹿にされてしまうことを嫌がっていたんだ。
そして、加奈は今もその感情を大切に大切に抱きかかえている。
その対象が大輔から僕に動くことはない。
あくまでも僕が勝手に感じていることだけれど、あながち間違っているわけではないのだと思う。
僕が加奈に返す言葉を探していると、バスの運転手がアナウンスを開始した。
僕は降車ボタンを押して「ほら、そんな顔を大輔には見せられないでしょ」と瞳に浮かべた涙を拭くように言った。
今年も、僕たちは大輔の墓参りにやってきた。
別に二人で話し合って決めたとかではないけれど、僕たちは年に一回、大輔の命日にだけ大輔の墓参りに訪れている。
さらに言えば、僕たちはこの日以外、会話の中で大輔の話を出すことを無意識に避けている。
多分、互いに互いを気遣ってのことなのだろうけど、その気遣いが逆に息苦しい。
僕も加奈も、互いの事をそんなに気を遣わないといけない相手だと思っているのだろうか。
そう考えてしまう。
バスを降り、何百もの墓石が並ぶ共同墓地に入っていく。
駐車場にライムグリーンの車が一台止められているだけで、人の気配は全くなかった。
最下段の一番右端にある墓石に水をかけ、供えられた花を取り替えて加奈と二人並んで手をあわせる。
なぁ、大輔。
俺、どこで引き返せばよかったかな?
そんな事を聞いたところで返事はない。
しばらく、風が静かに木々を揺らす音だけを聞いていた。
聞こえてくるのはその音と隣から聞こえてくる加奈の息遣いだけだ。
「行くよ」
僕の袖口をクイッと引っ張る加奈に連れられ、僕たちは共同墓地を後にした。




