第二節
大輔の葬式は、アイツらしく快晴の下で行われた。
葬儀は大輔の親戚と僕と加奈だけが呼ばれた。
身内だけの葬儀みたいなものだ。
本来なら火葬場の大きな装置で焼く前に死者の顔を見せてもらえるのだが、死体の状態があまりにも酷く、僕たちは最後に大輔の顔を目に焼き付ける事をさせてもらえなかった。
大輔が死んだ理由は事故だ。
大輔は、事故死した。
僕の力の存在を無視して語るのであれば……だけれど。
修学旅行の最中。
僕が死を身近に感じたその場所で、バランスを崩したサラリーマンに背を押されてアナウンスの鳴り響く駅構内から線路上へと大輔は落ちた。
なんともタイミング悪く、その直後に電車はやってきて……大輔は……。
奇しくも、それは僕が最初に人間を殺した時と同じような状況だった。
時と場所は異なるものの、混雑した駅のホームで並ぶ列を押しのける人間がいて、その結果として最前列の人間が駅のホームから線路上へと押し出されてしまう。
流石に奇妙な運命のようなものを、意地悪な運命のようなものを疑わずにはいられない。
中学のセーラー服に身を包み、加奈は瞳から涙を零す。
泣きじゃくることはしなかった。
ただ静かに、瞳から涙の筋を作るのみ。
その溢れる水滴を拭うことすらしなかった。
僕は、そんな加奈に優しい言葉をかけてあげられるような資格を持ち合わせていなかった。
随分と薄情な事に、僕は一言も話すことなく、涙の一滴を流すことすらなく静かにその場をやり過ごした。
何故だろう。
大輔を殺すことは目的を達成するために必要な一手だった。
そのはずなのに、僕はその一手をしっかりとこなしたはずだったのに。
何故だか素直に喜べない。
僕は、これで本当に幸せになれるのだろうか。
いや、なれるはずだ。
そうじゃあないと、旅路の果てに幸せが待っていないと、僕は僕自身を許せない。
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葬儀から一週間後。
僕は加奈に告白をした。
「好きです」
だなんて、ものすごくシンプルな言葉で気持ちを伝えた。
加奈は僕に笑顔を見せることなく、いつも通りの清ましたような顔で「私も」と言った。
こうして僕たちは恋人同士になった。
嬉しかったけれど、なんだか加奈の寂しさに付け込んでしまっている気がして素直に喜ぶことはできなかった。




