第八節
小学校の卒業式後に倒れた僕は、すぐさま病院に運ばれた。
鼻血ならともかく目や口からも血が溢れたのだ。
誰がどう見ても、検査を受けて何が起きたのかを把握する必要があった。
両親や担任は僕が悪い病気にかかったのではないかと危惧した。
もちろん症状を聞いた医者もだ。
けれど、いろいろな検査を受けた結果は異状なしという実に呆気ないものだった。
風邪というわけでもなく、その他の重大な疾患というわけでもない。
体内のどこかが傷ついているのかとも思われたがそういうわけでもない。
医者は僕が受けた様々な検査の結果資料を見ながら、不思議そうに首を傾げたそうだ。
「これといった異状は見られませんでした。ただ、強いて言うならば疲労が蓄積しているようです」
「疲労……ですか」
この言葉にはさすがに母も首を傾げ返したという。
「はい。その、大器くんはものすごく疲労した状態にあります。肉体にはその傾向がないのですが、脳波が長距離を全力で十数時間走り続けた人のそれと同じような具合になっていまして……」
そんなことを言っていたけれど、結局のところ僕がどうして血を垂れ流して倒れてしまったのかは分からずじまいだった。
それは”三年経った”今でもそうだ。
僕的には自分が倒れてしまったのはいつか見た映画と同じではないかと思っていた。
過去に遡る際、脳がものすごい速度で情報を処理するせいで脳内の血管が壊れ、再生した。
そして、映画のようにその影響で僕は口などからも血を零すことになってしまったのだろうと思っていた。
けれどそんなこともなかったようで、医者からは脳内にも異状はないと言われた。
だから僕はあの時の出来事がなんだったのかよくわからないまま、決めた二回の力の行使の一度目を行うことができないまま、時間を無為に食いつぶしてしまっていた。
ハッキリ言って怖いのだ。
あの時、僕が死にそうな思いをしたのが力の弊害なのだとしたら。
あの映画のように力を使うことが僕自身の体を壊すことになるのなら。
残り二回。
僕の体は僕自身の力に耐えることができるのだろうか。
その答えは誰も知りはしない。
だから怖い。
ここに来て僕はもう、力を使うことが怖くなってしまった。




