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幸せのあり方  作者: 人生依存
第7話:幸せのあり方
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第六節

 再び瞳を開けた僕がたどり着いたのは小学校の卒業式。

 皆が小洒落た格好で着飾り、山々の美しさを讃える校歌を歌っている最中だった。

 この頃はまだ大輔との関係も浅かった。


 親同士が仲が良いという理由で、小学校が違う癖に稀に同じ空間に放り込まれ遊んでいろと言われる。

 だから仕方なく二人で遊ぶ。

 当時の僕と大輔は、そんな程度の関係だった。


 確か、小学校の卒業式が終わった後も皆が同級生全員でご飯を食べに行こうと約束をしていて、俺もそれを楽しみにしていたにも拘らず、親は僕たちの子供事情など知らんぷりで僕を大輔の元に連れて行ってしまった。

 かつて一周目でそれをやられた時、僕がどう感じたのかはわからない。

 でも、今の僕に一周目の僕は関係ない。


 調子のずれたテノールパートに僕も合流しようと口を開く。

 けれど、そもそも自分がテノールパートであるのかも怪しいところであったため、僕は歌うフリをしてその場をやり過ごした。


 皆が中学への期待を膨らませながら、在校生からの見送りのアーチを潜る為に教室へと準備に向かう最中、「大器」と後ろから声がかかった。

 酷く耳障りな、作ったような高い声だ。

 こんな声を出す人物を僕は一人しか知らない。


「どうしたの清水」


「あ、あのね、この後、用事とかってある?」


「あるよ。この後みんなでご飯に行く」


 嘘をついた。

 この後は親に連れられ大輔と遊ぶことになる。


「あ、そ、そうだよね、やっぱり大器もそこに行くよね」


 じゃあ私もそこに行くと頬を赤らめてもじもじする少女を放っておき、僕は教室へと向かうクラスメイトたちの流れに戻っていった。


 早々に帰宅の準備を終えて在校生たちの準備を待つ間、僕たちは担任の女教師の語るありがたい風の話をひたすら聞かされた。

 僕たちの向かう先の未来は希望に満ちているのだと。

 先生はそんな僕たちの幸せを願っているのだと。

 思ってもいないであろう上っ面だけの言葉を先生は感心するほど滑らかに吐き出している。


 いい子ちゃんぶった女子生徒なんかは先生のそんな薄っぺらい言葉に感動したとでも言うように涙を流し、鼻をすする。

 クラスのわんぱく小僧は今は暴れ時ではないと本能で悟り、居心地悪そうに自分の机を見つめる形で俯いている。

 他の子達もクラスメイトと談笑したり机に落書きをしていたりと、過ごし方は人それぞれだ。

 なんとなく話したいことを話し終えたのか、先生がチラリと腕時計を見た。


「あら、案外時間が余っちゃったわね」


 どうしようかしらと悩む先生に向かい、いい子ちゃんのクラスメイトが涙を拭きながら手を挙げた。


「はい、木元きもとさん。どうぞ」


 木元と呼ばれたいい子ちゃんはまだ膨らみ始めていない胸を張り、どこか気弱な印象を受ける声を張り上げた。


「私は! 最後のこの時間で将来の夢を言い合うのがいいと思います!」


 その発言はあまりにも場違いで、クラスメイトだけではなく教室の後ろで見学していた親御さんたちまでポカンとした表情で彼女を見た。

 ただ、先生はその提案を気に入ったらしく、出席番号の一番から順に言っていくようにと指示を出した。

 その指示に嫌々と従うように、並べられた机の最前列左端、出席番号一番の男子生徒がゆっくりと立ち上がり、口を開いた。


「僕は……将来は学者になることが夢です。大きな発見をして教科書に名前が載るよう、中学や高校では勉強を頑張りたいと思います」


 そんな吐き気が出るほど輝かしい将来の夢にまばらな拍手が浴びせられる。

 次いで二番三番と出席番号が進んで行き、七番。ついに僕の番がやってきた。

 僕も他の子に習って嫌々立ち上がり、自分の顔に張り付いた小さな口を開いた。


「僕の将来の夢は……」


 特に考えてもいなかったから、言葉に詰まってしまったかのようになってしまった。

 心配をした先生が「なんでもいいのよ?」と僕の前にしゃがんで言うが、正直やめてほしい。

 そんなことをされたら、まるで僕が至らない人間みたいじゃないか。

 そういうところから生徒間の嫌がらせは始まるんだぞ?


 なんて、関係のないことを考えつつ、僕の口からは思ってもみなかった言葉が半ば無意識にこぼれ落ちていた。


「……将来の夢は。僕の将来の夢は……幸せに…………なることです」


 僕はそれだけ言うと、その将来の夢の補足をすることはせず席に着いた。

 これまでの生徒とは違い、まばらな拍手すら浴びせられない。

 多分、みんなが職業的な話をしている中で一人だけ方向性の違う発言をしていて、何を言ってるんだと思っているのだろう。

 でも、僕は自分の言葉を否定したりはしない。


 うっかりで言ってしまった言葉ではあるものの、僕はそれを間違っているとは思わない。

 だから僕は僕自身の発したその言葉を、半ば無意識にこぼれ落ちたその気持ちを、大切に大切に胸の奥にしまいこんだ。


 ようやく僕は理解した。

 あの時、病院の屋上で男性に言われたことの意味を。

 加奈に幸せになってほしいという望みが六十点であるその理由を。

 


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