第十節
霏霏として雪が世界を真白に染める夜。
除夜の鐘がどこからともなく聞こえてくる中、僕は積もる雪をしっかりと踏みしめながら、加奈と二人で優しい暗さの町並みを歩いた。
「……ねぇ。どうしても夜に行かなきゃだめだった?」
加奈は小さくあくびをしながら疑うような目つきで僕の顔を覗き込む。
「うん。初詣って大体みんなそうでしょ?」
そうやってなんとか説得して、こたつで猫のように丸くなっていた加奈を連れ出してきたのだが。
「でもやっぱり寒いな」
あまりの寒さに僕は震えた。
本当に、コートを羽織っていても肌を刺す寒さを誤魔化せない。
たしか天気予報では気温が氷点下に至るとか言っていたような気もする。
「……だから朝になってからにしよって言ったのに」
頬を膨らませる加奈の言葉は、笑ってごまかした。
朝まで待てば、きっとまた同じようになる。
あの夢が何よりもそれを証明した。
僕が殺した人々が次々と僕の前へ運ばれてきた、あの夢が。
だからきっと、朝になってから初詣に行ったのでは手遅れになる。
けれど、その事を加奈に説明したところで理解してもらえるはずもない。
だから僕は加奈を誤魔化し、なんとか連れ出したのだ。
僕が目を離さないでずっと一緒にいれば、前の周までのような事にはならないはず。
加奈は元日の朝をしっかりと迎える事ができるはず。
そう信じている。僕は。
僕の暮らすアパートの近くにある神社に、僕たちは初詣に向かった。
その神社がいったいどのような神様を祀っている物なのか、知らないし興味もない。
けれど、もしそこにいるのが幸せを司る神様なのなら、どうか僕に幸せを分け与えてください。
加奈と二人で何事もなく暮らす事のできる、平凡な暮らしという幸せを。
僕に細やかでもいいので、どうか恵んでください。
賽銭箱に十円玉を四枚と五円玉を一枚投げ入れ、鐘を控えめに鳴らした後、僕は心の中だけでそう願った。
「……何をお願いした?」
「こういうのはお願いとかしないほうが良いんだよ」
初詣での願い事は他人に話すと叶わないと聞いた事がある。
だから、僕は初詣におけるまた別の俗説を持ち出して話をはぐらかした。
「まぁ、知ってるけどさ……」
面白みがないじゃあないかと頬を膨らませる加奈に「おみくじ引こう」と言い、宥める。
僕たちは百円ずつ払って、おみくじの箱を並んで揺らした。
「はい。兄ちゃんはこっち。お嬢ちゃんはこっちね」
僕たちが引いた棒の数字を見て、神主と思われる色黒のおっちゃんがみくじ箋を渡してくれる。
甘く糊付けされたみくじ箋を解くと、そこには『 大吉 』という文字が最上段に書かれていた。
「あ、大吉」
「……わたしは末吉」
「良いじゃん。末吉が一番無難で良い結果だって言われてるし」
「……まぁ別に悪くはないと思うけど、どうせなら大吉が良かった」
「交換する?」
「……それは意味がないじゃん」
再び頬を膨らませる加奈をこれまた説得して神社から引っ張りだし、先ほどよりは小粒になった雪をぼんやりと眺めながら帰路につく。
「どこか寄りたい場所とかある?」
「……こんな時間じゃ特にないけど、私コーラ飲みたい」
「こんなに寒いのに?」
「……寒いのは大器のせい。今はコーラ飲みたい気分なの」
「まだ僕のせいとか言うんだ……まぁ、だったらコンビニ寄って帰る?」
少しだけ機嫌を取り戻した様子の加奈とコンビニに向かうため、大通りに出た。
夜の時間帯でもそれなりの数の車が行き来する国道だ。
二人で手をつなぐ事もせずに大通りの国道に出たまさにその瞬間。
突然、体に強い衝撃が走って僕は意識を失った。




