第十一節
「ねぇ。ちょっといい?」
「……うん」
修学旅行から帰り、受験勉強をこれから始めて行くぞと言う夏の始まり。
梅雨も本格化した六月末の放課後。
いつも通り雨が降り、カエルの不格好な協奏がどこからともなく聞こえて来る気分の沈む肌寒い日。
僕は加奈を呼び出した。
理由は語るまでも無い。
校内でも滅多に人が来る事の無い資料室。
本棚が立ち並び、過去の学校資料が所狭しと詰め込まれているその部屋で、僕は深呼吸をして気持ちを整える。
三秒、三秒だ。三、二、一で言おう。
僕はそう、心に決める。
三……二……一……ほら、行くぞ
「加奈さん」
「…………うん」
「君が好きだ」
「……うん」
先ほどまで耳が拾っていた雨の日の不協和音が音を増したような錯覚を覚える。
季節柄、別段暑いわけでも無いのだが、額に汗がにじむ。
数日前、駅のホームで滲んだ冷や汗とは別種の汗であることは良くわかる。
加奈は僕の言葉を一度しっかりと受け取った後、まっすぐに僕を見つめてその可愛らしい小さな口をゆっくりと開き、小さく呼吸をした後に…………。
これにて第5話は終わりです。
次回更新より第6話が始まりますので、ぜひお楽しみに。