僕は、
僕は、生き物を殺すことで過去に遡る 。
殺す生き物は何でもいい。
どんな生き物であろうと、殺した瞬間に僕は過去へと遡る。
殺した瞬間と言っても、ナイフで人を刺しただけでは過去へ遡ることはできず、刺した相手の心臓が停止して初めて過去に遡る。
ただ、殺した生き物によって遡る時間は変動し、人間に近い形の生き物ほど、殺した時に遡る時間は長くなり、より過去へと遡ることができる。
もちろん、人間を殺すことで過去に遡ることもできる。
その場合、殺す人間が自分に近い存在であるほど、殺した際に遡る時間は長くなる。
通りすがりの見知らぬ人間よりも、家族や恋人を殺したほうが過去へと遡れるということだ。
そういえば、ちゃんと説明をしていなかったけれど、『 遡る 』っていうのは、過去を『 振り返る 』という意味ではなく、世間一般で言うところの『 タイムリープ 』ということだ。
もっと分かりやすくいえば、僕は生き物を殺すことで、精神を過去のどこかの時点での、自身の体へとタイムスリップさせる事ができ、人生をそこから送り直すことができるのだ。
初めてこの事実を知った時から、僕は様々なパターンでたくさんの動物を殺し、たくさんの人間を殺し、僕の体に宿っている不思議な力について実験を繰り返した。
実験の結果わかったことは、遡ることができる時間が殺した生き物によって変動することと、どの生き物を殺せば、より長く時間を遡ることができるのかってこと。
そして、遡るために殺したものは、次の周の世界で殺すことがなかったのだとしても、『 遡る前に殺した日時と、全く同じ瞬間に死ぬ 』ということだ。
何度遡って周を重ねても、僕が殺した者たちは一度目と必ず同じ瞬間に命を落としてしまう。
僕によって命を奪われるものは周を重ねるごとに増え続け、僕のせいで死ぬ時間が決まってしまう者は必然的に増えていった。
言わば、僕という人間は生き物の死の瞬間を操ることのできる死神だ。
どんな生き物であろうと、自分が望むタイミングで殺してしまえば、次以降の周で同じタイミングで命を落とす。
自分が生きて行く上で障害だと思ってしまった人間は、一度殺してしまえば自分の障害となることはなくなる。
僕の障害となったものは必ず命を奪われることが保証され、未来という駅へと伸び続けるはずの線路は解体されてしまう。
これを死神と呼ばずして何というのだろうか。
この力の存在を知った僕は、力を乱用した。
嫌なことがあれば人生をやり直し、嫌いな人間がいればすぐに殺した。
誰かを殺したところで、僕は過去に戻ってしまうだけだから、警察に捕まるなんてこともなかった。
そうして、殺して殺して殺し続けて、何度も何度も人生をやり直して。
そうすることで、僕は満足できる人生を送ることができると思っていた。
幸せになれると思っていた。
本当に、何の疑いもなくそう思っていたんだ。