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女子高生、時間、死  作者: 那珂さん
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青春してみたかった

 いくら夢みたいな出来事が現実だったとして、僕自身が変わらなければ変化なんてあってないようなものだった。

 朝、いつもみたいに学校に来て いつも通り自分の席に着いて いつものように暇を転がす。近くの席のクラスメイトと昨夜のサッカーの話をしたり。今日は話題があったからよかったものの、いつもは微妙な空気感で過ごしている。もちろんハートが鳥以下だから一花に話しかけることもせずに授業の開始を待った。

 はげた頭の数学教師がやってきて理解できないつまらない授業が始まる。いつもみたいに聞いているような聞いていないような態度で時間が経つのを待っていると

――《今日どこ行く?》

 授業中にメッセージがやってきた。窓際に目を向けると彼女が手を振っていた。

 なんとなく青春っぽいなとか思いながら軽く手を振り返して「夏の服が見たい」と。異性に服を見てもらうことに軽い憧れがあったしファッションセンスには自信が無かったから二重の意味で一花と服を見に行きたかった。




 インターネットでのやり取りしか彼女とはしなかった、休み時間もお昼もいつも通り過ごしていた。ゴミレベルにチキンな自分に嫌気が差しつつもホームルームを聞き流して終わりの礼をする。

掃除当番があることを思い出したのは礼の直後「今日の当番は五班な」という教師の宣告だった。苦い顔をしつつ彼女に目線を送ると、昇降口で待ってると言われた。いつものように適当に掃除を済ませ急ぎつつ昇降口に向かい彼女と合流する。何か鼻歌を歌っていたが特に音楽に詳しいわけでもないから誰の曲かとかはわからなかった。

「おまたせ」

「あと五秒遅かったら帰ってたよ」

 こんなことに幸福を感じるのは気持ち悪いかと思ったがなんにせよ僕はそういう軽いやり取りにも幸福を感じる寂しい人間だった。

――「地味」

――「地味!」

――「うーん、地味!」

 僕の選ぶ服の対しての彼女の意見は九割がそうだった。

彼女いわく「高校生なんだしもっと元気な服着ようよ」とのこと、目立つような服を着ることには抵抗があったがよくよく考えてみればピエロの格好でもしない限り何を着たところで自分に意識が集まってくるとは思えないことに気付いたから彼女の指示に従って服を買ってみた。

 一方彼女はというと何を着ても「似合う」とか「可愛い」といった意見しか出てこない。そもそものセンスがいいし顔もいいので特に文句もなかった。彼女はイエスマン気味な僕に少し不満がありそうだったがそれでも褒められるのは嬉しかったのか頬を緩ませながら「ありがとう」とか色々言っていた。

人生のいいところを集めてギュッと濃縮させたらこんな日になるんだろうとか思っていると虚無を感じる。人生は良いことばかりではない、いつかはこんな幸福も何らかの形でどこかへ消え去ってしまうんだろうと考えると虚しい。思考を現実に戻して今を精一杯楽しもうと思った。



 二週間ほどはほぼ毎日高校生をたっぷり楽しんだ、流石に疲れてきたからこの日は放送室で過ごすことに。コンビニでアイスを買い、勝手に持ち込んだコンロでお茶を入れていると誰かが窓を開ける。心底びっくりして窓のほうを見ると

「ん、お客さん?」

 鳴宮だった、ここで見るのは久しぶりな気がする。食べていたアイスを一口おすそわけすると嬉しそうにかぶりついた。

「どーもー」

 鳴宮を見て一瞬表情を曇らせたがすぐ笑顔に戻って挨拶、なんとなく引っかかるところがあったが今聞くのもあれなので流しておいた。

「もしかして……そういう関係?」

 少しからかうような言い方だったがズバリその通りで、ニヤつきながら一花と目を合わせる。

「おいおいマジかよ」

「一足お先に都ブス開放されてすまんな」

「なんでこんな可愛い彼女ができるかね、嫉妬するわ」

 鳴宮は何度か女子にアタックするも惨敗して帰ってくることが何回かあったから少し申し訳なく思わないこともなかった。

「せっかく三人いることだしトランプでもやるか」

「またかよ、昼やったばかりじゃん」

昼のトランプで今日はコテンパンに負かされた鳴宮が嫌そうな顔をする。

「まあまあ、少人数でやるトランプもなかなかいいもんだぞ」



「はいあがりー!」

「は? まだ俺全然手番回ってないんだけど」

 大富豪大会で一花がとんでもない才能を発揮し、四連続も大富豪の座であぐらをかいている。想像もしていなかったチャンピオンに二人してアホみたいな顔をしていたがその顔を見てさらに得意げな顔になった。トランプ慣れしていた男達のプライドはズタズタだった。

「私ちょっとトイレ行ってくるね」

 勝者の余裕を見せつけながら部屋を出る彼女に闘争心を燃やされた男二人は裏での結束を静かに約束した。

「それにしてもまあ、お前が女の子連れてくるとはな」

「いやいや、それはお前がここのこと言うからだろ」

「え?」

「ん?」

 違和感

「いやお前がここのことを一花に…」

「言ってないけど?」

 どういうことか全く理解はできていないがこいつが嘘をついてるとも思えない。だとしたら誰がここのことを教えたのか、ということになる。

「あー、そうか。勘違いしてたわ」

 そうか? と少し不審がりながらもそれ以上は何も聞いてこなかった。

 そういえば彼女周りの不思議な現象はいくつかあった、サッカーどっちが勝つか合戦では彼女は全部的中させたし、彼女が歌っていた鼻歌がテレビから流れてきたかと思えばCMによると来週発売の新曲だった。今回のことも合わせると妙だ。

 混乱しつつもフル回転で考え事をしていたせいで大富豪大会は負け続きだった、しまいにはここでガチ切れすれば一花がおいしいパスタを作ってくれるのではと考えてしまうほどに俺の頭は使い物にならなくなっていた。

「……帰るか」

 頃合を見計らって声をかけた、いつもより早い帰宅に一花は不思議そうな顔をしたがすぐに「帰ろっか」とカバンを持って後に続く。

「鳴宮は?」

「俺はもう少しゆっくりしてくわ、また明日な。桐谷さんも気をつけて」

「ありがとー、じゃあね」

 昇降口を出た辺りで疑問をぶつけた。

「一花、俺が放送室にいるってなんで知ってたんだっけ」

「え? だからそれは鳴宮君が」

「あいつはそんなこと言ってないってさ」

「やだなー、忘れてるんじゃない?」

 ひょうひょうとした態度を演じているが声色からは焦りがにじみ出ている。べつに責め立てたいわけでもないから強く追求するでもなく。

「なにか俺に隠してない?」

 とだけ言ってみるとぎこちない笑みが剥がれ落ちてまじめな表情に。それからはずっと考え込むようにしながら無言で歩き続けて学校の最寄駅の改札を抜けたところでやっと口を開いた。

「私の言うこと、信じてくれる?」

「内容によっては」

「じゃあ、今度の土曜日一時に両舞駅に来て」そう言ってから階段を駆け上っていく、慌てて追いかけるも電車は既に出発していた。

 彼女は次の日学校を休んだ、鳴宮が懐疑の視線を送ってきたが体調不良ということにしてごまかしておいた。

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