親友ポジに転生した僕と転生ヒロイン
久しぶりに書いたので、リハビリとして何番煎じかわからないものを。
はぁ……。はぁ……。
どうしてこうなった。
僕は物陰に隠れながら、まだ僕を探しているだろうあいつに見つからないことを祈りながら、こうなった経緯を思い返していた。
………………
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……
気が付くと僕は恋愛ゲームの世界に転生していたんだ。しかも主人公の親友役として。ただ、やり込んだというわけもなく、1回通してしただけのゲームだから、シナリオをほとんど覚えていなかったけど、僕が転生したこのキャラのことは覚えていて、賢いくせに、主人公と一緒にバカ騒ぎをするだけの眼鏡キャラなんだけど、何故かそれをヒロインたちに物理的に止められる役なんだ。そう本当に物理的、つまりはグーで止められるんだ。画面越しで見ている分には、ギャグパート専用キャラだしなーと思っていたけど、いざ自分がそうなると、本当にただただ理不尽な役割としか思えなくなってしまうよね。
その確定しているであろう未来に軽く絶望しかけていると、ふとこのキャラは、ヒロインたちに物理的に飛ばされた後、何事もなくすぐに戻ってきて会話に参加していたことを思い出したんだ。
あれ? これだけ身体が頑丈ってことは、身体能力もかなり高いじゃない? そう思った僕は小さい頃から身体をとことん鍛えることにしたんだ。幸い、ゲームが始まるまで時間はたっぷりあったしね。
そうしてゲームが始まる高校に入学するときには、前世では考えられないような身体能力を手に入れることが出来ていたんだ。それこそ、どの部活に入っても即戦力になれるであろうスペックはあったと思う。これならいっそのこと、5月に転校してくる主人公とも関わらずに、前世では入らなかった運動部に入ったりと、好きなことが出来るんじゃないか? そんな期待を胸に僕は学校の正門を潜り抜けて入学式に挑んだのであった。
……そう思っていた時期が僕にもありました。シナリオの強制力って言えばいいのかな? シナリオを覚えていなかったから恐らくそうであろうとしか言えないんだけど、思っていることとは全く違う言葉が口から出たり、行動ばかりさせられていたんだ。主人公が転校してきたときも、気が付いたら真っ先に話しかけに行っていたし、ヒロインたちとのお約束をやらかしたときも、そうはならんだろと思っていても、口から出るのは2人を煽るような言葉だった。もちろん、その後に顔を真っ赤にしたヒロインたちにグーだったり足で吹っ飛ばされましたよ、えぇ。あ、ちなみに眼鏡は伊達だったよ。むしろ主人公が転校してくる直前には気が付いたら眼鏡をかけていて、周りもそれが当たり前みたいな反応が返ってきて、あのときは本当に怖かった。
そんな感じで、僕の意思とは全く関係なく進み、無事ゲーム期間である半年間が終わり、主人公がメインヒロインとくっついたことで僕の身体はようやく再び僕の意思通りに動くようになったんだ。
ただ、これで主人公やヒロインたちに振り回される生活も終わり、平穏な高校生活を送れると、浮かれてしまっていたことが駄目だったんだろう。
ある休日に、伊達眼鏡を外し、髪型もいつもとは変えて街をブラついていたときに、ガラの悪い2人組に絡まれている女の子を見かけたんだ。いつもなら、周りの人のように見て見ぬふりをしているところなんだけど、やっと解放されたことに気分がよかった僕は思わずその子を助けてしまったんだ。そのことが今起きている問題の始まりとは知らずに……。
……
…………
………………
「……はぁ」
そのときのことを思い出して僕は思わずため息をついた。まさか助けた女の子がヒロインの中の1人だとは思わないでしょ? 普段はツインテールのくせに、なんであのときは髪を下ろしていたんだろうか。いや、別にただそんな気分だったと言われればそうかもしれないけど、あの常日頃から楽しいことがあれば全力で関わろうとしてくるあいつがこのことに何もアクションを起こさないわけがない。名前を聞かれたときに、本名を名乗るんじゃなかったよ。まぁ、確かにあいつだと気が付かなかった僕も悪いんだけど。
あの後、全力で逃げたんだけど、次の日に学校があれば、そりゃ顔を合わせることになるわけで……。
僕の顔を見た途端に僕に絡もうとしてきたあいつから逃げるために、僕は今こうして物陰に隠れているというわけさ。
どうせ僕なんかより主人公に夢中なんだから、僕のことは放っておいたらいいのに。今も僕を呼ぶ声が聞こえてきて、僕の希望通りにはならないことにもう一度ため息をついていて、時間が過ぎるのを待っていると、ふと僕の名前を呼ぶ声が止んでいることに気が付いたんだ。やっと諦めてくれたかとホッと一息ついていると
「別に逃げなくてもいいじゃない」
僕の死角からそう声を掛けられたんだ。
驚きのあまり、肩を跳ねさせてから、恐る恐る声がする方に顔を向けると、いつの間にか僕の後ろに回り込んできたあいつがいたんだ。顔が引きつりそうになりそうなのを何とか抑えながら、なんて声を掛けようかと悩んでいると
「ようやくシナリオが終わったから自分へのご褒美で街に出かけたら早速不良に絡まれるなんてついてないと思わない?」
先にそう声を掛けられたんだ。……ちょっと待て、今シナリオって言わなかったか? いや、そんなはずはないと、彼女の口から出た言葉を受け入れられないでいると、
「本来のあなたなら、あんなことはしないだろうし、今あたしが言った言葉も意味が分からないといった反応ではない……。あなたも転生者なんでしょ?」
決定的な言葉が彼女の口から紡がれ、今度こそ顔が引きつるのを抑えられなかった僕は、思い描いていた平穏な日常が崩れる音が聞こえ、思わず大きなため息をついてしまったのであった。