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――この世界に〝慈悲〟なんてものはない――
地獄への入り口だとも知らずに、踏み込んでしまった真っ暗な洞窟。
岩壁に反響するいくつもの叫び声。
全身に滴り落ちる赤い雫。
それを両手に見て、俺は生きていることを実感した。
いや、そんなことはどうだっていい。いったいなにが起きたのだろうか。
たしか、初の班合同任務に就いて、ある目的を果たすために外へと出たはずだ。それから、目的地に着く前に〝奴ら〟に襲われて、隊長の指示に従い仲間と共にその場から離れた。――それでどうなった?
ああ、そうだ。散り散りになった百を超える隊員が合流したときにはすでに、半数以上が方向感覚を失っていたんだ。最悪なことに、原生林を進んでいることに誰も気づかなかった。
人の手が一切加えられていないこの森は、自然のままに育ち、様々な獣の住処となっている。色んな森がある中で最も足を踏み入れては行けない場所だ。
そんな場所で俺たちは――。
垂れていた頭を上げると、逃げ惑う仲間の姿が飛び込んできた。死を覚悟しきれていない表情で、どうにかしてでも生き延びようとする同種の姿だ。
問題は、いったいなにから逃げているのか。
探す必要もなく、それは体長三メートルはあろう大猿だとわかった。人の腕よりも太い爪で肉体を裂き、色のない洞窟を鮮やかに染め上げていく。あろうことか、その地獄よりも後方に俺は立っていた。
「はは……」
乾いた笑みが漏れたのは、こんな状況になっても、恐れを隠しきれずにいる臆病な自分に呆れてしまったからだろう。
そして、ようやく思い出した。
これが、俺たち闇影隊の職務なのだ、と。
これは、〝彼女〟を捜すために日々奮闘する臆病者――、俺、走流野ナオトの物語である。