別れの味
未だに夢ではないのかと疑う…でも、夢ではない。
僕はこの目で見てしまった。
血が通っていない肌色が白くなっていて冷たくなった体に棺桶に入って眠り続ける先輩を
姉は泣き喚きながら先輩の棺桶にしがみつく、僕は只々その場に立っているだけだった。
葬式は何事もなく終わった。
空が暗くパラパラと雪がちらつき暗い道を街灯が照らす帰り道を
僕と姉は喋ることもなく歩いている。
僕は勇気を絞って姉に聞いた。
「おねぇは先輩がいじめを受けていることを知っていたの?」
少しの間、姉は黙り込むとふと僕の方を向き
「あそこの公園で話さない?」
姉は向こうの方を、指を差す。その方向を見てみるとそこには公園があった。
僕は姉の要求に乗りその公園に向かった。
公園に到着して近くにあったベンチに腰を掛ける姉の隣に僕も腰を掛ける。
姉は公園に立ち寄る前に寄った自動販売機で買った缶コーヒーを一口飲むと喋り始めった。
「あんたが私に聞いた質問から答えるわ、一言で言えば知っていたわ」
その言葉に思わず僕は立ち上がる。
「なんで、僕に教えてくれなかったんだ!!」
「それを知ってあんたが何かできた?知っていたらあの子を助けてくれた?」
「それは…」
「あの子は私にもあんたにも心配かけないようにしていた。我慢強い子で
何があっても笑顔を振りまく子だった。それなのに私は…あの子を助けることができなかった…」
「…おねぇの所為じゃ」
「私の所為なの!!」
姉はベンチから立ち上がり叫ぶ。
「私がもっとあの子ことを見ていればあの子をもっと…」
姉は声は震え涙を零す。姉は先輩が死んだ事を悔い自分の所為だと責め続けていたのだろう。
そんな姉を見ていられない。
「僕だって何も出来なかった。あの時、あの先輩の涙の真相に気づいていれば
こんな結果にはならなかったはずだ」
僕は未だにあの時の夢を見る。いつも優しく温かい笑顔をする先輩が突如、涙を流し泣き崩れる姿に
僕が何もできずただ立ちつく光景を…
何度も何度も繰り返す。同じ夢を
あの時、ハンカチで涙を拭き、優しく抱擁し先輩を安心されたらと
「あんなの所為じゃない!!」
姉は叫ぶ。
「私が無理でもあんたなら救ってくれるって思い込んで私はただ、現実から逃げた」
「違う。おねぇは僕を信じて僕を頼ってくれた。それなの何もできなかった僕が悪いだ」
「違うわ、私が悪いの」
「僕だ」 「私よ」
罪を被ろうとするかのようにお互いが自分を責める。
本来なら、僕達が責め合う必要はないだろう。
いじめをしていた首謀者達は先輩が残した佚書のおかげか重い罪になった。
これで少しは報われてくれた嬉しいが…
そんなことは今更で…先輩はもういないのだから
だから、自分を責めることしか出来なくて
「はぁはぁ」
「はぁはぁ」
お互い叫びすぎで息切れを起こす。姉は少し間をおいて
「もう、この話はここまで、遅くなったし家に戻ろうか。私たちが言い合っていても
意味ないしね」
そう言って歩き始める姉の後を僕も追う。
歩きながら姉は空に浮かぶ星を見ながらこう言った。
「あの子の為にも幸せにならないとね。」
僕は頷きポケットから先輩のお気に入りだった甘いリンゴの味のアメを取り出し口に頬張り
夜空を眺めて
「さようなら、先輩…」
別れを告げた。
それから、十年の月日が流れ…
次で最終回です。