しょっぱい味
私(先輩)は皆が思うような立派な人間ではない。
平然と嘘だって言うし、正義感が強くて人助けをしている訳ではない。
自分の評価を上げる為の手段として使っているだけで…
嘘の仮面を被っている偽善者だ。
高校一年の時から私は優等生を演じた。
それが気に入らないのか、クラスメイトの女子から標的にされ頻繁に悪質な事を受けていた。
でも、そんなことは特に問題ない。私を僻んでやっているだけのこと
我慢すれば済む。幸せになるための障害の一つと思えばいい。
机にマジックペンで落書きや上履きを隠されることもあった。無理やりトイレに連れていかれ
殴れたり蹴られたりもした。
しかし、私はそんなことがなかったかのようにいつも笑顔を作る。
誰にも悟られないようにバレないように
昼休みに入った時、私の前に一人のクラスメイトの女子が現れる。
「少しいい?」
クラスでは私と少しでも交流をもってしまったら制裁といういじめを決行されるルールが出来ていた。
クラスの女子はそのことを知らない人はいない。破ると標的されてしまうから
だから、私に喋りかけてくる女子はいないはずだった。
私は視線を逸らしながら
「私に話しかけないで」
「何で?」
君は何もわかっていないみたいに首を傾げる。
「何でって…それは」
君は笑顔で私を見て
「私はあなたと友達になりたいの」
いきなりの衝撃発言に驚きを隠せない。
「私はあな…たとその」
動揺してうまく喋れない。そんな事、お構いなく
「友達になろうよ。私あなたと友達になりたい」
私は、恥ずかしくなり俯くが本音は嬉しく顔がにやけていた。
顔を上げると私達を睨み付けるように見ているいじめの首謀者達。
私は冷静になり座っていた椅子から立ち上がり
「私に関わらないで友達にもならない」
君に冷たい視線を送りながら大きな声で首謀者達にも聞こえるように叫びその場から離れた。
教室から出て行った私は屋上に居た。
優等生の特許と言うべきか先生に特別に屋上のカギを借りて入っている。
つまり、ここに入れるのは私だけということ
空に浮かぶ雲を眺める。常に気を張っているせいかどっと疲れが溜まる。
ここだけが気を抜けるところで本当の自分でいられる場所
「おじいさん…私は幸せになれるのかなぁ」
私は幸せになる為に努力をしているだけなのに
勉強や運動も努力しているからこそ、結果に出ているだけで
それなのに何故こんな目に遭うのだろうか…
「なんで私が…」
涙が地面にポタポタと零れる。すると、後ろから声が聞こえ振り返ってみると
教室で私に話しかけてきた君が心配そうにしている。
「よかったら、これ使って」
そう言ってポケットから水玉模様のハンカチを取り出し私に差し出す。
「やめて!!」
私はカッとなり差し出された手を弾く、ハンカチは手から離れ地面に落ちいく。
「私が可哀そうと思って同情しているつもりなら馬鹿にしないで
私は一人でも余裕なの普通の人は違う。わかる!!」
そう言いながらも涙は零れ必死に涙を袖で拭くもポタポタと落ちる。
君は心配そうにこっち覗っているのを見て私は自分が惨めに思う。
「お願いだから、私を一人にして…」
大きな声でその子に怒鳴りつける。これで諦めてもらえると思った瞬間
君から思いがけない言葉が返ってきた。
「私はあなたが可哀そうだとか同情している訳でもなく、私はただ、あなたと友達になりたいだけ」
「なんで、そこまで…」
君は笑いながら私に近づいてきて手を握り語り始める。
「二週間前かな、私その日は日直あっていつもより学校に早く行った。
私が一番乗りかなと思って教室に入るとあなたが居た。」
「!」
「君は当番でもないのに黒板を綺麗にしたり花が入れられた瓶の水を換えたりしていた。
私はそれを見て凄いなぁって思ったの。普通はさぁそういうことは面倒くさくてやらない人って
多いじゃない?それなのにあなたは誰かに言われてやっているわけじゃなく自分の意志でやってい る。」
「それは、点数稼ぎでやっているだけ…」
「ううん、点数稼ぎっていうなら先生の前でやればいいし私やりましたって宣言すればいいだけなのに
あなたは名乗り出たことがないじゃない」
「それは…」
君は私の涙を自分の袖で拭いながら話を続ける。
「それから、私はあなたに興味を持ち観察していた。そこで初めてあなたがいじめに受けているって
知った。他の人は知っていたみたいだけど私だけ知らなかった。気づけなくてごめん」
「君が謝ることじゃない」
そして、君は腕を大きく広げこう宣言する。
「もう、大丈夫。あなたは一人ではない。私がいるから、あなたは私が守る」
君は私を抱きつき
「だから、私と友達になろう」
私は止まりかけていた涙が再び零れる。
悲しくて泣いている訳ではなくうれし涙で溢れる。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている私の顔を見てつられて君も泣き出す。
「これから、よろしく」
「うん」
私たちはお互いの気持ちを確かめ合うよう抱きあった。
しばらくの間、私達は泣き喚いた。
そして、私と君は友達になった。
私に対するいじめが無くなったわけではないけど二人なら、乗り越えていけるそう思っていた。
それから、君の弟と知り合いになり友達となった。友達が増え私はとても幸せな日々だった。
ある事件が起きるまでは…