渋い味
誰もいない教室で微かに人の声が聞こえてくる。
その教室には二人の男女の姿があり…
「落ち着きましたか?」
僕は先輩の顔を直視しないように優しく問う。
すると、急に恥ずかしくなったのか咄嗟に僕から離れ
持参していた水玉模様のハンカチで涙を拭きながら僕から目線を逸らした。
頬が少し赤く染まっていることから恥じらっているのが見て取れる。
涙を拭き終わるとハンカチを片付け、一回落ち着かせる為に、深呼吸した。
吸って吐いてを、繰り返し少しずつ落ち着きを取り戻し始める。
「落ち着きました?先輩」
先輩は頷き
「ありがとうね」
「いえ、自分は何もしていないですしお礼を言わないでください」
何もできていない。そんな、僕は自分の事が嫌いで自己嫌悪を抱くほど
先輩は首を横に振る。
「そんなことはない、君が居てくれた事で救われた。私一人だったら…どうなっていたか
わからなかった。だがら、来てくれてありがとう」
「先輩」
優しく、いつも明るく正義感が強い。
先生やクラスメイトからも高い支持もあり
誰からも好かれるそうなタイプの人なのに…
そんな人が何故こんな状況に置かれているのか…
「先輩、本当に何があったんですか?」
「・・・」
またも俯き黙り込むが、恐る恐る僕に目線を向ける。
僕も先輩を見る。
数分間沈黙の中、目線を外すことなく見つめ合う僕達。
すると、先輩は小声で独り言を呟く。何を言っているか聞き取れない。
「先輩?」
「だ…だい…ぶ」
「先輩ーー」
「よし!!」
「うわぁぁ…せ、先輩?」
突然の大声に驚く僕。
「ごめんね、急に大声出してびっくりしたよね。
でも、もう大丈夫だから気持ちの整理も付いた」
「ねぇ、君。私の話聞いてくれる」
「はい、僕で良ければ」
僕の返答に先輩はこうなってしまった経緯を語る。