〜愛しすぎる人よ〜「それは二人への遺言状」
「愛すること」とは何なんだろうかという、
疑問に、正面からぶつかって
私、セイナが、必死に話して語っていきたい!
タイトルが「永遠に切れない絆」です。
何度も転生して生まれ変わる
二人を、時代をあちこちにトリップしながら、
時代の背景も変えながら、描いていきます。
まだまだ駆け出しの素人ですが、
おもいの強さは負けれないですよ。
是非、お付き合いくださいね。
朝の市場の騒がしい人ごみの雑音と
オレンジの旬の香りが混ざる。
気持ち分、少し近い太陽に汗ばんだ素肌。
少し冷たくなった季節の風が
首元を抜けていき、とても心地よい。
ふと、オレンジでも買って帰るかなって思って
足を止めて、魔法使いは、
オレンジの山から売り子の娘に、
「五つください」
と顔をあげた。
瞳と瞳が合う。
なんて綺麗な緑色の瞳なんだろう。
宝石みたいにキラキラしてる。
珊瑚礁の海に似ているな。
吸い寄せられるようだ。
彼は目の瞳孔を大きく見開いて、
オレンジを袋に入れるその売り子を
じぃーっと凝視してみつめていた。
恋は、この瞬間から既に始まっていた。
彼はその売り子の娘に、恋心をしっかりと抱いてしまうのだ。
これが不幸の始まりなんて、
誰も想像すらしないのだけど。
「ありがとうございます」
意識もしていない微笑みつきの、礼に、
瞬時に彼は心臓の跳ね上がる音とともに、
袋のオレンジを奪い取るようにして、受け取り、
それを、胸に強く抱いて、恥かしそうに俯き、
市場の人ごみに、また紛れていった。
彼は、魔法はかなりのトップクラスで上級だったが、
ルックスもどちらかといえば、さえないタイプで、おまけに
シャイで口下手だった。
生まれて三十年近く、一年以上まともに続いた彼女なんていやしない。
オレンジやリンゴを健気にも、毎日買いにゆくが
彼女の前では 声すらも僅かしか擦れて震えて出もしない。
無論、彼女の気を惹く、言葉など、
一言もみつかるはずもなく、みつかったとて、
口にできるはずもなかった。
部屋には、食べきれないオレンジとリンゴが
木箱にそのまま入って、甘酸っぱい香りが仄かにしていた。
それに彼女には既に恋人がいるようで、
仲よさそうに至近距離で笑っている、
二人をみて、かなり複雑な顔で眉をしかめ、
眉間に皺を寄せて彼女の彼氏を
離れてキツく睨んでいた。
嫉妬と憎悪の混じった、荒む感情が彼のまわりに漂っている。
当然このカップルは知る由もないのだ。
まさか、横から無理やり、横槍で入り込み、
恋を歪めてしまう、悪魔が出てくるなんて
夢にも思ってなどいないのだ。
不運としか、思えない運命の鎖は、まさに
強い嫉妬から、始まってしまう。
ときに恋は魔法のように、
人をあっという間に、変えてしまう。
善人を悪人にでも、偽善者を人格者へも
変貌させるくらいの強い力があるものだ。
恋と嫉妬に狂った、彼は、
大きな鍋を、夜な夜なかき混ぜていた。
妖しい不気味な笑みを浮かべながら。
部屋中、何か鼻にツンとつくような、
遺体が燃えた後のような
臭いが常に充満し広がり、大きな鍋は
土色からどす黒く変化していった。
彼は今日もひとつひとつ丁寧に入れて、また煮込む。
こうもりの目…
鴉の爪…
蛇の頭
野ネズミのしっぽ…
忘れじのキノコ…
最後は自分の髪を数本、無理やり抜いて入れる。
煮込み続けて、既に十日。
これで薬は今夜には完成する。
煮込んで、煮込んで、
ほんの指先くらいの、僅かになるまで、もうすぐだ。
彼は鍋を見ながら、口をつむぎ、暗く鼻先で笑った。
口元だけで 不気味に微笑む顔が
ランプの炎で僅かに揺らめいた。
瞳はもう彼女を手にいれているとでも、いうような確信に強く変わりつつあった。
漏れた月明かりに、黒く妖しく光っている液体は、
プツプツと小さな泡を吹いていた。
翌朝、まだ一番鶏がなく前に、
彼は、慌てて、息を少しきらしながら、森を抜けて走って行く。
昨晩やっとできた薬をポケットに入れて。
小道を抜ければ、草原が見えて
そこを突っ切れば、市場の頭部分に到着する。
市場はまだ開店前の、準備さえしていない
お店が殆どだ。
活気も人だかりもまだないから、死んだみたいな市場の
静けさが、どこか寂しくひんやりとした感じが広がる。
彼女がいつもオレンジを売る場所の、
近くに使われていない店の台がある。
そこに陣取り、様子をずっと伺っていた。
眠そうに、軽くあくびをして、彼女はオレンジの横のリンゴを
傷付かないように、丁寧に並べていた。
彼は、彼女が何かの用なのか、場所を少しだけ離れたその隙に、
彼女がいつも水を入れて飲んでいるらしい、
竹の筒に、作った薬をこっそりと数滴落として、振り混ぜ、
元あった場所に置いて、また台の下にそっと戻り、
またじいっと凝視していた。
何も知らない彼女は、木の椅子に座って、
のどが渇いていたのか?
竹の筒を右手に握った。
彼は息を止めて、ゴクンと唾をのみ、じぃーっと瞬きもせず見つめた。
彼女はごくごくと、そのほとんどを飲みつくしてしまうと、
そのまま力なく、地面へと前のめりに崩れて
同時にコトンっと鈍い椅子の倒れる音がした。
これでもう彼女は僕のものだ。
抱きかかえて、至福の喜びにどっぷりと浸っていた。
彼の歪んでゆく愛は、
彼女を大きな哀しい悲惨な、嵐に巻き込んでゆくこととなるのだ。
それは、彼すらも気がついていない。
それは、不運としか言いようのないことなんだが、
運命ともいうんだろう。
決して目には見えないけれど、もし見えたなら、
鎖で数回、胴体を締め上げたような状態だろう。
その鎖は、まだまだ巻きつけられ、絶命の前の力なき声をあげるまで
続けられるのだ。
哀しき宿命よ。
それまでにしても、欲するものが、果たして愛なのか?
彼もただ欲情のままに突き進むだけの、哀れな男に過ぎないからか。
水に混ぜ、飲ませたのは、目覚めて、最初に見た人を、
好きになるという、禁忌の薬だ。
魔術では、百年に一度出るか出ないかの、天才とまで言われている彼は、
その薬にも、魔術を無意識にかけていた。
彼女が自分を好きになるという単純な魔法は、彼にとって
容易いものだった。
だけれど、簡単にとけてもらっては困るからと、
巧みに何度も術をかけられていたのだ。
彼女は目覚めて、最初にみた彼を、
薬の力で、すぐに好きで仕方なくなってしまった。
足も立たないくらいの衝撃で、夢をみるような視点の定まらぬ瞳で
ぽんやりと、みつめていた。
凄い即効力があるという、噂も本当だったらしい。
それも、この禁忌の薬は、通常の10倍の濃さにしてあるのだ。
こんなに嬉しいことが、今までにあっただろうかというくらい
喜びで埋め尽くされた、彼の心の中の
幸せは溢れてこぼれて止まらなかった。
もっともっと愛されたい。
ずっとずっと愛されたいと、毎晩
願いを込め作った薬は、嘘のように直ぐによく効いた。
こんなにうまくいくなんて、夢の中の夢のようだと。
彼は溺れていく、もう水面にあがってこれないくらいに。
彼女も、意思ではないにせよ、彼のみをみつめて、
心を捕まえて離すことがなかった。
彼女は森にある、彼の家にそのまま入り浸り、
すぐに一緒に暮らし始めた。
幸せな毎日がはじまった。
朝目覚めれば彼女が、温かな朝食を作ってくれ、
一緒に森へ出掛け、日が沈めば、ひと時も離さず
一緒に眠って過ごした。
二人の笑顔の絶えない、偽りの幸せな日々が続いて、
季節は夏から秋に、そっと変わってゆく。
市場への買い物は、彼がひとりでしていた。
彼女を取り返しに、あの恋人が、家族が
いつ返せとやってくるかわからない。
それを防ぐためにも、バレてはまずいし、取り戻されるわけにはいかない。
彼女の売っていた場所には、彼女の母らしい、
面影の似ている女性が立ってた。
見た感じもすぐに、
疲れたようにみえた。軽く俯きがちな上半身が、とても寂しげで、
くぼんだ眼の下には少し黒い隈ができている。
街では、彼女は、突然市場から、消えていなくなった、
町の人の噂話では、神隠しのような、話になっているようだ。
彼女にとっては、
それは、偽りの上の幸福。
あってはならない、イミテーションの愛だ。
夢の中にいるようなものだ。
「ルシエル、食べてみて、こんなに美味くスープができたのよ」
弾むような、元気な声が、キッチンに澄み渡る。
鍋のオニオンスープを木製のお玉ですくって、
そのまま彼の口元に持って行く。
「熱いよ、セレーン」
一口口に入れて、おいしいよって
ルシエルは舌のやけどを我慢しながら、最上級の笑顔でこたえる。
ルシエルとセレーンは、まさに彼らは幸せの絶頂期にいた。
それは恐いくらいに幸せな日々だった。
こんなに愛情に満たされたことなど、一度もない
孤独な彼は、その幸せに完全に、のめり込み
ゆっくりと存分に溺れてゆくのだ。
底のない偽ものの恋に。
もがきながらもルシエルは、もうセレーンなしでは
生きれないくらいに、愛していた。いや愛なんてものよりも、
もっともっと凄い恐ろしいくらいの執着になりつつあった。
でもそんな偽りの愛の日々が、そんなに続くはずはない。
神をも、背き、教えも無視し、人の尊厳など一笑してしまったルシエルには、
怖いものなどなかったんだろう。
たとえ地獄の底にたったひとりぼっちで、落ちたとしても。
もう這い上がれないとしても、後悔が今少しでも
あるならば最初から何もしなかったに違いない。
たかがひとつの恋だと、人は笑うのだろうか、
そんなの、忘れて新しい恋にゆけばいいだけだと、言うのだろうか。
それは、本物の愛を知らないから、言えるのだ。
愛すれば、深く愛すれば、もっと深く知りたいと思う、
それは好奇心となり、強い強い欲求で願いに変わる。
真の愛を知れば、たかだか恋じゃないかと、言い捨てることなんか
できないだろう。
恋にも、小石みたいな、どうでもいいものから、
ダイアモンドみたいな恋もある。
硬くいつまでも、輝き続けるダイアのように、光続ける
愛も希ではるが確かに存在してあるものだ。
誰でも、もし自分に、振り向かせるだけの力がなくても、
振り向いて貰える手段があれば、使ってしまうのではないか?
それくらい、精神さえも蝕むくらいに、狂えるほどの恋なら、
本望だったのではないのか?
ある日目覚めたセレーンは
彼の顔をみて、一瞬、何かが違うような、
気がして仕方がないような顔をして、見つめた。
何か違和感がするのかもしれない。
ルシエルはすぐに気がついた。
少し首を横にして、眉をしかめた彼女は
おかしいという疑問が、芽生え始めているに違いなかった。
まさか…きれかけている?
どうしてだ? どうして…….
何故きれかかるんだろう…。
あんなに効いていたはずなのに…。
やはり、禁忌の薬はきれかけているのなら、
まずいなと思い、彼はまた残っていたあの薬を、
彼女の夕食の野菜スープにこっそりと入れて、彼女に飲ませた。
彼女が目覚めたら、
きっとまた、愛してくれるはずと、彼は
信じていたのだ。
朝起きて、ベッドから降りて
靴を履きながら、セレーンは
「そう…家に帰らなきゃ!」って、早口に口にした。
家に帰る?そんなのこの半年間、聞いたことなど一度もない。
信じられない恐ろしい、最も恐れていた言葉だった。
そんなはずは・・・いや、信じたくない。
彼女は、ドアを刹那、睨んだかと思うと、
木靴のコンコンコンという音が響き
小走りに、ドアを開けたまま、閉めもしないで、
そのまま森へと飛び出した。
まさにほんの僅かで、止めようとする暇もなく、
呆気にとられた彼は、
そのまま、小さくなるセレーンの背中を目で追いながら、
立ち尽くし、膝をがっくりと折って
前屈みに崩れるように床に座っていた。
森に彼の絶叫と、悲しい嗚咽が響いた。
彼は事細かなことを思い出しては、泣き叫び、
記憶の中のセレーンをまた思うたびに、泣いた。
実は薬は既にもうセレーンには免疫ができていて、
効果が全くなかったのだ。
椅子に力なく呆然と座り、たった今までいたはずの
セレーンの幻の温もりを椅子からのみ感じていた。
二人で一緒に過ごした部屋の空間が、
一気に、冷たく凍り付いていくように感じもした。
いっそ全身の血が凍っていけば、何も考えなくてもいいんだ。
愛の続きなんかない。もうないんだ。
セレーンは帰ってなんか、来ない。もう二度と。
二人の楽しかった日々も、帰ってこない。
結果、彼はもっともっと孤独になり、
前よりも、深く深く孤独は広がっていった。
哀しくて、寂しくて、たまらなくなったけれど、
どうしょうもない。誰も変わってくれなければ、誰もわかってもくれはしないんだ。
時間が過ぎるにあたって、愛は消えて、次第に強い憎悪へと
変化していくのだ。
自分を捨てて、逃げていった、セレーンを
恨み、生涯憎み続けることが、彼の哀しすぎる後半の人生となる。
彼女の噂は、詳しくはないが、風が教えてくれて、届いてはいた。
婚約者と来春結婚するという話だ。
嫉妬もあるが、今更どうしょうもない。
彼は知らなければよかった本当に一生の僅かな僅かな
ほんの少しの至福の幸福を知ったがために、
神でさえも、もはや救えないほどの奈落の底へ、今も下へ下へと
底もなく堕落してゆくのみだった。
まだまだも、もっともっと孤独な毎日を送らなければならなくなった。
最期には、誰にも看取られもせずに、そのまま一人で死に絶えた。
神の罰があたったと言えば、確かにそうなのだろう。
だけど盲目とも言われ、大幅に狂っているともいう、
恋するものを、嘲り笑えるものなど
この世に一人として、果たしているのだろうか?
いるとすれば、恋もまともにしたことのない
こどもだけだろう。
そうこれは、まだまだ、エンディングではない。
始まってしまったという、プロローグにまだ過ぎない。
何故なら、
〜200年後〜
彼女は、転生する。
生まれ変わってまた、出逢ってしまう。
少しだけ遅く、魔法使いも同じ場所近くへと、
魂の意志で転生する。
生まれ変わっても、また出会う、宿命の二人を
神は、まだみないふりで、見つめているのだろうか。
何のために、出逢うのか、今はまだ、その意味すらも、不明だが、
いつか解き明かされるときがあるのだろうか。
人と人の出会う理由。
ソウルメイトとしての、絆を感じながら。
また、巡り合ったとき、真実の愛はそこにあるのだろうか?
愛するということを、理解できたときに、見えてくるものが
二人にあるとしたら、それは幸せに導くものであろう。
哀しい宿命を超えて、もっと高いレベルまでも上がろうとする
魂が正しい方向を向いていくことを、望むのみだ。
愛は、確かに素敵だよね。
愛憎という、言葉は、存在しないだ。愛憎はないよ。
何故なら、愛することと、憎むことは、紙一重だ。
だけど合わせた感情が一緒にはなることはないんだ。
愛することは、憎むことではないから。
永遠に切れない鎖は既に、
もう二人を決して離してはくれない…。
恋って 何?
愛って 何?
生きるってことは 何?って
って一度はあなたも、考えたことがありますよね。
私もよく考えます。でも、答えはみつからない。
不明のままです。
だから、探していきたいのです。
あなたも、一緒に、私と旅に出ましょう……。