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第九話

 第九話 ―緑―


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 四人はただ学校の屋上に寝そべっていた。

「・・・暇くせー」

「結局、ここでも帰宅部になっちゃったけど、暇なのは相変わらずねー」

「いい部活が無さそうだからだろ?」

「そうだ!」

 篠崎がいきなり飛び起きた。

「無いなら作ればいいのよ!部活!」

「「無理無理」」

 あっさりと否定された。

「なんでー」

「部活申請もろもろをやって部を立ち上げたとして、何するんだよ。一体」

「心霊、UFO、UMA・・・・・・」

「「勝手に一人でやっとれ」」

 篠崎が再び寝そべった。

「暇だから、志隆とでも付き合っちゃおうかな〜」

「「は!?」」

 二人が勢いよく開眼した。

「でも、まんざらでも無くない?ルックス、性格もろもろ」

「ありえない跳ねまくりの白髪、顔は・・・まあまあ?

 としても、性格はどう考えてもよくないと思うけど」

「もしかして、志隆と二人きりになったこと無いでしょ」

「そんな機会、無いからね」

 篠崎はわざとらしく両手を広げ、やれやれといった仕草をした。

「二人きりになるとね、案外優しかったりするんだよねー。あれで」

「『あれ』呼ばわりはこの際置いておくとして、

 志隆が優しい、だと!?

 かれこれ10年間腐れ縁として連れ添ってきた俺でも知らないぞ。そんなこと」

「それは、相手が男だからでしょ?」

 小暮が起き上がる。

「もしや・・・いや待て・・・それは・・・・・・」

「どうかしたの?」

 小暮が自分の顎を左手の人差し指と親指ではさんだ。

 似合わない仕草である。

「ここに越す前のことだったが、何でも三人の美少女から声がかかったそうで」

「「脳内妄想でしょ」」

「いや、それでもまんざらじゃなさそうだ。あいつ、遅刻することはあるが、センコー以外にウソはつかないからな。

 これは腐れ縁という名の絆を信じてみたほうがいいかもしれない」

「そうかなぁ」

 いびきもたてずに静かに眠っている志隆の口からは、何も語られることはもちろんなかった。


「どう説明するのだ?美月指揮官殿」

 美月は防衛庁本庁舎へとやってきていた。

 他の長官達も来ている。

「あれは突発的な事故であり、私達には何の説明もできません。不可能です」

「乗っていたパイロットなら少しはわかるのではないのかね?」

「現在気絶しています」

 室内に嘲笑が飛び交う。

「そんな肝っ玉の者が世界を救うためのパイロットなどとは、いささか信じがたいものだな?美月指揮官」

「初めて肉体をえぐり出される場面を見てしまえば、そうなってしまうのもいたしかたありません」

「そろそろ、アメリカへと返したほうがいいのではないかね?

 もともと送りつけてきたのはあちらのほうだ。責任も少しはあるだろうからな」

 賛成の声があがる。

「左様。もともと送りつけてきたあちらが悪い。送り返すべきだ」

「しかし、現在死生物は日本にしか出現しておらず、返してしまえばこちらは大変なことに――」

「こちらにはレオムがあるではないか。十分であろう」

 美月は拳を強く握りしめた。

「しかし、レールガンでの攻撃はもともと倒せる可能性の低い物であり、かと言って多用すると衛星軌道上の物を撃ち落してしまうような自体にも――」

「ならば今回、死生物様がわざわざ残してくれた死生物を使えばいいではないか」

「現在、その死生物の収容は完了していますが、腐敗がひどく、現在も進行中で――」

 目の前にいた一人が机を叩いた。

「我々が欲しいのはエレクシエストをこの国にとどめておく言い訳ではない。

 そもそも、いつ、また覚醒してこの国を、世界を襲うようなことはなんとしてでも避けたいのだ」

「ですが、その間まではエレクシエストが死生物を倒すことになり――」

「もういい。下がれ。らちがあかない。

 あと一回。

 あと一回同じようなことがあれば、即返す。わかったか」

「・・・はい」

 美月は唇を噛みながら、乾燥している皮膚を歯で剥がした。


「覚醒は準覚醒だった!?」

 志隆が格納庫で驚いていた。

「まあ、よくよく考えてみると、エレクシエストが勝手に動いたのと同じくらいの速度だったからな。

 AST粒子砲以外は」

「じゃあもし、本当に覚醒した・・・ら?」

「レールガンで仕留められなかったら、キラカゼ、日本どころか、生物が全て絶滅し、死生物だけの世界になる」

「・・・・・・」

 志隆が目の前のエレクシエストを見る。

 何も無いことがあった。

「英子さん・・・気絶してるんだよね」

「本人が知らぬ間にやらかす気か?」

「謝りたいだけ」

 冗談を無視してそう言い放った。

「そうか・・・・・・」

 二人が足元を見つめる。

「一体、どんなのを見たんだろうね。

 見て一週間も気絶するようなのって」

「出てきた後のことを考えてみると、内臓及びその他の光景。

 もしくは、想像もできないような何かが起きたんだろうな。

 だが、内臓及びその他だとしたら、一週間はほぼありえないな」

「ということは、想像もできないような何か・・・・・・」

「外見からは一切見えるわけのない核を咥えていたんだからな」

 再び二人がエレクシエストを見る。

「この中にルエがいるのか・・・・・・」

「核を傷つけずに飲み込んだとしたなら、そうなるだろうな」

 一体二心。

「そういえば、エレクシエストに核はあるの?

 普通に頭とか、飛んだりしてるけど」

「核の探知は不可能だ。

 レナから聞いたと思うが、死生物の構成物質はどの部位でも、どの型でも同じ。

 第一、それができたらレオムしかいらないだろうが。

 わざわざ、暴走するようなやつを置く必要は無いからな」

「そうだよね。考えてみると」

 志隆が飽きもせずエレクシエストを見る。

 あごが動いた。

「う、動いた!!」

「それぐらいは動くさ。

 一つも動かないで爆睡することなんて、そうそうないだろ?」

「そうだよね。寝てる・・・んだからね」

 寝ている、ということを意識してみても、安らかな寝顔にはとても見えなかった。


 また二人が屋上で足を下におろしていた。

「防衛庁からの召集・・・・・・

 八年間で一回あっただけのものを一年で・・・か」

「どんなことだったんですか?」

「覚醒だ」

 美月が目を見開く。

「前にもあったんですか!?」

「あったにはあった。

 が、今回のものよりはしごく簡単なものだ。

 ただ、パイロットが命令した動きより、2m前に足を突き出しただけだ」

「理由はどう言ったんですか?」

「理由・・・というより単なる言い訳だが、誤作動、で済ませた。

 その頃は長官どもも馬鹿勢揃いだったからな。

 ただ・・・・・・」

 そこで、言い出しづらそうに言葉を区切る。

「ただ・・・?」

「その時に、エレクシエストは志隆を飛び越えたんだ。

 そして、自らの足を犠牲にして守った。

 一般人なら、ありえないことだ」

「・・・志隆は一般人ではない、とおっしゃりたいのですか?」

「簡単に言えばそういうことだ」

 美月が勢いよく立ち上がる。

 目には怒りが見えた。

「そんなわけないじゃないですか!!」

「そうだ。そんなわけはない・・・と信じたい。

 だが、事実は事実だ。お前も冷静に受け止めろ。情が入りすぎている。

 滝綱美月という一人の人間には必要だが、滝綱美月指揮官には必要無い」

「・・・すみません・・・・・・」

「昔の私にはよくあったものだ。気にするな」

 美月がまた屋上へと腰を下ろす。

「死生物の存在意義は、あると思うか?」

 いきなり出た大きな質問に美月はたじろいだ。

 だが、しっかりと答えた。

「あると思います」

「具体的に、どんな存在意義だ?」

「人間を絶滅させる、という存在意義です」

 何も聞こえず、何も響かない。

「人間は、地球・・・いえ、世界中で強力な存在であるにも関わらず、自分達が木から降りてしまったがために、自然から隔離されました。

 自然から隔離されたのなら、生物ではない。

 生物でないのなら、殺しても問題は無い。逆に殺してしまったほうが、都合がいいと思います。

 死生物は、環境に生まれた意思なのかもしれません」

「死生物は環境が生み出した意思・・・・・

 つまり、神の遣わし者、使徒、といったところか」

「はい」

 一陣の風。

「くしゅ・・・・・・」

「・・・まったく」

 由佳里が美月に上着を優しくかけた。

「・・・ありがとうございます」

「夏ももうすぐ終わる。そろそろ気をつけろよ」

「はい」

 最後の残された蝉が、静かに鳴いて響いた。


 ただ白く広い病室。

「・・・・・・」

 青髪の少女が横たわっていた。

「・・・英子さん」

 小さくつぶやいてみても、聞こえるわけは無かった。

「・・・・・・」

 何百もあるベッドの中に一人だけ。

 プライバシーよりも効率を優先したいらしい。

 志隆がそばにあった丸イスに腰掛ける。

 まだ少し、温かかった。

「誰かいたのかな・・・・・・」

 志隆が携帯電話を取り出す。

 メールをしている気配は無い。

「そういえばここ、ケータイ駄目だったりするのかな」

 辺りを見渡しても、それらしき表示は無かった。

「ま、いっか」

「駄目です」

 いるはずのない声に過剰反応する。

「だ、だれ!?」

「私です」

 英子は眼鏡をかけ直している最中だった。

「もう起きていますよ」

「いつから?」

「神崎さんが携帯電話をいじっているときから」

 志隆が英子に顔を近づける。

 かなり近い。

「な、何ですか?」

「寝てるときぐらいしか眼鏡外さないと思うから、どんなのだったかなぁ、って」

「でしたら・・・・・・」

 英子が眼鏡に手をかける。

「待って」

「え?」

「外さないで」

 英子は眼鏡をかけたまま困惑した。

「ですが、私が眼鏡を外した顔を見たい、と・・・・・・」

「いや〜、そこで取っちゃ駄目なんだよ〜。

 眼鏡っ娘、っていうのは、常に眼鏡をかけているくせに、取っても可愛い、というのであって、『取れ』と言って取ったら、もうその人は眼鏡っ娘ではないのであって、つまりは取ってしまったら眼鏡っ娘としての存在価値、意味、そして可愛さがまったく無くなってしまうのであり、逆に『取れ』と言っても『絶対無理ですっ!』って答えて、意地で外そうとしても取れない、または取るのを阻止するもの。しかも、この『絶対無理ですっ!』の『っ』が重要であり、『絶対無理です!』と『絶対無理ですっ!』では可愛さが十倍、百倍・・・いや、一千万倍違うわけだ。であって――」

「つまり、外せと言われれも外さずに『絶対無理ですっ!』と断ればいいのですね?」

 半永久的に続きそうな熱弁を英子がなんとか止めた。

「そういうこと。それとありがとう」

「二人揃って、眼鏡っ娘談議〜?」

 志隆にとってはあまり歓迎できない人物が入ってきた。

「何で入って・・・うわっ!」

 かりんが志隆に後ろから思い切り抱きついた。

「志隆に会うためと、ついでの見舞いに決まってるでしょ〜?」

「いや・・・あの・・・当たって・・・・・・」

「え?サービスよ。サ・−・ビ・ス」

 そう言ってより強く押し付けるように抱きしめた。

「あふゃあ!」

「それとも、直に触りたい〜?」

 かりんが静かに志隆の右手と右手を合わせて自分のほうへ近づける。

「や、やややや、や――」

「やめてくださいかりん!私の目の前でそんなにはしたないことをしないでください!」

 英子は当の二人よりも息を荒げ、顔を真っ赤にしていた。

「も〜、耐性無いんだから〜」

 しかたなくかりんが志隆の手を離した。

「まったく・・・・・・」

「ところで〜、英子は志隆に魅力みたいなのを感じないの〜?」

「魅力?」

 英子は志隆全体を一往復する。

 そして、

「無いです」

 男子としてはあまりに愕然とする言葉を言った。

「み、見かけによらず、厳しいわね〜」

「・・・神崎さん、もしかして傷つきました?」

 志隆の頭は中と外が共に同じ色で染まっていた。

「す、すみません!何でもするので許してください!

 ・・・も、もちろん、私が許可できる範囲内でお願いします・・・・・・」

「その付け足しが出てくるってことは〜、内心もしかして〜・・・・・・」

「わ、私とかりんを一緒にしないでください!」

 病室のほとんどが白のまま、意味も無い一日がまた過ぎた。


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