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第六話

 第六話 ―茶―


「英子をキレさせたの!?」

 志隆はレナと部屋で話していた。

「ああ〜。パイロットの人だったんだ〜」

「パイロットの人だったんだ〜、じゃなくて英子をどうやってキレさせたの?

 方法がわからないんだけど」

「そっちかよ」

 思わず志隆がツッコム。

「えーっと、冗談で、口移しでケーキ食べさせて、みたいなこと言ったらほんとに実行しちゃって」

「へー、口移・・・は!?」

 レナが志隆の襟首をつかむ。

 顔が近い。

「ほんと?」

「ほんと」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんと」

「ほんとのほんとにほんとでほんと?」

「ほんとのほんとにほんとでほんと」

 疑いの色が消えない。

「信じてよー。自分が好きな男なんだか――」

「あ〜〜〜〜!」

 レナが志隆を勢いよく揺さぶりはじめた。

「なんで英子まで参戦してくるのよバカ〜〜〜〜!」

「そぉんなぁにぃふぅったぁらぁくぅびぃがぁ!」

「ああごめん。勢いで」

「そぉんなぁこぉとぉいぃうぅなぁらぁはぁやぁくぅやぁめぇてぇ!」

 星が飛んでいた。

「ひぃどぉいぃよぉ〜」

「大丈夫!?」

「みぃてぇわぁかぁらぁなぁいぃ?」


「・・・?」

 人が動いていない。

「やけに誰も声かけてこないと思ったら・・・・・・」

 そのまま格納庫へと歩き出した。


「遅い」

 時野はやはり、無表情で立っていた。

「みんなが止まってるのに気が付かなくてさ」

「鈍感」

 何も感情を含めずに放たれる言葉ほど重いものは無い。

「乗って」

「そういえば、今日は止めるの遅いんだね」

「まずは前回の復習から。

 前進、後退、それと腕を動かすにはどうすればいいか」

「聞いてないし」

「早くやって」

 前回やった動作を行った。

「こうだよね」

「今回は動力源について。

 エレクシエストの動力源は背部にある主電源と、それぞれの足のふくらはぎの裏にある予備電源。

 主電源は連続1時間の操作が可能。破壊、または故障すると予備電源に切り替えられるわ。

 予備電源は連続1分の操作が可能。主電源を破壊されたらほぼ終わりと考えていいわ。

 あまり使われることは無いけど、主電源の出力を最大にして操作することも可能。そこのレバーでね」

 そう言って、一番隅にあるレバーを指差した。

「動きはデルのときとほぼ変わりなくなるわ。5分しかもたないけど」

「デルのときとほぼ変わりない・・・?」

 相変わらず、志隆と目を合わせないまましゃべった。

「第一型死生物、デル。

 14年前に突如ニューヨークへ出現。

 米軍戦車の砲撃約1万発、ミサイル3千発、核兵器12発によってニューヨークの町と共に睡眠状態に入る。

 そのせいでアメリカは今でも昔の面影も無いほどすたれているわ」

「ちょっと待って!14年前って!」

「あなたの家族はデルとアメリカに殺されたわ」


 僕の14年前は無いほうがよかった。

 14年前のアメリカ旅行のときに起きた大地震。

 僕をのぞく全員が、死亡。

 それから僕はおじさんとおばさんに引き取られることになった。

 ・・・涙は出なかった。

 ただ忘れたかった。

 現実から逃げた。

 手首を切った。

 腹を刺した。

 学校から飛び下りた。

 痛かった。

 ものすごく痛かった。

 でも、死ななかった。

 死ねなかった。

 忘れられなかった。

 何も・・・変わらなかった。

 現実が変わらないなら、自分を変えようと思った。

 最初は大変だった。

 自分を作るということが何より大変だった。

 そして僕は「俺」から「僕」になった。

 そしたらまともになれた。

 みんなは昔を忘れてくれたし、僕も昔を忘れた。

 楽しかった。

 嬉しかった。

 おじさんとおばさんがあの二人に見えた。

 でも、全てが自分でない気がした。

 何か重要な部分が欠けていた。

 そのうち、自分がわからなくなった。

 僕は「僕」なのか「俺」なのか。

 今は多分、「俺」には帰れない。

 帰らない。

 そして、そんなことをしているうちに現実がいきなり追いついた。

 「俺」が目覚めてしまった。

 あんなことにはなりたくない。

 「僕」に戻りたい。

「キラカゼ上空1000mにAST反応!

 第十四型死生物、ノトです!」

 そうか、ここ、指揮室なんだ。

「平塚清輝はエレクシエストに搭乗し、待機!」

「空中・・・か」

「対空ミサイル発射開始!」

「敵の外的損壊0!」

「対空ミサイル発射停止!」

「地下ゲート開放完了!」

「四次元ゲート完了!」

「合図を!」

「エレクシエスト、投下!」

 どうでもいいや。

「ノト、エレクシエストへ突撃!」

「音速、超えています!」

「ぐあっ!」

「頭部直撃!損壊率76%!」

「βよこせ!」

「β投下!」

 エレクシエストなんて。

「ノト、音速滑空開始!」

「でぃぁぁぁぁああああああ!」

「頭部接続部完璧に損壊!頭部信号無し!」

 デルなんて。

「ノト、音速滑空開始!」

「このやろう・・・このやろうこのやろうこのやろうこのやろおぉぉぉぉおおお!」

「搭乗室1m上直撃!危険です!」

「撤退!」

「・・・・・・」

「撤退して!」

「・・・やなこった」

 お父さんなんて。

「エレクシエスト、ノトを素手で拘束!」

「肘部、耐久限界っ!」

「きえろぉぉぉぉぉおおおおおおお!」

 お母さんなんて。

「ノト、消滅」

 お姉ちゃんなんて。


「お疲れさん」

「そりゃどうも。おかげでこっぴどく叱られたけどな」

 清輝がレナから渡された飲み物を飲んだ。

「・・・ぶっ!」

 清輝が飲み物を吹き出すと共にレナの顔がにやける。

「なんだよ・・・これ」

「黒ゴマ粉末ジュース」

 見ると、下に少量の沈殿があった。

「健康に良さそうなもの作りやがって」

「ツッコムのはそこ?!」

「もちろん。外道万歳だ」

 清輝は結局渡された黒ゴマ粉末ジュースを飲み干した。

「ところで、志隆はどうしたんだ?いきなり」

「全然」

「お前、好きなんだろ?あいつのこと」

「近すぎるからわからないこともあるかもね」

「・・・どうだか」

 エレクシエストはまだ首から上が無い状態だった。

「それよりこれ、見たことある?」

 レナは清輝に「報告書」と書かれたものを手渡した。

「・・・死生物の報告書・・・!!」

 清輝の目が一気に開いた。

「どう思う?」

「どう思うも何も・・・ありえないだろ?」

 明らかに動揺している。

「国と防衛庁が決めた話。私達にはどうにも手出しできないわ」

「それにしたってこれ・・・防時局はまだやることがあるっていうのに」

「決めたものは決めたもの。逆らえないわ。上には」

 清輝がわざと視線をずらして言った。

「お前・・・そういう風に変なところだけ冷静になるのやめろよな。

 お前が嫌いになる」

「・・・そう」


「乗らない」

「なぜ」

「乗らない。乗りたくない」

「今さら家族を殺した犯人の中に乗れないって言うの」

 搭乗室へと続くブリッジに二人はいた。

「そうだよ。当たり前だろ?」

「当たり前でも、嫌でも、憎くても乗って。

 この技術はあなたにいずれ必要になることなの」

「前から思ってたんだけどさ、何のためにこんなことするの?」

「あなたに必要だから」

「なんでわかるんだよ」

 徐々に声があらがっていく。

「知っているから」

「なんで知ってるんだよ」

「知らないわ」

「なんで知ってるのかを知らない?」

「そうよ」

「何言ってんだよテメェ!!」

 時野が胸倉をつかまれて壁に叩きつけられた。

「そんなことあるわけねぇだろうがよ!!」

「・・・・・・」

 顔の色一つ変えずに志隆を見ている。

「なんとかいえよこのクソ女!!」

「元の自分に・・・戻っていいの」

 志隆が思わず手を離した。

「そんな・・・こんなこと・・・いやだ・・・戻りたくない・・・・・・」

 志隆が震えていた。

「大丈夫。まだ一時的なはずだから」

「何で知ってるの?」

「・・・知らないわ。

 乗って」

 時野は何事も無かったかのように振舞う。

 時を戻したかのように。

「・・・うん」

 志隆はゆっくりと深呼吸をした。

「これは今、デルじゃない。これは今、デルじゃない。これは今、デルじゃない・・・・・・」

 静かに、腰掛けた。

「主電源、予備電源の継続時間と出力増幅方法は言ったわね」

「うん」

「次は四次元ゲートについて。

 知っていると思うけど、四次元ゲートは遠ければ遠いほど世界最速の移動手段であり、防御の要としても使えるわ。

 今現在は指揮室からの制御でしか開くことが出来ないけど、搭乗員が直接すぐに開いたり閉じたりする技術も開発中。

 多分、一年後ぐらいには出来ていると思うわ。

 四次元ゲートに入って出てこられる唯一の物体は死生物と、死生物と密着している物体のみ。

 ちなみに、無限に広がる空間だからゴミ捨て場としても利用できるわ」

「ゴミ捨て場?」

「将来的にね。

 今日はここまでにしておくわ」

 時野が搭乗室から出て行く。

「・・・これだけ?」

「はっきり言って一言で立ち直るとは思ってなかったから、考えて無かったわ」

「見直した?」

「知らないわ」


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