第三話
第三話 ―水―
「あ゛〜〜〜〜」
何事も無く日常は過ぎていく。
「まさか自身で避難所逝きとはな〜」
先日のことはどうやら地震、ということで片付けられているらしい。
「でも、避難所でももんじゃがあるとは思わなかったよ」
もんじゃ屋・・・というわけではなかったが、簡易屋台のような物が出来ていた。
・・・謎である
「俺達のために用意されてるような気がするんだが」
「んなこたぁない、んなこたぁない」
材料が運ばれてくると共にいつもの作業がはじまる。
「でも、本当にあれ、地震だったのか?」
「だよね。何か大地震を体験したっ!っていう気がしないし」
「少し気になって航空写真調べてみたんだけどね」
「まっじめー」
小暮がすかさず茶化す。
「やめてよ小暮」
「で、調べたらどうだったんだ?」
「どう考えても私達と志隆が分かれる辺りのところを爆心地にして爆発があったように見えるの。
持ってきたから、見る?」
「うん」
篠崎が他の高校生と比べたらシンプルなカバンの中からアクリル製のフォルダを取り出す。
二人が同時にそれを覗き込む。
「ほお、確かに」
「でしょ?」
「神崎くんは見ないの?」
志隆は意識的に飛び跳ねた。
「え?」
「見ないの?」
「う、うん・・・・・・」
「どうしたのよ。いつもはこういうのがあると自分を忘れて見るくせに」
「そういう日だってあるよ」
「・・・今日はクジラが戦艦を食べるかもね」
「雪とか雨じゃないの?普通」
なんだかんだ言いながら、志隆が航空写真を覗き込む。
見事なクレーターが、そこに出来ていた。
「・・・・・・」
「感想は?」
「うん・・・すごい」
「薄いなぁ」
篠崎が航空写真をカバンの中にしまった。
「もし・・・あくまで『もし』の話だけど、これがもし、誰かの隠ぺい工作だったら・・・どうする?」
「まっさかー」
一人、二人とは違うリアクションをとった者がいた。
「でも、地震だとこんなことにはならないと思うけど?」
「それは確かに事実だとは思う。しかし!理想と現実というものはかけ離れているものだ」
「・・・かっこいいこと言ったつもり?」
「・・・はい」
膜がだいぶ張り始めた。
「そもそも、隠ぺい工作をする必要がなんである?」
「そ、そうだよ。なんのために爆発を地震に偽装するの?」
「これもまた『もし』だけど、人類の混乱を避けるため・・・とか」
「爆発ごときで人類は混乱しないだろ?」
四人は土手を崩し始めた。
「人類以外の巨大生物がいっちゃったりとか」
しばらくの間、焼ける音だけが耳に響き渡った。
「まあ、SF読み過ぎってことで」
「はいはい。現実をよく見ましょ〜ね〜」
「・・・大丈夫?神崎くん?」
志隆は本人から考えても異常といえる汗をかいていた。
「い、委員長に心配されるようじゃ、本当にだめかもね」
「委員長呼ばわりしないでよ。どうせ強制なんだから」
「わかったよ。鈴木」
「大丈夫でしょ」
志隆は防時局支部の中にいた。
入らせてもらえるようになったらしい。
「でも、半分気づいてるようなものだと思うけど・・・・・・」
「一応上官なんだから。私だって。
ま、無理に直せないていうなら直さなくても・・・・・・」
「最後の方よく聞き取れなかったから、もう一度言ってくれない?」
「とにかく!」
美月が勢いよく机を叩く。
「そんな心配はしなくても大丈夫。ましてや事情を知ってる志隆くんがいるんだとしたらなおさら。
死生物、エレクシエスト、防時局。
この三つのワードが一つでも出てきたら言って。対処するから」
「わ、わかったよ・・・・・・」
部屋の明かりが全て赤に変わった。
「太平洋沿岸10kmにて自衛隊海軍空母艦二隻が謎の消失!
レーダーには体長5kmを超える巨大生物!
体内にAST反応あり!死生物第十二型、ヨギ!」
「つい一週間前に来たばっかりだっていうのに・・・急にせっかちになっちゃって・・・・・・」
「涼白かりんはエレクシエストに搭乗し、待機!」
美月がそばにあったマイクを手に取った。
「ヨギは絶対領海内に侵入させないで!
ゲートで南極に飛ばして!」
「了解!」
「エレクシエストは脚部を水中戦用に換装!換装が終了しだいヨギより1kmに飛ばして!」
「了解!」
美月がマイクから手を離した。
「ゲートってどういう・・・・・・」
「いいから来て!」
「は、はいっ!」
「状況知らせて!」
「エレクシエスト、脚部換装終了!これより投下です!
ヨギは以前、活動を止めません!」
「地下ゲート開放完了!」
「四次元ゲート完了!」
「合図を!」
「エレクシエスト、投下!」
モニターに写っているエレクシエストの下の床が開き、成す術もなく地球に引かれていく。
突如、消えた。
「消えた!?」
「エレクシエスト、南極へ到着!ヨギ、エレクシエストへ向かっていきます!」
「δちょうだーい」
空気に似合わないマイペースな声が響いた。
「δ、投下!」
大剣が投下され、また消えた。
「エレクシエスト、ヨギと近接戦闘を開始!」
「衛星映像、モニターに出します!」
比較するものが無いためわからないが、相当大きいことは文脈からわかる。
エレクシエストの姿は見えなかった。
「エレクシエスト確認不可能の為、モニター終了します。
レーダーに切り替え」
赤い点と異形の魚のような物が写った。
「ヨギ、エレクシエストに急速接近!」
その体から考えてもありえない速さで点に近づいていく。
そして。
「エレクシエスト、ヨギに取り込まれましたっ!」
「操縦者とエレクシエストの生存確認急いで!」
「生存確認中。意識がある場合は何か言葉を発してください」
しばしの沈黙が続く。
一秒一秒をおうごとに焦りがつのる。
「肉マン食べた〜い」
多少の笑いと共に指揮室が安堵に包まれた。
「ヨギのAST反応拡大!」
「操縦者は衝撃に備えて!オペレーターはゲート準備!」
「了解!」
「エレクシエスト前部装甲板、及び起動部融解中!20!43!57!88!」
モニター隅にあるゲージが見る間に減っていく。
「ヨギ体内に四次元ゲート展開!」
「エレクシエストの可動状況確認!」
「両腕起動部、可動可能!両前脚部、完璧に損壊!」
「AST反応、正常に戻りました!」
「四次元ゲート、収束」
「くうっ!」
突如指揮室にかりんの声が響いた。
「どうしたの!?」
「ヨギが戦艦・・・を・・・・・・
足が・・・折れま――」
砂嵐。
「ヨギ、消滅!」
「すごかったよ」
「どうも」
しばしの沈黙が流れる
「・・・何も言わないんだね」
「あきらめたわ。
それにその口調で・・・い・・・・・・」
語尾が小さくて聞こえなかった。
「聞こえないよ」
「とにかく!」
また美月が机を叩いた。
「四次元ゲートのことは聞かなくていいの?」
「うん、じゃあ、お願い」
美月がパソコンを起動し始めた。
「一次元とか二次元って知ってる?」
「一次元はなんだか分からないけど、二次元ってアニメとかのことでしょ?」
「まあ、そんなところでいいわね。
で、三次元がここの世界。四次元が――」
「ドラえっ?」
美月が慌てて机ごと志隆を押し倒した。
「いやっ、あのっ、そのっ・・・・・・」
「ああ・・・ごめん。誤解しないで」
「誤解するってそりゃあ」
志隆が軽くホコリを払いながら立ち上がる。
「しかもこの部屋、許可がないと入れないんでしょ?」
「うん」
「うん!?」
美月が途端にどきまぎし始める。
「いや、その、あの、あ、えっと・・・・・・」
「無理・・・してるの?」
美月が顔を真っ赤にしながらなんとかうなづいた。
「だ、だけど・・・その・・・私だって・・・指揮官だから・・・・・・」
「一人ぐらい、その言葉で話してもいいんじゃないかな?
せっかく、かわいいんだから」
美月が後ろを向いたところで硬直した。
「今、何て言った?」
「?・・・一人ぐらい、その言葉で話――」
「その後!」
「せっかく、かわいいん・・・だから?」
後ろ姿だけでも、顔がどうなっているのかはわかった。
「・・・・・・」
「・・・どうしたの?」
「初恋の相手・・・誰だと思う?」
「同級生・・・とかじゃないの?」
美月が首を横に振る。
水色の髪が少し揺れる。
そして、振り返って真摯な目で志隆を見つめた。
「私をはじめて誉めてくれた人・・・それはもちろん、あなた」
優しい・・・笑顔だった。
「え・・・そんな・・・困りますよ・・・・・・
だって・・・そんな・・・はじめて誉めたからって・・・そんなことで・・・・・・」
「私はがんばって、がんばって、がんばって、がんばっても、友達にも先生にも親にも誉められたことがなかったの。
親がすごかったから、それがあたりまえだと思われてて。・・・本当にただの子供だったのに・・・・・・
いくら努力しても親にも何にも言われなかったんです。
だから、小学生のことからずっと、はじめて誉めてくれた人を初恋の人にするんだ、って決めてました。
だから今日、報われました」
ほんの少しの沈黙の後、志隆が続ける。
「いや・・・それだからって・・・・・・」
「私のこと嫌・・・い?」
「そういうことでも・・・・・・」
「じゃあ、キスしていい?」
是非を問わずに美月が志隆へと近づいていく。
「で、ででっ、でっ、で、でも、それは後・・・に・・・・・・」
志隆を壁によりかからせて自分の身長へとあわせながら、目を閉じて近づいていく。
「・・・・・・」
自分から言っておきながら、当の本人より頬が赤らまっていることがよくわかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
端から見ても、両方初心者なのがよくわかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・!」
「・・・・・・?」
志隆の顔が青ざめていく。
ついに自分を支えきれなくなり、その場に倒れた。
「し、志隆!」
呼吸困難。