第二十九話
第二十九話 ―灰―
「くらえっ!」
量産機のバズーカが甲型の頭部に直撃し、吹き飛ぶ。
そして、その場に崩れ落ちた。
「よっしゃ!」
移動した瞬間に横に熱線が放たれる。
乙型が兵装ビルの銃撃を避けながらわきを通過する。
「バズーカ弾切れ?くそっ!」
バズーカをその場に投げ捨てると、背部から巨大なブレードを取り出す。
乙型が移動する先に飛んで回りこむ。
通り間際に分断する。
「おっ!バズーカ!」
着地するとすぐに構え、ブレードを収納する。
「よっしゃ!全弾入り!」
量産機のカメラが一部分にズームする。
「No.1433・・・恵理か・・・・・・
うわっ!」
背部に衝撃。
首のみが回転し、何があったのかを確認する。
「・・・甲型!」
甲型はすでに剣を振りかざしていた。
「・・・もう行くことになるぜ。恵理。純也」
零距離でバズーカを放った。
「甲型、二十体撃退!」
「乙型、三十体撃退!」
清輝とレナだった。
「私・・・まだ怖いよ・・・・・・
いつも乗ってたはずなのに・・・こんな・・・・・・」
「遠隔操縦とはわけが違うに決まってんじゃねえかよ。
来るぞ!」
乙型の編隊がせまる。
熱線が放たれるその前に何とか兵装ビルの陰に隠れ、やり過ごす。
清輝が折れたブレードを発見する。
自分のブレードをレナの量産機に放り投げ、折れたブレードを空に構える。
「くらええええっ!」
真っ直ぐに空へと放たれたブレードが乙型の体をとらえる。
落ちた乙型に反応し、全体が旋回して清輝達へと向かってくる。
レナの量産機が清輝の量産機にブレードを投げる。
「行くわよ!」
「ああ!」
次々と放たれる熱線を避け、中心にいる二体の乙型を斬り倒す。
編隊が編成される隙を与えないうちに両脇へと旋回し、全体を斬り倒した。
「「乙型、十体撃退!」」
レナが文句をいい始める。
「乙型の方の報告は私でしょ?」
「まあいいじゃねえかよ。本部もそれぐらいわかってるだろうしな」
二人が周りを確認する。
「やばいわね・・・・・・」
周りを二十数体の甲型に囲まれていた。
全体が剣を逆手に構え、清輝達へと向ける。
「・・・・・・」
剣が放たれ、二人へと迫る。
「だめええぇぇぇぇぇ!!」
しかし、二人に剣が突き刺さることはない。
その代わりに現れた物。
白い翼。
「「志隆!」」
上空からNEONが姿を表していた。
突き刺さった剣を自らの体へと吸収する。
甲型が新たな剣を製造すると、全体がNEONに向かって突進してくる。
NEONの全ての弓が矢をつがえ、前方の甲型に向かって発射する。
全ての矢が頭部をとらえ、その場へと崩れ落ちる。
それぞれの腕の弓を元の爪状に戻し、振り返りざまに一番最初に向かってきた甲型を薙ぎ払う。
その後も次々に襲いかかってくる甲型を薙ぎ払っていく。
そして、最後の甲型を斬りおわり、周囲を少し確認した後、全く光の無い空へと飛び立っていった。
「行っちゃったね・・・・・・」
「あいつは、ああしなけりゃならないと思ってるさ。自分でも。
・・・ん?」
「どうしたの?」
「あれ・・・・・・」
道路の中央線が少し開き、歪んだまま止まっている
「道路の下に何かあるのか?」
「とりあえず、開いてみましょうか」
歪んで開きが小さくなっている部分に手をかけ開いていく。
「これ・・・かなりでかいな」
「あっ!」
レナの量産機が手を離した瞬間に、自動で扉が開き、そして下から何かがせり上がってくる。
巨大な砲身。
後ろについている極太の電線。
「これは・・・・・・」
「対宇宙戦用防衛兵器、陽電子砲・・・・・・
ポジトロンライフルをついに使うのね・・・・・・」
レナの量産機に本部から通信が入る。
「・・・こちら・・・567号機・・・・・・」
「レナ・・・ポジトロンライフルを頼む」
「NEON、BABELへの直接攻撃と思われる飛行行動を開始!」
「あいつらも、いよいよ決戦をするときが来たと思っているのか。
しかし、敵はでかすぎだぞ。どうする気だ?」
一型機と二型機の通信機は稼動しているが、言葉が聞こえることはなかった。
「全乙型がNEONに向かって移動しています!」
「志隆!時野!」
声に気が付いてNEONが下を見渡す。
人間にとっては真っ暗でも、NEONの眼には確かに全体が見えていた。
「・・・・・・」
ざっと見ても一万はゆうに超えている。
NEONは羽を全て矢に変換し、それぞれへと向け、全ての弓に矢をつがえた。
そして、もう一度翼を生成して矢へと変換し、それを三度繰り返した。
乙型が人間でも目視できる位置に来る。
その時。
数百万本の光の矢が全ての乙型をとらえた。
乙型が太平洋へと落ちていく。
そして、再び飛びはじめると数秒で止まる。
手をBABELへとつく。
「・・・・・・」
そして、NEONはのめりこんでいった。
「あれ・・・なんだ?」
「え?」
シェルターへと向かっている三人が、ふと上空を見上げる。
そこにはほんのりと光っていて、真っ暗な空へと飛んでいく物体があった。
「・・・志隆?」
篠崎と小暮が鈴木を見る。
「志隆がそれに乗ってるのか?」
「乗ってるんじゃなくて・・・あれ自体が志隆・・・?」
「まさか・・・・・・」
物体が静止する。
周囲が強く光はじめる。
そして、何百万本の何かが放たれた。
「・・・何したの?」
「倒したんじゃないのか?何かを」
「あの・・・飛んでる白いやつを?」
「まさか・・・・・・」
そして、また物体が飛びはじめると、空の黒に染められていった。
「消えた・・・・・・」
「絶対いるよ。あそこに」
「どうしてそんなことがいえるんだ?」
「わかんないよ。でも、第六感っていうか、そんなのが叫んでる気がする」
「それじゃあ・・・応援してやったほうがいいのかな?」
丘の上から自衛隊らしき人が声をかける。
「何をしているそこの三人!早く入れ!」
「「「はい!」」」
三人があわてて走り出し、篠崎と小暮が先にシェルターに入っていく。
最後に鈴木が振り返る。
「がんばって。志隆。顔も知らないけど」
「NEON、BABELと融合しました!」
「取り込まれたのか!?」
「詳細は不明です!」
「ポジトロンライフルの扉が567号機と600号機によって開かれました!」
指揮室が静まり返る。
「レナは何号機に乗っている?」
「567号機・・・です」
「つないでくれ」
しばらくの沈黙。
「・・・こちら・・・567号機・・・・・・」
「レナ・・・ポジトロンライフルを頼む」
静かに時が流れる。
「・・・了解」
由佳里が腕時計を見る。
「午後三時に撃つ。準備をしておけ」
「了解」
回線が切れる。
「各国へポジトロンライフル発射要請!」
「了解!」
あらゆる言語のメッセージが一斉に送信される。
「北アメリカ州、全国承諾!」
「ヨーロッパ州、全国承諾!」
「オセアニア州、全国承諾!」
「南アメリカ州、全国承諾!」
「アジア州、全国承諾!」
「アフリカ州、全国承諾!」
「全世界の発電所の使用許可が下りました!」
「各国に使用日時を通達!同時に、各発電所の四次元ゲート発生装置使用命令!」
「了解!」
別々の時刻と少量の文章が打たれたメッセージが一斉に送信される。
「世界平和も、このように簡単に行くといいのだがな・・・・・・」
「アメリカ、ロシア、イギリスよりポジトロンライフル発射要請が出された模様です!
各時間は、日本時刻、午後3時5分、10分、15分となっています!」
「ほぼ同時に四回か・・・発電所にかなりの負担をかけるな・・・・・・
各シェルターを予備発電へ切り替え!」
「了解!」
「人類と死生物の直接対決だ。
キラカゼ内の甲型を午後2時45分までに全体撃退!
その後、中心部より半径10km以内立ち入り禁止!」
「了解!」
「キラカゼ内の全体撃退を確認しました」
「全機につなげ」
「了解」
由佳里がゆっくりとマイクを握る。
「全員、知っているとは思うが、ポジトロンライフルを撃つことを決定した。
引き金を引くのはレナ・W・スミス。
補助役が二人必要だ。
どうなるかは知っていると思う。
・・・だが、人類のために必要不可欠だ。
私が実際に指揮した『第二次生物絶滅期』の時もそうだった。
最終的に強制的に選ばれてしまった三人が撃つことになった。
無理は承知だ。
決定したら死は免れない。
誰か――」
「600号機、レナ・W・スミスの補助役を立候補します!」
「お前は論外だ。当然だろうが。
あと一名――」
「454号機、レナ・W・スミスの補助役・・・いえ、ポジトロンライフルの発砲を立候補します!」
あたりがざわめく。
「何を言っている、かりん。
代わってやりたい気持ちはわからんでもないが、立場的には全く――」
「いえ、二人を救える方法があるからこそ、立候補しているんです」
「・・・救える方法・・・だと?」
かりんがゆっくりと深呼吸する音が聞こえる。
「ポジトロンライフルを発射する瞬間に、補助役であるレオムニ機が、レールガンを一直線上、真逆に撃ちあい、反動で発射地点より離脱します。
PRMではできなかった方法です」
オペレーターの一人が計算をはじめる。
「確かに、理論上不可能ではありません」
「それで、生かしてやるなら二人がいい・・・と?」
「・・・人生最後の偽善かもしれませんがね」
由佳里が少し躊躇したあと、言った。
「わかった。レナ。かりんと代われ」
「しかし!」
由佳里が間髪入れずに言う。
「人の善行は素直に受け止めろ。
それに、お前ら片方が生き残っても仕方ないだろ?」
「でもかりんが――」
「誰にしろ一人は死ぬことが明白だ。
その周りが悲しむことは免れん。
これは命令だ。従え」
「・・・了解・・・・・・」
「美月、全機の安全、かつ確実な移動を頼む」
「了解!
全機、我楼山の裏側へと移動開始!」
「「「「了解!」」」」
三機を残して全機が山へと移動を始める。
「地下原子力発電施設をポジトロンライフルからレールガンへと変更。
お前ら、頼むぞ」
「「「了解!」」」
「ポジトロンライフル、発射準備時間に突入!」
「各機、準備開始!」
「「「了解!」」」
ポジトロンライフルの砲身が二機の力で上に持ち上がる。
「砲身角度、55度に設定!」
「「了解!」」
二機が砲身を微調整する。
「発射角度、右45度、左45度、計90度に設定!」
「「了解!」」
二機が持っているレバーを砲身の根元に移動させ、微調整する。
「砲身の絶対零度への冷却を開始!」
脇についているパイプから液体が注入され、先から漏れ出す。
「二機のレールガン設定を開始!」
「「了解!」」
二人が計算を開始する。
「右機、ポジトロンライフルに対し水平、レールガン、本機対し九十度、地面に対し水平!」
「左機、ポジトロンライフルに対し水平、レールガン、本機対し九十度、地面に対し水平!」
「了解!
レオムの微調整はこちらが行います!」
「「了解!」」
完全にレールガンが一直線上になる。
「現在時刻!」
「午後2時59分19!20!21!22!23!24!25!26!27!28!29!開始!」
カウントダウンがはじまる。
「発射まで、28!27!26!25!24!23!22!21!20!――」
「さあ、全世界生産電力、25億kw!
ポジトロンライフル発射電力、50億kwを受けてみろ!」
「11!
10!
9!
8!
7!
6!
5!
4!
3!
2!
1!」
レールガンの閃光は見えることなく、二機が真逆に凄まじいスピードて飛んでいく。
同時に地上に太陽が出来たかのような光が降り注ぎ、吉良風市を覆い、光線となって飛んでいく。
「ポジトロンライフル、BABELへ命中!」
「液体窒素放出後、配線をアメリカに回せ!」
「了解!」
「清輝・・・・・・」
「なんだ・・・・・・」
「かりん・・・死んじゃったね・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
「でも・・・眩しいね・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
空には、輝く太陽があった。