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第二十八話

 第二十八話 ―榛―


 何も無い、宇宙のような捻じ曲がった空間の中。

「・・・志隆」

「ルヴィエシスさん!久しぶりだね」

 ルヴィエシスがますます悲しそうな顔をする。

「ええ・・・そうですね。

 でも、二度と会うべきではなかったのです・・・・・・」

「どうして?」

 ルヴィエシスが無視して話を続ける。

「時野神子と同じようなことを言いますが、気をつけてください。

 というより、もう気をつけても遅すぎるかもしれません」

「どうして時野を知ってるの?」

「私があなたを知っているのと同じ理由です。

 そんなことよりも、志隆。あなたは、この星にいて幸せですか?」

「・・・?」

 もちろん、すぐには答えられない。

「すみません。唐突で」

「特に幸せっていうわけじゃないけど・・・不幸でもないよ」

 ルヴィエシスに少し笑顔が戻る。

「そうですか・・・・・・

 わかりました。

 そのことを忘れないでください」

「うん・・・わかった。

 でも今度はいきなりいなくなったりしないでね」

「いなくなりはしません。

 私はあなたの中にいつでもいるのです」

 志隆が押し黙った後、言う。

「ルヴィエシス・・・うんうん、ルヴィさん」

「別にどう呼んで頂いても構いませんが・・・何ですか?」

「僕・・・僕・・・きっと・・・好きだよ。ルヴィさんのこと」

 驚いた表情をした後に、笑顔になる。

「ありがとうございます。勇気を絞ってくれて。

 でも、多分一日と成立しません」

「そんなこと言わないでよ!

 僕・・・僕、別に現実の世界なんて要らない!ここで僕と君さえいれば、それでいい!」

「夢は覚めるものです。志隆。

 それでなければ全ての物は夢を見ません。

 夢とは現実ではない理想の世界。

 そこが覚めなければ、なんと怖いことか、考えたことがありますか?」

「理想論なんて僕にはいらないんだ!」

「この後、あなたは私と、時野神子と、神武累奈と、神武里奈と、あなたの本当のことを唐突すぎるほど唐突に知ることになります。

 そして、全てのことを知ったとき、全てのことを思い出してください。

 一つ一つ鮮明に思い出すことはありません。良いことだけを思い出せとも悪いことだけを思い出せとも言いません。

 でも、ぼんやりとでも全てを思い出してください。

 そして、選択を・・・願いをしてください。

 私は、どの選択をしようとも、それが願いというのなら、構いませんから」


 気づけば目が覚めていた。

「・・・・・・」

 そして、夢の続きを見たいと密やかに願うように、再び目を閉じた。


 また、同じ世界。

 誰もいない。

「・・・・・・」

「・・・あの・・・神埼・・・さん?」

 何年も聞いていないような声が聞こえる。

 そして志隆は振り向いた。

「英子さん!」

 思わず英子へと抱きつこうとする。

 しかし、かわされてしまった。

「神崎さん、本当にあなたは駄目な人間です。

 せめて、好きな人を一人に絞ったらどうですか?

 それでは、本当に志隆のことを好きな人が可愛そうです」

「ご、ごめん。反省はしておくよ」

「何にしてもです。志隆さん。

 人。物。生物。そして時には死生物も決めなければならないんです。

 あなたは選ばれた人間で、選ぶということはあまりしたことがないと思いますが、それでも何とかして選んでください。

 あなたの選択しだいで、また戻ってこれるかもしれないんですから」

「それなら、英子さんが戻ってこれる選択をするよ」

 英子が首を横に振る。

「選択肢が無いのに選択をするのは変ですよ。

 捕らぬ狸の皮算用です」

「・・・どんなことわざだっけ?それ」

「猟師がまだ捕ってもいない狸の皮を売ったときの計算をしていることから、まだしてもいないのに先の損得ばかり考えることです。

 微妙に使い方が間違っているかもしれませんね」

「どうなんだろうね」

 英子が少し微笑む。

「選択をするときには、主観的に、客観的に、又はその選択によって有利になったり不利になる人の立場に立ったり、本や言葉を思い出すことは重要です。

 どちらかの立場だけにとらわれずに、かつ、自分の意見をしっかりと行うことが大切なのです」

「・・・ルヴィさんより難しそうだけど、とりあえず覚えておくよ」

「何となくでも覚えていればいいんです。

 ・・・ところで、かりんはどうしていますか?」

 志隆が悲しそうな表情をする。

「英子さんがいなくなってから・・・すっかり変わっちゃったよ」

「そうですか・・・・・・

 せめて、死んでいないことだけでも言いたいです・・・・・・」

 英子がはっとする。

「神崎さん。時間が無いので短めに言います。

 この夢のことは誰にも話さないでください。・・・というより、話す時間もなくなってしまいましたが。

 自分の心の中だけに取っておいてくださいね」

「うん。わかったよ」

「また、会いましょう」


 目が覚めてから数分後。

「キラカゼ内にAST反応!

 第三十八型死生物、ウグです!

 ウグは既に戦闘を開始しています!

 エレクシエスト操縦者は至急格納庫へ向かってください!」

 放送が聞こえ始めた瞬間に、志隆は走り始めていた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「「・・・・・・」」

 球型の本体。

 そこから伸びる無数の管。

 翼のようにも見える。

「一型機、二型機覚醒!」

「三型機、第二形態へ変体!」

「一体どうしたっていうのよいきなり!」

 ウグが管の先を一点に集める。

「ウグのAST反応拡大!」

「今までにない強い反応です!」

「逃げて!」

 一直線に放たれたAST粒子砲が山までも貫通した。

「二型機のAST反応拡大!」

 二型機が弓矢を構える。

「一型機のAST反応拡大!」

 一型機が顔をウグへと向ける。

「三型機のAST反応拡大!」

 三型機が筒をウグへと向ける。

「ウグのAST反応拡大!」

 ウグが管を三機へと向ける。

 三機のAST粒子がウグを襲う。

 しかし、周囲のビルが吹き飛んだだけだった。

「ウグ、AST粒子を周囲に展開し、全ての攻撃を防ぎました!」

「ウグのAST反応拡大!」

「何回撃ったら気が済むのよ!」

 三機にそれぞれ放たれるが全てを避けきる。

「レオムは!」

「今出撃しました!」

「ウグのAST反応拡大!」

 AST粒子砲がレオムを撃ち落とす。

「反撃できない・・・!」

「υ、μちょうだい!」

「υ、μ、投下!」

 二本の槍が投下され、ウグへと投げる。

 しかし、軽く避ける。

「二型機のAST反応拡大!」

 二型機が翼を全て矢へ変換し、角度をつけて放つ。

 重力によってウグへと引き寄せられる。

 地面に数十万本の光の矢が突き刺さる。

 しかしそこに、ウグの姿はない。

「ウグのAST反応拡大!」

「三型機の正面です!」

 誰も何も言うことなく、三型機の真っ赤な核を一本のAST粒子砲が貫いた。

「里奈ちゃん!累奈ちゃん!」

「・・・・・・」

「三型機第二操縦者の反応無し!」

「神武累奈、死亡です!」

 その瞬間にウグが消える。

「ウグ、消失!」

 三型機の核が徐々に穴から割れ始める。

 そしてそこから、空に向かって一本の巨大な柱が伸びていく。

「ま、毎秒1kmで伸びていきます!」

「・・・成長?」

 柱がある程度伸びていくと、そこから横に広がっていく。

「三型機、地上約10kmで横に展開を開始!

 毎秒100kmで展開していきます!」

 昼だというのに太陽が隠され、全く空から光が来ない不思議な夜になった。

「里奈!何をやっているの!」

「みづきしゃん、まだわからないんでしゅか?

 AELの始まりだよ」

 その場にいた誰もが震撼した。

「これが・・・・・・」

「AEL・・・・・・」

「最終死生物が・・・・・・」

「オルだったなんて・・・・・・」

 人工衛星からの映像が遮断され、三型機の通信機からは雑音しか聞こえない。

「二人とも、オルを止めて!」

「もうやってるよ!」

 柱に向かって攻撃しているが、切り裂くことはおろか傷さえつけられていない。

 そして、攻撃をやめる。

「・・・時野」

「・・・ええ」

 一型機が右手で二型機の左手を握り締める。

 二型機が左手で一型機の右手を握り締める。

「二機のAST反応を調和させています!」

「脳波、血圧が全く同値です!」

 そして、二型機が一型機の指の間を通りながら紐状に変形し、一型機にまとわりついていく。

 一型機の脚が体に吸収され、代わりに腕の付け根から新たに四本の腕が生え始める。

 もう一型機とは呼べないその体の背中から触手が生え、翼が生えていく。

 腕と触手からは二型機の爪が生え始め、体全体が浮かび始める。

 そして最後に、顔に新たな二つの眼が出来た。

「一型機と二型機の反応が完璧に同一化しました!」

「両機操縦者の反応がありません!」

「AST反応がウグの発射前の値を超えました!」

 二人と二体の区別はもう無い。

「ジュギャァァァァァァァァァアアアア!!」


「時野、これが全てなの?

 ええ、そうよ。これが全て」

 二人の声が聞こえるが、そこには何の姿もない。

「私があなたであなたが私。

 僕が時野で時野が僕なの?

 私達の境界は何もなくなった。精神も肉体も。ただ違うのは心だけよ。

 だから、こんな知識が入ってきているんだね。

 そうよ。だからあなたは現実を受け止めざるを得ない。そして、受け止めなければいけない。

 こんな感覚初めてだよ。

 一回しかなくていい。というより、一回もないほうが本当は良かった。

 じゃあ、行くよ。ジヴェル。

 ええ。デギゥル」


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 誰も何も見ていない。

 ただ見ているのは、モニターだけ。

 見ているともいえないのかもしれない。

 誰が、こんな状況になると思っただろうか。

 と、自動ドア通って清輝を先頭にたくさんの局員が入ってきた。

「美月指揮官!」

「・・・何?」

「乗らせてください!レオムに!量産機に!」

 全員が我にかえる。

「あんな状況になって、黙って見過ごせないですよ!局長!」

「英雄になりたいとは思いませんが、時間管理局局員として、日本を、地球を守りたいんです!」

「乗らせてください!お願いします!」

 美月の瞳から思わず涙がこぼれる。

 しかし、必死に隠そうと袖で拭いた。

「泣くのは終わってからですよ!」

「それに、反省会も、忘年会も、新年会も全部未定のままじゃないですか!」

「あんたはただ単に飲みたいだけでしょ!」

 思わず笑いが飛び出す。

 そして、静まり返る。

「ありがとう・・・本当に。

 でも、防衛庁からの許可がないと――」

「防衛庁から緊急連絡です!

 AEL用の全施設、及び全兵器の使用許可がおりました!

 陸上、海上、航空自衛隊はすでに防衛への準備を整えているそうです!」

 美月が全員を見渡す。

 そして、言う。

「AEL体勢へ移行!」

「AEL体勢、移行します!

 本局にいる全職員はレオム量産機への搭乗を命令します!」

「「「「「了解!!」」」」」

 局員達が駆けていく。

「指揮室をAEL体勢へ移行!」

「第一〜第四ブリッジ格納!」

 通路が塞がれ、指揮室から離れていく。

「対死生物用設備を廃棄し、AEL用設備を使用します!」

 モニターと天井が開き下へ下がっていく。

 壁が取り払われ、指揮室は巨大な真っ暗の空間になる。

 指揮室に明かりが点けられ、壁に元の何十倍とあるモニターと計測機があらわれた。

「レオム量産機、全機起動準備開始!」

 別の何百mとある円形の部屋に明かりがつき、何千機もあるバズーカと長いブレードを装備したレオムが現れる。

 通路の手前側から乗り込んでいき、除々に起動していく。

「第一、第二部隊、全機起動!」

「第三部隊、全機起動!」

「第三、第四、第五、第六、第七部隊、全機起動!」

「第八〜第二十三部隊、全機起動!」

「第二十四〜三十六部隊、全機起動!」

「第三十七部隊〜第四十五部隊、全機起動!」

「第四十六部隊、残り一機です!」

「誰よ、こんな時にふざけてるのは」

「私だが?」

 モニターに由佳里の姿が写る。

「第三ブリッジ出して!」

「第三ブリッジ、解放!」

 第三ブリッジが伸びてくると共に、由佳里が姿を現す。

「美月、代われ」

「何を言っているんですか先輩!?」

「いいから代われ。

 お前は確実に私より機械関係は得意だろ?」

「・・・・・・

 そう思ってたんですよ!」

 美月が意外な答えを出す。

「私も、みんなと一緒に死生物と戦いたい、ってずっと思ってましたし!

 それに、先輩の方が指揮がうまいに決まってますし!」

「そうか。それはよかった。

 じゃ、行ってくれ」

「了解!」

 満面の笑みで指揮室を出て行く。

 しかし、ブリッジを走っていく美月の瞳からは、涙が流れ落ちていた。

「・・・嘘に嘘を重ねたんですね」

「あいつも、大人になってきているということだ。

 本音と建前を理解してきているんだからな。

 第三ブリッジ格納!」

「第三ブリッジ、格納!」

「全、対人人型防衛兵器を起動!配置につかせろ!」

「了解!」

 由佳里が指揮官専用の席に座る。

 軽く机を撫でると、しっかりと座り直し、足を組んだ。

「敵はここを知り尽くしている。

 本部攻撃はほぼ免れないだろうな」

「第四十六部隊、全機起動!」

「指揮室内にいる人員用以外の全機、起動完了!」

「全機体損壊率表示用モニター準備!」

 何もなかった壁にモニターが出現する。

「三型機より無数の投下物捕捉!

 推定数、五万個以上です!」

「展開している地域全体に投下されています!」

「死生物か!?」

「いいえ!全投下物にAST反応がありません!」

「物理的質量攻撃・・・?」

「投下物が間も無く地上に衝突します!」

 キラカゼ内の映像がモニターに映され、数十の灰色の球が道路に着地する。

 と、球に赤色の目玉が出てくる。

「投下物が変体を開始しました!」

「投下の第二波を確認!」

 みるみるうちに三型機ほどの大きさの少し奇妙な人が現れる。

 そして、自分の体の中に腕を突っ込むと、何かを抜き出す。

 肉厚の日本刀だった。

「第二波の投下物も変体を完了しました!」

 眼。

 二枚の翼。

「海中に投下された物も変体を完了しました!」

 モニターがまた切り替わる。

 魚。

 両脇に長い刀のような刃。

「ただ今をもって、地上に投下された生物を甲型、第二波で投下された生物を乙型、海中に投下された生物を丙型と呼称!

 同時に、融合した一型機と二型機をNEONと呼称!そして、三型機をBABELと呼称!」

「「「了解!」」」

「各地に投下された丙型が、投下された地点から最も近い陸地へと移動を開始しています!」

「甲型、乙型も同時に移動と攻撃を開始しました!」

「全兵装ビル起動!キラカゼ内の甲型を攻撃しろ!」

「了解!」

「レオム全機のカタパルトの起動が完了しました!」

「レオム全機、カタパルトへ搭載完了!」

 由佳里が手を組み合わせ、祈る。

 そして、言う。

「レオム全機、射出!」


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