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第二十七話

 二十七話 ―人― 


「キラカゼ内、及び上空にAST反応!

 第三十五型死生物スダ、第三十六型死生物ツユ、第三十七型死生物ビイです!」

 クリスマスツリーに飾られた指揮室に似合わない声が響く。

「エレクシエスト操縦者は全員、格納庫へ行ってください!」


「・・・何なのあれ」

 八本の脚。

 同数の目。

 黒いクモ。

「・・・・・・」

 白くひょろ長い一本の脚。

 キノコのような形状をした頭。

 突き出た赤い目。

 そして何より、

「「おっきーでしゅ」」

 上空から見下げる巨大な目。

 ビルよりも太い十六本の脚。

 吉良風市全体を覆っている、巨大なビイの姿があった。

「一型機はスダ、二型機はツユ、三型機はビイをお願い!」

「「「了解!」」」

「一型機と二型機は残滅、又は消滅後に三型機の援助を行って!」

「了解!」

「三型機、第二形態へ変体!」

 変体した直後、三体にビイの目が向く。

「ビイのAST反応拡大!」

「散って!」

 三機がそれぞれに向かって散る。

 ビイは三型機に照射を続けたままで、止まる気配がしない。

「ビイのAST反応が戻りません!」

 三型機に当たらなかったAST粒子砲が容赦なく地面を抉っていく。

「・・・・・・」

 三型機には目を止めることもなく、二型機がツユに向かっていく。

 ツユが二型機を向く。

「ツユのAST反応拡大!」

「避けて!」

 二型機がいつものようにAST粒子砲を避ける。

 しかし、第ニ射が早すぎた。

「・・・っ・・・・・・」

 二型機の腹部にAST粒子砲が当たる。

 続けて何発ものAST粒子砲がマシンガンのように発射される。

「二型機、回収!」

「二型機、回収!」

 格納庫にあちこちから血が出ている二型機が現れる。

「一型機と三型機も回収して!

 体勢を立て直すわ!」

「三型機、回収!」

 一型機が回収されていく。

 しかし、その空間にスダが足をかけて広げ、侵入した。

「一型機が四次元空間より帰還できません!」

「スダと四次元空間内で戦闘中です!」

「場所の特定は!」

「無理です!

 スダが空間自体を動かしています!」

「・・・・・・」

 傷ついた二型機が立ち上がり、一型機が出てくるはずの四次元ゲートに向かっていく。

「無理よ!あきらめなさい!」

「・・・・・・」

 二型機の姿が格納庫より消えた。

「二型機、四次元空間へと侵入しました!」

「途方もなく広くて何も見えない空間で、どうやって戦うっていうのよ!」

 しかし、通信は途絶えたまま。

 聞こえることはない。

「三型機、第一形態へと変体」

 開いているはずの四次元ゲートからは、何も現れない。

「・・・・・・」

 長い時が続く。

「・・・・・・」

 二型機が出てきた。

「二型機、出現です!」

 二型機が何かを引っ張りあげる。

 白く太い腕。

「一型機、出現です!」

 しかし、もう一方の腕にはまだ黒い腕。

 二機を再び戻そうとしていた。

 一型機の腕は、まだ完全に出ていない。

「・・・・・・

 四次元ゲート、強制終了!」

「・・・!

 ・・・・・・

 四次元ゲート、強制終了!」

 一型機の腕と共にスダが閉じ込められた。

「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!」

 一型機の腕から血がとめどなく溢れ出す。

「ひどいでしゅ!」

「・・・・・・」

「だまらにゃいでくだしゃい!」

「いいんだよ・・・里奈ちゃん・・・・・・

 美月のやったことは・・・正解だよ・・・・・・」

 一型機の傷口が塞がる。

「一型機は志隆の精神的な痛みを考慮して出せない・・・・・・

 これで二対ニだとしてもあまりにも不利すぎる・・・・・・

 もしまた出たとしても、返り討ちに遭うだけ・・・・・・」

「どうしますか?」

 ゆっくりと瞼を閉じ、そして開ける。

「ωを使っての二型機の遠距離射撃を行います」

「・・・!

 AST粒子砲を・・・!」

「ωを使ってツユに気づかれないように撃つしかないわ。

 πだと多分迎撃される。

 問題は彼らが急激な風でこちらに気が付かないかどうかだけど・・・・・・

 やってみるしかないわ」


 二型機は防時局の地上ビルのビイ達から見て裏側に座っている。

 手には先がアンテナのようになったライフルのようなものが握られている。

「いい?

 もう一度言うけど、ωは空気中に散っているAST粒子をかき集めて放つ特殊な銃。

 AST粒子砲を人工的に放つことができるわ。

 反面、膨大な量の空気を圧縮して溜め込むから、撃つ周辺はほぼ真空状態になるわ。

 それにキラカゼ内の空気に含まれているAST粒子の量は他の場所より格段に多いと言っても0.01%。

 チャンスは一回よ。

 わかった?」

「・・・・・・」

 美月が少しいらつく。

「毎度毎度思うんだけどね、悪い言い方をすれば、あなたは私に操られてる駒と同じなの。

 せめて、返事ぐらいしてくれる?私としても困るんだけど」

「・・・・・・」

「返事してくれる?」

「・・・・・・」

 二型機は、ωのチャージを開始した。

「・・・まったく・・・・・・」

「チャージ1%完了!」

「思ったより、少ないみたいね。

 チャージ量上げて!」

「チャージ量、25%UP!」

「チャージ3%完了!」

 ほんの少しモニターのグラフが動く。

「埒があかないわ!

 チャージ量全開!」

「チャージ量、全開!」

「チャージ20%完了!」

 美月がさらにいらつく。

「リミッター解除!

 自壊ぎりぎりまで上げちゃいなさい!」

 ωに周囲の土や木が飲み込まれていく。

 グラフが乱れながら急速に染まっていく。

「チャージ完了!」

「撃て!」

 二型機が素早くビルから飛び出し、ωを放つ。

 見事にツユの頭部をとらえた。

「ツユ、停止!」

「三型機投下!」

「三型機、投下!」

 ビイの真上に第二形態の三型機が現れる。

「「いっけー!!」」

 三型機が真上から眼球の中心を貫通する。

「ビイ、消滅!」


「ようやく、あと一体となったな」

「そうですね。いよいよ最後ですね」

「ウジョグ。やつが私を解放する引き金になる」

「少しでしたが、ありがとうございました。お姉様」

「本当はお前と共に使う能力も必要であることにはあるのだがな、神埼志隆を呼び出し、この小さき星の決断を迫らせるにはお前が死ぬしかないのだ。

 悪く思わないでくれ」

「別に悪くなど思いません。むしろ、お姉様がこの星を手に入れられるかもしれないのですから」

「全てはそのためにある。

 これまでの行いも、やつらも。

 そもそも人類などにこの星を譲っておくのには、少々豪勢すぎるのでな。

 この星にとっても、人類は要るべき存在ではない」

「お姉様が、この星の神になるのですね」

「ふっ・・・・・・

 格好の良い言い方をすればそういうことになるな。

 正確にいえば、ただ単に我らが七十七次創考空間の代わりにこの星に住むだけだ」

「では、七十七次創考空間を人類に渡しましょうか?」

「それはいい考えだな。

 生身では一秒と持たないが」

「しかし、人類を殺すのはほんの少々残念な気もします」

「情でも移ったのか?」

「いいえ。

 ただ、音楽、という物がなくなるのがほんの少し残念なだけです」

「デギゥルも気に入っているらしいからな。

 ヴェートーヴェン作曲、交響曲第九番、ニ短調」

「世紀末にふさわしい曲でもありますしね」

「その考え方は日本人だけだがな」

「一応、日本人ですから」

「そういえば、人類が『今年は二十世紀の最後』と言っていたな。

 まさしく世紀末というわけか」

「いいですわね。

 二十世紀を人類の世紀末にするのは」

「では、12月31日にしようか」

「ええ。

 人類の世紀末です」


「志隆!」

「うわっ!」

 何者かの怒鳴り声と共に志隆の布団が引き剥がされる。

「はっはっは。目が覚めただろう」

「ゆ、由佳里さん・・・?寒いですよ・・・返してください・・・・・・」

 志隆がまだ夢の世界にいる声で言う。

「だめだ。起きろ。

 今日が何日かわかっているのか?」

「・・・何日ですか?今日」

「まったく、お前は高校に行かなくなってからすっかり日にちの感覚を忘れて。

 今日は12月24日だろうが!」

 ほんの少し脳を可動させる。

「12月24日?」

 ただでさえ普段可動していないがため、こんな時にはますます可動しない。

「クリスマスイブだろうがバカモノ!

 指揮室のツリーを見ていないのかお前は!」

 志隆がやっと正常に戻りだしてくる。

「ああ・・・そうでしたね・・・・・・

 由佳里さんが飾りつけたんですか?あれ」

「まあ、非番だったオペレーター達も叩き起こしてな。

 もちろん、当番も強制参加だが」

「結局全員じゃないですか・・・・・・」

「とにもかくにも、だ。

 とりあえず、誰かは誘え」

 志隆が、仕方がないような顔をする。

「美月を押したいんですか?

 それとも、自分を――」

 変な音が響く。

「いてぇ!」

「僕の台詞です!」

「人を馬鹿にするんじゃない!」

「じゃ、誰かいるんですか?」

 途端に黙りこくる。

「いや・・・それは・・・・・・」

「・・・やっぱり・・・・・・」

「べ、別に誰とも過ごしたことがないわけではない」

「過去の人ですか?」

「・・・・・・」

 途端に由佳里が静まる。

「ご、ごめんなさい。そんなにひどかったとは・・・・・・」

「・・・まあ・・・な・・・・・・」

 何も知らないこと。

「まあとにかく、だ。

 どちらかは誘え」

「二択・・・なんですか?」

「・・・選択肢を増やしたいのか?」

「いえ、そんなわけでは・・・・・・」

「とにかく、どちらか一方には少し細工をしたからな」

 由佳里が足早に部屋を出て行く。

「どちらか一方って・・・美月以外ないじゃん。

 それにしても、細工?

 サンタの衣装とか?あえてトナカイかな?それとも、リボンを結んで本人をプレゼント?

 いや・・・それはないか・・・さすがに。

 でも、由佳里さんならやりかねないなあ・・・・・・

 それより、時野を放って置いてもいいのかなぁ?

 っていうか、時野と僕の関係って、僕が一方的に好きなだけなような・・・・・・

 でも、あの口からみかん以外に『好き』の言葉が出そうな気がしないしなぁ・・・・・・

 何考えてるかもまだよくわからないし・・・・・・

 ・・・そういえば、あの時の時野って何だったんだろ?

 確実に吐いてたよね、血。

 蹴られた跡もあったし・・・・・・

 ま、寒いし面倒くさいから、布団で考えようっと」

 この後、志隆は何と丸二日だらだらと寝過ごしてしまうことになる。


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