第二十四話
第二十四話 ―錆―
「キラカゼ内にAST反応!
第二十六型死生物、ロジです!」
「ついに三型機の初陣・・・・・・」
ふとモニターにもう二つの点が表示される。
「もう二つのAST反応を確認!
第二十七型死生物、カキ、第二十八型死生物、バメです!」
「ついに来たわね。複数攻撃。たまたま演習中でよかったわ。
用意できてるわね?」
「はい!」
「・・・・・・」
「「はいでしゅ!」」
「エレクシエスト一、二、三型機、投下!」
「一型機はカキ、二型機はバメ、三型機はロジをお願い!」
「「「はい!」」」
三機がそれぞれに走っていく。
「・・・時野も、少しは成長したのかしら」
「一型機、二型機が戦闘を開始しました!
三型機は・・・・・・」
「・・・やっぱり三型機は少し問題ありよね・・・・・・」
三型機は一方的に攻撃を受けている。
「えーん。いたいでしゅー」
「たたかいたいでしゅー」
それでも攻撃を受けつづけている。
「がんばって・・・としか言いようがないわね」
「しょうでしゅ!へんけーしゅればいいんでしゅ!」
「しょにょてがありました!」
「そんな馬鹿な――」
点が一個消える。
「さ、三型機が消失しました!」
「そんな馬鹿な!」
そして、また出現する。
「第二十九型・・・いえ、三型機です!」
「あれが!?」
棒状の体。
後ろに翼。
左方の翼より突き出す謎の筒。
「第二・・・形態?」
「三型機のAST反応、急速拡大!」
「「しゅほー、はにゃてー!」」
三型機から発射されたAST粒子砲がロジへと命中する。
撃ちおわったあとのロジの体には巨大な風穴が開いていた。
「ロジのAST反応が消えました!」
「ロジ、残滅完了」
「核ごと分解した・・・・・・」
三型機が一型機を向く。
「しりゅーしゃん、どくでしゅ!」
「え?」
「AST反応、急速拡大っ!」
「早くどいて!志隆!」
一型機が跳躍して300mほど後退する。
「「しゃげんよんじゅうごど、きょりいってんごきろめーとる、じぇんかん、しゅほーいっしぇーしゃ!」」
兵装ビルを突き破り、カキへと直撃する。
その姿は数秒後にはもう無かった。
跡には異常に削り取られた筒状の穴があるだけだった。
「カキ、残滅完了」
と、共に
「二型機、覚醒状態に入りました!」
二型機の計測器が異常を告げる。
見ればゼリー状の体を持つバメに体ごと侵入させて核を食べようとしている。
「バメのAST反応、増大!」
「二型機の皮膚が融解をはじめています!」
まるで強酸に漬けられたように皮膚の色素が落ち、徐々に筋張った筋肉が見えてくる。
バメが急いで逃げようとするが、すでに捕まえられた核を残して、逃げることはできない。
「三型機のAST反応、急速拡大!」
見れば三型機の砲台が、バメ・・・いや、二型機を向いている。
「やめて!二人とも!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二型機と三型機の間に一型機が立ちはだかる。
「せめてもう少しだけ待ってあげて!」
「「・・・・・・」」
「止まりません!」
二型機が核を取り込んだ。
「・・・ちっ」
誰が言ったのかわからない言葉が指揮室に響く。
AST粒子砲が、二型機を反れる。
しかし、一型機は近すぎた。
一型機の左手首より先が、なくなっていた。
「うああああああああああああああああ!!
ああああああああああああああああ!!」
一型機が自分の左手首をつかみながら、出てくる血を必死におさえようとする。
「志隆!」
「一型機の血圧、脳波が前回覚醒値寸前です!」
「はやく・・・はやく回収と医療班を!」
「はい!」
志隆が目を開けた。
そこは病室の中。
「・・・軽いショックだって。なんで志隆だけに表れたのかはわからないけど」
そこには美月と時野、という正反対な二人が座っていた。
「時野も、あったんだよね?」
「・・・ないことは――」
「あったんだよね?」
「・・・あった」
美月は自分に声をかけてもらえなかったことに少し顔をゆがめる。
そして、すぐに戻る。
「一型機の損傷は再生してるわ」
「そう・・・・・・ですか」
操縦者としての志隆。
強いショック。
驚き。
「ごめん。誰で言ったらいいの?」
「志隆で・・・いいわよ」
時野が立ち上がる。
「これから、こんなことはたくさんあると思う。
でも、デルはあなたの体じゃない。
これだけは覚えておいて。
所詮、あなたの感覚はデルの疑似体験にすぎないのよ」
「・・・わかった。
時野に迷惑もかけてられないしね」
時野“に”。
「・・・じゃあ」
「・・・・・・」
何か、壁というものを知ってしまった気がした。
「いやー、しっかしよく寝たなぁー」
志隆が思い切り背伸びをすると、携帯を取り出して時刻を確認する。
「午後三時・・・かぁ・・・・・・」
いくら学校がなくなって、前日が戦闘だからといって、寝すぎである。
「コアラもびっくりかも」
まったくである。
「・・・た〜す〜け〜て〜」
「誰よぶ彼よぶ人がよぶ。
悪を倒せと俺を呼ぶ・・・って、これ何だっけ?微妙に違ってる気がするけど。
ま、いいや。暇つぶしに行ってみよ〜」
そこにはロ・・・ではなく、一見五才ほどしか年が違わなさそうな三人がいた。
「志隆〜!助けて〜!」
「にゃにやってるんでしゅか!」
「しりゅーしゃんにたしゅけてもらうにゃんてひきょーでしゅ!」
「この子達が離してくれないのよ〜!」
美月が両手を縦に思い切り振るが、合計四本の手に敵うはずもない。
とはいえ一応、年齢差は志隆の年齢と同じである。
「またおとにゃのひとみたいにゃことばつかって!」
「にぇんれーしぇいげんがあるんでしゅよ!」
「だから大人なんだって〜!」
志隆はただ黙ってその様子を眺めている。
体格年齢差、五歳の対決を。
「黙ってないで何とか言ってよ〜!付き合い長いんでしょ〜!」
美月は何も知らない子供達からの自覚していないいじめに心底参っているのか、目に涙を少しためていた。
そして、上目遣い。
「・・・ぬお」
「何、顔そむけてるのよ!」
志隆が顔をそむけた先に必死に笑いたいのを我慢しているオペレーター達がいる。
志隆が視線でヘルプを送ると、黙って引っ込んだ。
「・・・減給」
「そんな殺生な・・・・・・」
「「しゃっきからにゃにいってるでしゅか!」」
「と、とりあえずどういう経緯でこういうことに?」
美月が少し落ち着く。
「そこにいたオペレーター達とあれ関係の話で話してたら」
「あれ関係?」
美月は少し考えてから話し始める。
「仕事よ、仕事。この子達が遊んでいるところに出くわして、それを少し眺めていたら・・・・・・」
「・・・捕まった?」
「・・・そういうこと」
「「もーいーかげん、かんにんしゅるでしゅ!」」
二人が思い切り引っ張る。
「いたたたたたた!
っもー、こうなったら・・・・・・
あ!災華くるみ!」
「「え!?どこでしゅか!?」」
美月がすかさず逃げ出す。
「あ!まつでしゅ〜!」
・・・・・・
「・・・美月も知ってたんだ」
「・・・そういえば最近、リアルなテーブルゲームばっかりやってるね」
「ゲームは目に悪いし、飽きたからな」
二人はシンプルにババ抜きをやっている。
ちなみにババは志隆である。
「・・・ちょっと、ちゃんと均等に持ってよ」
見ると、志隆が清輝のトランプを一生懸命抜こうとしている。
「ババはお前だろ。俺がこんなことしたって意味ねえじゃねーかよ」
「・・・なんで持ってることわかるの?」
「・・・二人でやってるからだろうが」
志隆が仕方なく別のトランプを引く。
そして、捨てた。
「考えてみれば、これって揃わないカードはジョカー以外無いはずだよな」
「・・・なんで?」
清輝が志隆に分かりやすく伝えるために考える。
「・・・例えば、四枚のトランプでババ抜きをやるとして、両方に配る枚数がバラバラだったとしても、四枚か二枚なら双方がトランプを捨てて終わり。
逆に一枚か三枚だとしたら、一枚なら相手は三枚で捨てていて一枚、三枚なら捨てていて一枚対一枚だから、引いたら揃って両方終わり。
つまり、ジョカー以外なら何でも揃うわけだ」
「なるほど。
どおりで二人なのにトランプが少ないと思った」
「・・・そもそも、二人でやるようなゲームじゃねぇけどな。
ましてや男で」
「・・・・・・」
思わず志隆の手が止まる。
「そういうこ――」
「すまん。俺が悪かった。
というか、相変わらず二択で迷ってるのか?」
「・・・うん・・・・・・」
「まぁ、なにせ真逆だからなぁ・・・・・・
迷いどころといえば迷いどころだ」
「ちなみに、清輝ならどっち?」
いつも以上に考え込む。
「チビはなんか恋人として許せないというかなんというか・・・・・・
時野も時野で時野だしなぁ・・・・・・」
「・・・決められないでしょ?」
「第三の選択だな」
「まさか・・・・・・」
清輝がためらう。
「両方バツだ」
「そっちかよ!」
「ま、お前がどっちを選ぼうがあんまり俺には関係ないからな。
時野を選んだらしばらく指揮系統が乱れるかもしれないぐらいだし」
「・・・そっか」
志隆がことの重大さを今さら理解する。
「国を操るのは、女じゃなくて男だったりしてな〜。
クレオパトラも愕然だぜ」
「怖いこと言わないでよ〜」
「まあ、そもそも女っていうのは訳のわからない――」
「清輝〜!!」
突如ドアが開かれ、何かが清輝に覆い被さる。
「ちょ、お前、キャラが・・・・・・」
「清輝〜」
見れば、レナが清輝に体ごと抱きつきながら頬をこすりつけている。
幸せ度200%突破。
「・・・・・・」
その様子はまるでまわりにハートマークが飛び交っているようだった。
「・・・横を見ろ。横を」
すでに清輝は呆れ顔・・・というより絶望している。
「ん?」
向いた瞬間に清輝とほぼ同じ顔になる。
「・・・お熱うございますこと」
「ち、違うっ!」
レナの顔が一気に沸点に達する。
「こっ、これは・・・清輝がいきなり私に向かって・・・その・・・さりげなくテレパシーみたいのを送ってきて・・・ね?」
「レナ。不死の薬ぐらいありえないことを言うんじゃない。もういいんだ。もう・・・・・・」
「で、僕にどうしてほしいの?」
二人揃って絶望している。
「・・・そろそろ、縄の準備でもしようか・・・?」
「・・・そうしましょうか・・・・・・」
「待て待て待て待て」
志隆が慌てて静止する。
「まあ、ここでそれなりの誠意を見せてくれれば・・・ね?私も大人ですか――」
「そうだ!」
清輝の頭の上の電球が灯る。
「今、罰ゲームを行使する」
「・・・な・・・・・・」
「あのときに決めたことがあったよな?破ったら・・・・・・」
清輝が志隆に耳打ちする。
そして、固まる。
「・・・だぞ?」
「ハイ。ワカリマシタ」
「とりあえず、」
「「セーフ」」