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第二話

 第二話 ―赤―


 志隆が連れてこられたのは廃墟だった。

「まさかこんなところで拷問!?そういえばなんで連れて来られてるんだろう?

 言っておくけど、金ならあんまり期待しないほうがいいと思うよ」

「お前を使って金なんかせびるわけがあるか。

 防時局は民間人から金をせびるほど貧乏じゃねえよ」

 自衛隊のような人達が去っていく。

「では、私達はこれで」

「ああ。きっかり消させてもらう」

「承知しています」

 ヘリが飛び立っていった。

「消すって何を?まさか人を?」

「記憶だ」

「記憶!?」

「つべこべいわずにそこに乗り込め」


「おかえりなさい。そしていらっしゃい」

 そこにいたのは身長百四十ほどのかわいらしい女の子だった。

「滝綱美月指揮官。ただ今帰還しました」

「指揮官!?こんな女の子が!?」

 美月と呼ばれた指揮官に怒りの表情が浮かぶ。

「私、二十二歳なんですけど」

「ええっ!?」

 志隆が美月に顔を近づけてまじまじと見る。

「年齢なんて詐欺したって限度っていうものがあると思うよ」

 美月がポケットから何かを取り出す。

「免許証です」

 志隆が指折り数える。

「本当だ」

「信じてくれたかしら?」

「無理」

 さらに怒りが募る。

「やっぱりもろもろの紹介とか、レナに任せることにしたわ」

「それが妥当かと思います」


 今度はまともそうな女子が近づいてきた。

「こんにちは。志隆」

 聞いたことのある声が響く。

「い、いきなり呼び捨て!?」

 女子が志隆を改めて眺める。

「そういうこと考えるタイプに見えないけど・・・・・・

 ま、いいわ。私、レナ・ウィルター・スミス。レナでいいわ」

「が、外人!?」

「正確に言えば日本籍の外国人だから、日本人ね」

「結局外国人じゃん」

「まあ、どうでもいいわ。

 じゃ、行きましょうか」

 レナが歩き出す。

「どうしたの?色々知りたいんじゃないの?」

「あ、そうだね。うん」

 志隆が歩き出す。

「寝ぼけてた?」

「・・・うん」


「まず、防時局って何?」

 二人は周りを金属のようなもので覆われた通路を歩いていた。

「防衛庁時間管理局の略。ここのこと。

 民間人に普通の生活を送らせるために死生物を倒しているの」

「さっきも聞いた、シセイブツって何?」

 間髪を入れずに志隆がまた聞く。

「知りたがりやなのね」

「多分ね」

「死生物はその名の通り、死んでいる生物」

 志隆は考え込む。

「矛盾してない?」

「そう矛盾してるの。

 心臓と血管、骨、筋肉、皮、それと通常の人間の頭部にある器官はあるけど他は何も無い。

 どこからエネルギーを得ているのかも、どうやって生きているのかも不明。

 だから、死んでいる生物なの」

「あいつの他にもいるの?」

「十一型のこと?」

「多分、そうだと思う」

 レナは手すりを叩きながら歩き始めた。

「現在確認されているだけですでに十一体。多分、かなりの数いるわ。

 でも、どんなに姿形が違っても構成されている細胞は同じなの」

「構成されている細胞が・・・同じ?」

「んーっとね・・・・・・

 水っていろいろ型に合わせて形を変えて、硬くなったり、見えなくなっちゃたりするでしょ?そういうこと」

「形と強度が変わっても元は同じ、ってこと?」

「正解」

 頭上の蛍光灯が点滅した。

「他には?」

「死生物の十一型?が出したあれって何?レーザーとか、どういう類?」

 レナは枝毛を見つけたようで髪をいじくりながら歩いている。

「AST粒子砲のことね。

 残念だけど、レーザーとは全く別物。

 数京個の剃刀型の粒子が原子レベルで削っていくの。

 だから、地球に現存するどんな強度の物を使っても無意味。

 耐え切れるのは死生物の皮膚しかないわ。

 それでも一分あれば貫通するけど」

「じゃあ僕が乗ってたあれはなんで大丈夫だったの?」

「死生物だからよ」

 志隆の足が止まる。

「敵は、死生物だよね」

「そうよ」

 レナも足を止める。

「死生物を倒すために死生物を使ってるの?」

「皮肉な話だけどそういうこと。それ以外に死生物に対抗できるものは無いわ」

「あの少しちっちゃいのは?倒したよね?」

 レナが再び歩みを始める。

 それにつられて志隆も歩き始める。

「レオムのことね。

 どうせ聞くと思うから言っておくけど、レオムはREOM。

 Railgun Equipment Only Machineの略」

「発音いいね」

「ありがと。

 レールガン装備専用機よ」

 志隆の声がひっくり返る。

「レールガンってあの、数億ボルトの電圧を圧縮して弾を撃ち出す、ゲームの!?」

「何もそんなに緊張しなくてもいいわよ。

 よく知ってるわね。その通り。

 その代わり、ゲームみたいに簡単にリロードとか出来ないから。

 射程範囲も限られてるし、全速で逆噴射しても反動で数百メートル吹き飛ぶから、実用的じゃないわ」

 志隆が声の調子を整える。

「あれ、最後自爆したけど大丈夫なの?」

「死生物は核を攻撃されると危機と感知して自らの秘密を守るために自壊するの。

 町の復旧には一週間かな。完全な復旧は一年以上ね」

「い、一年!?」

 志隆が飛び退く。

「大丈夫。あなたには引っ越してもらうから」

「ひ、引越し!?」

 さらに飛び退く。

「そう。本部がある吉良風市、もとい死生物専用防衛都市、キラカゼに」

「いきなり言われても困るし、それにそんなところ行きたくないよ。この町、あいつらがいるから」

「案外、友達想いなのね。

 大丈夫。その気があるなら、友達も一緒に引っ越させてあげるから」

「そんなことできるの?」

「防時局を甘く見ないでよね」

 一際大きな扉の前に到着した。

「そうそう、一番聞きたかったんだけど・・・・・・」

「これでしょ?」

 扉がゆっくりと左右に開く。

「人類最終終焉兵器、改造生物エレクシエスト」

 それには見るものを圧巻させる、オーラがあった。

「死生物第一型、デルを改造して作った死生物に対する人類最後の砦。

 まあもっとも、真価を発揮させることはまだ出来ないんだけどね」

「真価が発揮できない?」

「これ、中から神経とかを操って操縦しているように見えるけど、

 実は外側のフレームが本体を動かしてるだけ。

 戦力的には、同じ体長の機動兵器とほとんど変わりないわ。

 ただ、コスト的にいいって言うだけ」

「偉そうなところなのに経費は少ないの?」

 志隆がエレクシエストに視線を移したまま質問する。

「実はそう。

 機動兵器だと、死生物を倒した瞬間に爆発に巻き込まれて何もなくなっちゃうから、

 外側のフレームを作るだけで済むからコスト的にいいの。

 それに、AST粒子砲が思いっきり貫通しちゃうからね。

 相手を倒した数だけパイロットの数が減ることになるし」

「遠隔操縦にすれば?」

「それだと、現場の状況に即座に対応することができなくなるから」

「大変なんだね」

「そういうこと」

 志隆は手すりから降りた。

「ここに来るとき、自衛隊っぽい人達に清輝君?が記憶を消すとか何とか言ってたけど、あれって本当?」

「そう。防時局、及びエレクシエスト、死生物に関する記憶はここに属している人以外、全て消されるわ。

 世界を混乱させないために」

「じゃあ、僕がいろいろ聞いても無意味ってこと?」

「いいえ。多分すぐにここに属することになると思うから、無意味じゃないわ」

 思わず志隆がレナを向く。

「えっ。ここに属する、って僕高校生だよ?」

「私達だってほとんど同い年よ。

 他の人もみんなそう」

「でも、そうなると高校、やめなきゃならなくなるんだよね?」

「いいえ。あなたは死生物観察員として普通の生活を続けてもらうわ。

 存在的には居ても意味無いけど」

「意味無いならなんでそんなことさせるの?僕に」

 レナが志隆に向かって歩き出した。

「あなたが、死生物に対する重要参考人の可能性があるから」

「重要・・・参考人?」

「あなたが死生物一型から十一型まで目視していて、現存している唯一の民間人だから」

「覚えてないけど?そんなこと」

「さっき言ったでしょ?民間人の防時局、エレクシエスト、死生物に関する記憶はすべて消されるって」

「あ、そうか。

 でも、それだけだったら、たまたまなんじゃないかな?」

 エレクシエストの胸部装甲換装作業がはじまる。

「いいえ。死生物が出現したときは必ず最初にあなたを見るの。

 それが何を示すのか、または本当にたまたまなのかはわからないけど。

 とりあえず、あなたは選ばれた、ってこと」

「選ばれた・・・んだ」

「そういうこと」

 レナが出て行こうとする。

「どこ行くの?」

「ある程度終わったから仕事に戻るの」

「いいなぁ。仕事か」

 レナが扉の溝を越えて立ち止まる。

「あ、そうそう、そういえばあなたのこと一目惚れしたから、そのつもりでいてね」

 レナが志隆に向かって銃を撃つ真似をすると、扉が閉まった。

「一・・・目惚れ?」

 あまりに唐突なその言葉に志隆はその場に立ち尽くしていた。


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