第十九話
第十九話 ―褐―
「で、こっちがこの前話してた清輝」
「よろしく」
「どう――」
「「よろしくお願いしますっ!!」」
清輝がたじろぎながら答える。
「よ・・・よろしく」
「で、この三人が噂の小暮と鈴木と篠崎」
「ま、よ――」
「「よろしくお願いしますっ!清輝さん!」」
二人がありえないほどに目を輝かせながら言った。
「呼び捨てで・・・いいぞ」
「「はい!わかりました!」」
「では早速吉良風市へ・・・っと!?」
志隆が二人に引きずられていく。
「ちょっと志隆」
「な、何?」
一般的に見ると、二人のやくざに囲まれて怯えている、か弱い女性のように見える。
無論、性別を逆転させて。
「何で、あのお方を私たちに紹介しなかったのよ!」
すでに殿方呼ばわりである。
「これには、国家的機密が――」
「私たちはつまらない冗談を要求してるわけじゃないの」
「だってほんと――」
「そんなことはどうでもいいのよ!
志隆が国家的機密機関に所属していようが、大怪獣と戦っていようが今は関係ないの!
とにかく――」
「おーい。そこの三にーん」
「「黙ってろこぐ・・・・・・
清輝」」
その姿を見た瞬間に二人の表情が一変する。
「・・・女とは、恐ろしい生き物である」
「何か言った?」
「・・・何でもないことにしとく」
「なぁ」
「何?」
二人はアーケードの格闘ゲームを楽しんでいた。
「割合2:2で、よくそういう展開にならないよな」
「鈴木と小暮は微妙にそんな感じになってるけど」
「ほー」
二人の手は止まることを知らず、互いの技の止め返しが続いていた。
「・・・・・・」
ボタンを連打する音のみが響く。
「じゃ、お前と篠崎は?」
「うーんと・・・多分ないな」
「多分、って何だよ」
志隆がほんの少し遠い目をする。
「まぁ、実際僕は二人のことをただの友達としか見てないし、仮に告られたとしても、振って崩壊するだけだと思う」
「ほー」
その瞬間。
清輝に連続ヒットが炸裂し、画面にK.O.の文字が映された。
周りから歓声があがる。
「・・・ブランクはきついな」
「どんまい」
「おーい、終わったよー」
「で、勝敗は?」
「志隆」
二人が鋭い目でにらみつける。
「・・・・・・」
思わずたじろぐ。
「ま、まぁ、外見とかは関係なしにこういうのは能力と積み上げられた経験だからね。
二年もやってない清輝がこれだけ張りあえたのは、ある意味すごいよ」
「・・・・・・」
なおも続く。
「・・・次行くか?」
「あ、うん!行こう行こう」
今度は小暮が志隆を引きとめる。
「な、何?」
「あのな・・・・・・
うちの財産を知ってて、クレーンゲーム係にするのはやめろ。
要らん物ばかりおごらされる」
「じゃ、一緒に来なよ。今度はシューティングだから」
「・・・すまんな。恩に着る」
小暮が志隆の肩に手をかけながら涙を流す。
「で、物は相談なんだが・・・・・・」
「何?」
「三回チャレンジまではせめておごってくれ」
「・・・・・・」
五人がほぼ同時に100円を投入する。
やる前からすでに観客が出来ていた。
「一応言っとくけど、どこまで進むかじゃなくて、ハイスコアで決めるからね」
それぞれが操作する機体を決める。
「3、2、1――」
ゲームスタートの音楽が流れた。
「それよりも志隆」
「何?」
「・・・格ゲーといい、これといい、お前らはここらへんでそんなに有名なのか?」
志隆がいつも細い目をますます細めた。
「何でも、別名『ゲーセン荒らし』らしいね」
「・・・たいそうご立派だな」
「ま、ゲーオタが四人も集まれば、これくらいどうってことないよ」
と言いながらやっているが、このゲーム、画面の九割近くを弾が覆っている。
いわばカスってなんぼの弾幕系シューティングゲームである。
今まで聞いたことが無い音が響いた。
「・・・ちっ」
「小暮〜、中ボスに何やられてんだよ」
「ボム温存しすぎなんでしょ」
「貧乏性が祟ってるわね」
「・・・もう何とでも言え」
清輝のマシンからも聞こえた。
「・・・ちょっと待てよ。
これ、市販ゲームの域じゃねえぞ」
「何でも、この店が対僕達用に用意したバランス崩れまくってる一昔前のやつらしいからね」
「・・・店もお前らの存在には気づいているわけか」
「挑戦状叩きつけられたのはこれで十回目だけどね」
「全戦全勝?」
「全戦全勝」
店内には、しばらく興奮と安堵の声がこだましていた。
「いや〜久しぶりにやったわね〜」
「息抜きには最高ね〜」
「いや〜、腰が痛い」
「・・・・・・」
「・・・三十分で全十二ステージをクリア。
しかも、ボムを二十個も余らせるという卑劣っぷり。
一体、何者だ。お前ら」
二人を除いて、全員が伸びをしていた。
と、志隆の携帯電話が鳴る。
「もしもー」
「キラカゼ北500mに第二十三型死生物、ロン出現よ。
ところで、今、どこにいるの?」
「ええっと、ここは・・・・・・」
清輝が志隆の携帯電話を取り上げる。
「吉良風市神賀浦駅前商店街約1300m地点に投下していただければそれでいいです」
「わ、わかったわ」
「それと、一緒に乗りこみますので、先に謝っておきます」
「え!?ちょっと待ち――」
清輝が通話を切ると共に、素早くバッテリーを抜き取った。
「行くぜ志隆」
「あ・・・うん」
走り出す二人に向かって小暮が声をかける。
「ちょっと待て!どこ行く!」
「「ちょっと野暮用で」」
「さて、行くぞ。志隆」
「にしても、何のために?」
清輝は後ろのコクピットに乗っていた。
「最近やってないからな」
「いや、そんな理由で――」
「操作は譲らしてもらうぜ」
志隆側の操作が利かなくなった。
「ちょっと!」
「ま、庁の方には適当にごまかせるさ。
βよこせ!」
「・・・・・・」
「βよこせ!!」
「β・・・投下」
一本は取ったが、もう一本は地面に落ちた。
「・・・鈍ってやがる」
一型機はもう一本を抜き取った。
「じゃ、頼む」
「・・・・・・」
「おい、運んでくれよ」
「あなたの指図を受ける気なんてない」
二型機は微動だにしない。
「あん?今なんて――」
「時野、お願い」
「・・・わかった」
二型機が一型機の首を持ち上げる。
「ちょ!」
そのまま、ハンマー投げの要領で投げ飛ばした。
数棟のビルをまき沿いにしながらなんとか着陸する。
「・・・あの女」
「まぁまぁ」
一型機が立ち上がると同時に二型機が到着する。
そして、山からロンがあらわれた。
「・・・っ!!」
清輝がリミッターを解除する。
「であああああっ!!」
通りざまにロンを薙ぎ払う。
しかし、残されたのはわずかに残された取っ手と刃先だけだった。
「・・・ちっ」
「清輝、危ない!」
一型機に両側から円錐型の二本の腕らしき物が襲い掛かる。
肘が悲鳴をあげた。
「おい、てめぇちっとは手伝うとかしねぇのかよ!」
「・・・・・・」
「おい!」
「あなたと一緒に戦う気なんてない」
「・・・一途な野郎が!」
肩や肘から部品が次々に飛び出し、ついに前腕全てで何とかおさえていた。
「清輝!お願い!変わって!」
「・・・・・・」
「死にたくないなら、変わることね」
「・・・・・・」
「変わりなさい!清輝!」
「・・・・・・」
その時、ロンの本体と右側の腕をレールガンが撃ち抜いた。
ロンが対象をレオムへと変える。
「・・・レナ」
「・・・・・・」
レオムが猛追され、あっけなくつぶされた。
「志隆」
「・・・うん」
志隆がリミッターを設定し直す。
「行くよ!時野!」
「・・・わかった」
二本の腕が二機に襲い掛かる。
あからさまに一型機は押されていた。
「・・・くっ!」
腕の中心部に右腕を無理やり食い込ませると、左腕も無理やりその穴にねじこむ。
そして、再びリミッターを解除した。
「割れろおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
亀裂が食い込ませた部分から広がっていく。
ロンが腕を無理やり引きずり出し、もう一度激突しようとする。
一型機は尾でそれを粉々に消し飛ばした。
「時野、頼んだ」
返答は届かず、二人は暗い部屋に閉じ込められる。
涙を聞きながら。