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第十六話

 第十六話 ―鴇―


「しつれーしまーしゅ」

「しまーしゅ」

 教室の静寂を突き破って五歳ほどの少女達が入ってくる。

 姿から想像すると、どうやら双子のようだ。

 と、志隆の袖を掴んでいきなり走り出した。

「え、ちょ、ちょっと!」

「「いくでしゅ!」」

 教室のざわめきの中、二人と一人は出ていった。

「おい神崎!」

「す、少ししたら戻って来るので、続けててくださーい!」

 時野はその様子をいつもよりはかなり困惑した様子で見ていた。


 志隆は袖を無理やり引き抜くこともできずにただ走っていた。

「ちょっと!・・・どこいくの!?」

 すると二人がいきなり志隆を離した。

 志隆は辛そうに呼吸している。

「ずっとあいたかったでしゅ。しりゅーしゃん」

「さがしてたんでしゅよ?」

「何で僕の名前、知ってるの?それに会いたかった、って何?」

 二人が志隆の顔を覗き込む。

「だいじょーぶでしゅ。べつにしりゅーしゃんがわしゅれているほどむかしに『こんやく』をかわしたわけでもありましぇんし」

「いきなり『いしょーろー』してじぶんのことを『しりゅーしゃんのおくしゃん』だにゃんて、いわにゃいでしゅ」

「考えたことをずばり言い当てられるなんて・・・僕もそろそろかなぁ」

 志隆がちゃんと呼吸を整えて、立つ。

「で、僕は神崎志隆っていうことは知っているらしいけど、

 君達の名前はなんていうの?」

「しんぶるいにゃでしゅ」

「しんぶりにゃでしゅ」

「神武累奈ちゃんと神武里奈ちゃん?」

 二人が同時に口を不機嫌そうに尖らせる。

「「『れでぃ』にちゃんづけしゅるにゃんて、おとことしてしっかくでしゅよ」」

「では、二人のレディさん。なんて呼べばいいのでございますか?」

「るいにゃ『じょーおーしゃま』でしゅ」

 空気が一瞬にして硬くなる。

「るいにゃ、いくらにゃんでもしょれはにゃいでしゅ」

「だって、こにょまえみた『びでお』では、おとこにょひとがおんにゃにょひとを『じょーおーしゃま』っていってたでしゅ。

 だから、おとこにょひとはおんにゃにょひとを『じょーおーしゃま』っていわにゃきゃにゃらにゃいんでしゅ」

「しょうにゃんでしゅか。しらにゃかったでしゅ」

「・・・一体、何見たんだろ」

 志隆がわかっているようでわかってなさそうな顔をする。

「でもやっぱり、よびしゅてでいいでしゅ」

「・・・本当によかった・・・・・・」

 どこか遠くで授業終了のチャイムが鳴った音がした。

 志隆があわてて時計をさがしはじめる。

 そして、思わず冷や汗が滴る。

「ごめん。僕、もういかなきゃ」

「しゃよにゃらでしゅ」

「またあいましょうでしゅ」

 二人が満面の笑みでちぎれんばかりに大きく手を振りながら、志隆を見送った。

 そして、角を曲がっていった瞬間に、力無く落ちる。

「第一印象はなかなかでしたね」

「あとはうまくこちらがわに引き込めるかどうかね」

「二十型はどうしますか」

「気に入らなくなったら、腹いせに蹴ってやれ」

「わかりました」


「ギリギリセーフ」

「「「バリバリアウトー」」」

 志隆が静かに肩を落とす。

「やっぱりか・・・・・・」

「志隆が走った距離ぐらいなら、チャイムぐらい聞こえたでしょ?」

「聞こえたけど、空耳、という可能性に賭けたかったんだよ」

「で、」

 一気に三人が志隆に詰め寄る。

「「「妹?」」」

「違う」

「「「親戚?」」」

「違う」

「「「駆け落ち相手?」」」

「そうだよ。

 ・・・って言ったら困ると思うけど」

「「「つまんねー」」」

 三人が元の立ち位置に戻る。

「じゃ、何だったんだよ一体」

「わかんない。単にサ行とナ行がちゃんと言えない五歳くらいの双子、ってしか今は言えないかな」

「ふーん。幼○度99.99%ね」

 すかさず鈴木が聞き返す。

「残りの0.01%は?」

「カ行とタ行とハ行とマ行とラ行がちゃんと言えないこと」

「つまりは、ア行とヤ行とワ行とン行以外ちゃんと言えないと駄目なんだね。

 けっこうきびしいと思うけどなぁ〜」

「ン行?」

 篠崎が反応する。

「だってあいうえお表の最後に『ん』ってあるでしょ?

 あれって『ん』っていう行じゃないの?」

「いや、『ん』は『を』の次にあるぞ」

「それはゲーム上で場所がもったいないからだろ?

 ほんとのあいうえお表は小一の国語の教科書に書かれてるやつだよ」

「でも、『ん』って『あ』でも『い』でも『う』でも『え』でも『お』でも『ん』の形の口にすれば『ん』って発音するわよね」

「そもそもどの列に属してるんだろ?」

「「「「うーん・・・・・・」」」」

 その時、

「『ん』はそもそも五十音の中に入っていない言葉。

 どの列にも入っていないし、『ん』行っていう行も存在しないわ」

 時野の意外な口出しによって問題は解決した。


「じゃあな。志隆」

「じゃあねー」

「バイバイ」

「じゃあねー!」

 三人は薄くなってきた影を揃えながら走っていった。

「時野―」

「23分35秒」

 時野が自転車をひきながら出てきた。

「そんなに!?」

「あなたがあの人たちと話しているからでしょ」

「まぁ、それもそうか・・・・・・」

 時野が先にこいで行ってしまうと、志隆が後を追うように走っていく。

「そういえば、時野ってジルに乗ったんだよね」

「・・・・・・」

「美月から聞いた話によると、倒れるみたいに吸い込まれたって言ってたけど、中はどんな感じだった?」

「当たり前だけど、気持ちよかった」

「当たり前かな?」

 あたりのナトリウム灯が次々に点いていく。

「すぐにわかるわ。あなたにも」

「僕にも乗れるの?」

「乗れないことは・・・ない。

 でも、出られなくなる」

「何でわかるの?」

「知らないわ」

 志隆が時野のスピードに合わせるようにして一車線だけのコンクリートを走っていく。

 たまに二人の影が薄くできるだけだった。


「あぁ〜あ。私も恋とかはじめてみようかなぁ〜」

 志隆の部屋よりも明らかに具合の良い部屋に一人のオペレーターが私服でくつろいでいた。

「やっぱり狙うなら志隆くんより断然清輝くんだなぁ〜。敵も多いし。

 でも、結局レナと清輝くんの関係って一体何なんだろ?

 昔からの幼馴染、みたいな感じもあれば、何かそれ以上の関係を見せることもあるし。

 裏で付き合ってたりして」

「お昼のニュースをお伝えします。

 まずはじめに、速報です。

 防衛庁長官を除く、17人の国務大臣が長官室より飛び下り、全員死亡していることが確認されました」

「な、なんだってー!?」


「局長!」

「ええ。わかっているわ」

 すでに指揮室のモニターにはあらゆるテレビ局が映し出されていた。

「何かあったんですか?」

「検討もつかないわ。国務大臣が全員揃って集団自殺するのも考えられないし。

 しかも、長官も死んでいることは確認されてないけど、行方不明だし」

 あるテレビに発見者が飛び下りた時刻を詳細に示した一覧が載っている。

「・・・もしかして・・・・・・

 今すぐJRに今日の東京付近路線の発着詳細一覧、それと警察庁に今日の東京付近交差点の信号の表示色詳細一覧を用意させて」

「わかりました!」

「それと、桜」

「何ですか?」

「制服、着てきたら?」


「一致しません」

「小学生でもまだだめなのね・・・・・・」

 桜が入ってきたときにはすでにほぼ作業を完了し終わっていたようだった。

「あの、何やっているんですか?」

「ああ。制服着てもらってもうしわけないけど、もう終わってしまったわ」

「・・・はぁ・・・・・・」

「とにかく、これを見て」

 モニターに東京付近の地図が表示され、ところどころに点が打ち込まれてあった。

「何ですか?これ」

「いいから見てて。

 はじめて」

「了解」

 別のオペレーターが何かをパソコンに打ち込んだ。

 すると、地図が一気に都心部へと拡大表示され、点から何か線のような物が出てきた。

「今までの事件を全て『同一人物による殺人』という仮定の元でシュミレーションしてるのよ」

「同一人物による殺人!?」

 線が次の点へと到着すると、しばらく経ったあとに点が消え、また線がのびていく。

「最初に殺された労働省をスタートとして、その時間の正確な信号の移り変わり、電車の発着を打ち込んだ上で時間通りにたどっているの。

 ちょっと遅いから、早送りして」

「了解」

 線がのびるスピードが三倍ほど速くなる。

 そして、

「シュミレーション、完了しました」

「可能性は有り・・・ね」

「でも、少し待ってください。

 そもそも、職員以外の誰かが入ってきたら、防犯カメラに写ると思いますし、警備員もいるのでは?」

「実はもう一つ裏があってね、各庁の長官が死んだあと、七分六秒後に警備員が突然、もっているはずのない拳銃で職員を大量に、しかも一発で仕留めた後に自殺する、っていうのもあったのよ」

「七分六秒ってもしかして・・・・・・」

「そうよ」

 美月がパソコンに


 7:06


 と打ち込む。

 そして


 6:66


 と直した。

「ほとんどが仏教徒の日本にとってもあまりにも悪趣味すぎる数字だわ」

「・・・ですね」

「そして、もう一つ気になる事実」

「何ですか?」

「このシュミレーション、

 だいたい幼稚園児の平均歩行速度で完了してるの」


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