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第十二話

 第十二話 ―鈍―


「エン、以前上空にて待機中!」

 回転しながら何かを伺っているようにも思える、白と黒の絡まりあった紐のような何かが浮かんでいた。

「全対空兵器発射開始」

 バルカンやミサイルが発射されるが、もちろん意味は無かった。

「敵の外的損壊0!」

「全対空兵器発射停止」

「地下ゲート開放完了!」

「四次元ゲート完了!」

「合図を!」

「エレクシエスト、投下!」

 エンから見て、ちょうど影になっているビルの裏に投下された。

「π、ください!」

「π、投下!」

 ライフルがエンから見えない状態で投下された。

「位置、教えてください!」

「エレクシエストより北北東53.5m、上空約300mの地点です!」

 エレクシエストがπに弾をこめる。

 一呼吸置いてビルから一歩踏み出すと、即座に撃ちこんだ。

 確かに貫通した。

 しかし、微動だにしていない。

 むしろ、気づいていないような素振りだ。

「レオム、準備完了!」

「レールガン発射許可!」

「了解!充電開始!」

 モニターの下に出たゲージが少しずつ埋まっていく。

「充電完了!・・・発射!」

 レオムが吹き飛ぶ映像と共に一つの光線が空を翔ける。

 しかし、微動だにしていない。

 むしろ、気づいていないような素振りだ。

「一体・・・何者?」

 回転を続けるエン。

 様子を伺っているようにも、ただいるだけにも見える。

「電波や搭乗者、エレクシエストの脳波は?」

「いずれも・・・異常無しです」

「ドM・・・なわけないわよね」

 その場にいる全員の瞬きが合った瞬間だった。

「え、エン、消えました!」

「どういうこと!?」

 まるで、全員の行動を把握しているかのように寸分の違いも無い行動。

 しかも、通信速度までを読み取った完全なる行動。

 状況を混乱させる手はずなのかはわからない。

「エレクシエスト上空にAST反応!同型のため、エン、再出現です!」

「英子、逃げて!」

 繋ぎ目が無かったエンに繋ぎ目が出現し、エレクシエストの胸部と左手をπと共に締め付けた。

 πが砕け落ちた。

「ξ、ください!」

「ξ、投下!」

 マシンガンらしきものを逃れた右手で零距離発射する。

 撃ちこまれた弾丸が銃口から溢れ出てくる。

「主電源に亀裂発生!残り1分持ちません!」

「なんですって!」

 エレクシエストのモニターの一番上にあるゲージが少しずつ減っていく。

 それと同時に、絡み付いているエンを、橙色に濡らしていく。

「と、操縦室開放準備開始!」

「何やってるの!」

「な・・・何もやってないです!!」

 美月が思わず体を乗り出す。

「手動解放装置は!」

「作動していません!ロックされたままです!」

 ゆっくりと操縦室が引き出される。

「・・・・・・」

 英子が確かに見える。

「・・・・・・」

 縛っていた先端が操縦室へと向き、真紅の眼を開く。

「・・・・・・」

 英子とエンの視線が合う。

「・・・・・・」

 英子は自分が危険に犯されようとしていても、何も出来なかった。

「・・・・・・」

 二人はずっと止まったまま。

「・・・・・・」

 互いが互いの精神をまさぐるようにして見ている。

「・・・・・・」

 アニメの一コマで止まったようなモニター。

「・・・・・・」

 画面脇の時計だけが、唯一この時間が動いていることを告げる。

「・・・・・・」

 エンの眼の下から細い触手が伸びていき、英子をいじくるように触る。

「・・・・・・」

 約一秒ずつの間隔で、一本、また一本と無駄に増えていく。

「・・・・・・」

 英子の体が見えなくなるほどの触手の数になったとき、付け根の部分から結合を始めた。

「・・・・・・」

 一つも青が見えなくなったとき、静かに触手達はエンへと戻っていった。

「・・・・・・」

 操縦室の操縦席には、誰も乗っていなかった。

「・・・・・・」

 はじめから誰もいなかったように。

「・・・・・・」

 誰の記憶にも、無かったように。

「・・・英子さん」

 エレクシエストのモニターのゲージはすでに無い。

「・・・英子さん」

 搭乗者の脳波計はエラーを示し、脈拍、血圧計はただまっすぐの線を示している。

「・・・英子」

「・・・英子」

「・・・英子」

「・・・英子」

「・・・英子」

「・・・英子さんっ!!」

 エンは静かに束縛を解くと、また上空で輪状になり、回転を始めた。

「エレクシエスト搭乗者・・・しぼ――」

「その先は!・・・言わないで・・・・・・」

 静かに、志隆が拳を握り締める音だけが響いた。

 そして、自分を静めるように、走り出した。

「かりん!行って!」

「了解!」

 いつもの、不抜けた声とはかけ離れていた。

 その中に、何かの変化が感じられた。


「・・・・・・」

 志隆はもちろん免許など持っているわけも無い、誰のものかわからないバイクに乗っている。

 速く行きたい。

 それだけだった。

「・・・エン」

 志隆が上空のエンを見上げる。

 相変わらず、不気味なほどに回転を続けている。

「・・・殺してやる。俺の手で」

 ビルにぶつかる直前でなんとか左に曲がると、バイクを乗り捨て、営業所のような建物の中へと入っていく。

 エレベーターには目もくれず、階段を風のように翔けあがる。

 すでに八階以上と上っているのにも関わらず、その足は止まることを知らない。

 ついに屋上に到達すると、休む間も無く扉を蹴破る。

 エレクシエストの操縦室が、ちょうど見えた。

 そのまま躊躇することなく走りこみ、操縦室へとなんとか飛び移った。

「・・・志隆・・・・・・」

 かりんが車を降りて志隆を見上げる。

「・・・この、いいとこ取りが」

 操縦室が収納された。

「し、志隆くん!」

「降りて志隆!あなたに使える物じゃないわ!」

「教えてもらった!」

 志隆が横の操作盤をいじくりはじめる。

「主電源電力無し、予備電源1分・・・・・・」

 志隆がレバーを引くと、横のモニターに黒の背景に赤字でカウントダウンが開始された。

「κ!」

「か、κ、投下!」

 小刀が投下された。

 昼下がりの太陽に、鋭く反射した。

「エン、行動再開!」

 輪状だったものが紐状へと変形する。

 エレクシエストへと迫る。

 エレクシエストは右前足を軸にして、尾でエンを叩きつけた。

 唖然としているようなエンをしり目に、そのまま右両足で踏みつける。

 エンがなんとか抜け出し、エレクシエストへと絡み付こうとする。

 エレクシエストはエンを顔面直前で握り止めると、その真紅の目にκを付きたてた。

 そのまま、左手と共にエンを縦に両断した。

 握られている半分が、最後の抵抗とでも言わんばかりに手に絡みつく。

 エレクシエストはκを振り上げると、そのままエンに突き刺した。

「エン、消滅!」


「志隆!!」

 冷たい表情で帰ってくる彼を、美月は平手で返した。

「何やってるかわかってるの!!」

 そのままの表情で美月を見つめ返す。

「何で操作できたかはこの際問わないわ!!

 自分が何をやったかわかってるつもり!!

 あなたがどれたけの罪を犯して、どれだけの心配を与えれば気が済むの!!

 私が防時局長じゃなかったら、どうするつもりだったの!!」

「・・・お前になんか、そんな期待してねぇよ」

「・・・え・・・・・・」

 妙過ぎる志隆の言葉に、美月が思わずたじろぐ。

「お前が防時局長だったところで、俺に対して後ろから手を回したのはお前の勝手だろ?

 そんなこと要求してねぇ」

「・・・・・・」

 美月の頬を伝う涙など気にも止めず、そのまま自分の部屋へと直行した。


「よぉ、志隆」

「・・・清輝」

 清輝がいつもの表情で入ってきた。

「いやぁ、お前が操縦できるなんて知らなかったぜ。

 それに何、あの叩きつけは?

 すごくねぇか?」

「・・・ありが――」

「というのは建前だ」

 志隆は何が起こったかわかる時間も無く、壁に叩きつけられる。

 前には右手を前に伸ばしきった状態の清輝がいた。

「お前には本当に失望した。

 お前が心配をかけて、責任を背負ってくれたやつに対して、やってくれなくてもよかった、だと?

 聞いてあきれるぜ。

 俺はな、どんなにそいつが嫌いな女でも、そいつを泣かせた男は許せねぇ」

 しばらくの沈黙が続く。

 実に、気まずい空気だった。

「で、お前は俺に何か言いたいことはあるか?

 殴られたやつには、そいつを殴る権利がある。

 もちろん、ただ殴りたい、だけでも結構だが?」

「・・・・・・」

 怒る気など、起こるわけもなかった。

「お前、本当、無駄に優しいやつだな。

 ラブコメアニメの主人公になれるぜ」

 それだけを言うと、またいつものように出ていった。


「民間人、それも死生物重要参考人にエレクシエストを操縦させた・・・と」

 前と同じく、薄暗い防衛庁本庁舎の部屋の中に美月はいた。

「はい」

「全くけしからんことですなぁ。防時局長とはいえさすがに限度がありますぞ?」

 静かに、少し長くまばたきをした。

「権力の悪用・・・とでも言いましょうか」

「いやはや。暴走といい、乱用といい・・・・・・」

「では、私達も忙しいのでそろそろ結論といこうか。

 神埼志隆は死生物重要参考人として、一週間に一回ずつほど、各地に旅行に行かせろ」

「旅行・・・?」

 思ってもみない言葉だった。

「海外でも、国内でも構わない。もちろん、同伴者付きで、だ。

 各地に行った後に、そこの地全てで死生物に出くわすかどうかを確かめるだけだ。

 期間は変化が無い限り無期限」

「ちょっと待ってください!

 そこの地全てで死生物に出くわすかどうか、とはつまり――」

「死生物が神埼志隆を何らかの目的地、または目標として定めているのではないか、という考えだ」

「つまりは、神埼志隆が死生物に直接関係がある人物だとおっしゃりたいのですか?」

 思わず声の調子が強くなる。

「単純に言えばそういうことだ。

 また、エレクシエストは今後、各地への旅行をこちらが取りやめるまで志隆に操縦させろ」

「・・・わかりました・・・・・・」

 半分放心状態のまま、静かに美月が出ていった。

「我々の考えに沿うなら、エレクシエストはすぐに覚醒を起こす。

 そうなってしまえば、こちらの都合がいいというものだ」


 ドアをノックする音が聞こえる。

「・・・美月?」

「志隆!」

 すぐにパソコンを操作するとドアを開けた。

「どうしたの?」

「・・・ごめん」

「何が?」

 あまりにも有りえない答えが返ってきた。

「え?」

「志隆が私に何かした?確かに泣いてたような気はするけど・・・何で泣いてたのかわからないの」

「・・・何でもないよ。多分、夢だったんだと思う」

「そう。ならよかったんだけど」

 美月がコーヒーをすすった。

「熱っ!」

「だ、大丈夫?」

 美月が短く舌を出して手であおいでいる。

「火傷しちゃった・・・・・・」

「そういえば、何でまた防衛庁になんて行ってたの?」

「志隆が格納庫でエレクシエストを勝手にいじって、壁とか壊したからでしょ?」

「え?そんなことやってないよ?」

 美月が背もたれによりかかって背伸びをする。

「またまた〜。そんなこと言わないでよ。事実なんだから」

「・・・・・・」

 美月がまた姿勢を正す。

「そうそう、それと、週一のペースで旅行に出なきゃならなくなったから」

「・・・僕が?」

 頓狂な声をあげた。

「もちろん。できるだけ遠いところに」

「誰と?」

「誰でも」

「誰でも?」

「っていうより、立候補があるだろうから、その人と行くことになると思うわ。

 もちろん、私も立候補するから」

 志隆が少し考えこむ。

「パイロットは交代制だからいいと思うけど、オペレーターとか指揮官が行っちゃっていいの?」

「オペレーターは少し問題あると思うけど、私が許可すると思うからいいわ。

 その代わり、後日みっちりやってもらえばいいだけなんだから。

 私は・・・本庁にばれなきゃ大丈夫よ。これで指揮できるから」

 そう言って、イヤホンマイクを取り出して、鈴のように振って見せた。


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