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第十話

 第十話 ―朱―


 ―志隆・・・・・・

 何も無い、宇宙のような捻じ曲がった空間の中に見知らぬ声が響く。

「・・・誰?どこにいるの?」

 志隆の後ろに女性が現れた。

「私の名前はルヴィエシス。あなたと会ったことのある者です」

「ルビエシス?」

「ルビエシスではありません。ルヴィエシスです」

 志隆が軽くため息をつく。

「ルヴィエシスさん」

 「ヴィ」を強調しながら志隆が言った。

「なんですか?」

「まず、どうして僕のことを知ってるの?」

「あなたを知らない人が私達の中にいるわけはありません」

「私達?」

 志隆が辺りを見渡す。

 しかし、そこには虚無の空間しか存在していなかった。

「じゃあ次に、ここはどこ?」

「あなた方の言う、四次元世界です」

「ははぁ、つまりここは僕の夢の中か」

 ルヴィエシスが少し困惑気味に表情を変えた。

「そうであるとも言えますし、そうでないとも言えます」

「まあ、夢の中なんだから好きなこと言えるよね。誰だって」

 ルヴィエシスはさらに困惑気味の顔をした。

「ここは夢の中ですが、私は好きなことはいえません。

 例えば、私があなたと一生、自分の欲が欲するがままに一緒にいたい、ということは、とてもではありませんが言えませんし、無論、実行も出来ません」

「それは僕でもお断りだよ」

 突如、周りの空間が瓦礫のように崩れ落ちていく。

 ルヴィエシスが遠ざかっていく。

「待って!」

 つかめないとは知りながら、必死につかもうとする。

「もうすぐ朝です。あなたは起きなければなりません。

 そして、私は私達が来たときにまた会えます。それに、私はいつもあなたのそばにいられるはずです」

「ルヴィエシス――」


「さんっ!」

 志隆は折りたたみ簡易ベッドの上で、無駄な汗をかいていた。

「夢・・・じゃないはずだよね」

 志隆はゆっくりと自分の右手を握り締める。

「もしかして!」

 志隆が自分の額に手を当てる。

 あの時と同じ、思いつめた表情になる。

「無意識の内に・・・ルヴィエシスのこと・・・好きになってる」


「「「あちゃー・・・・・・」」」

「そんなにおかしいことかな?」

 ほぼまっすぐに夕日が当たる放課後の教室で三人は頭をかかえていた。

「あのな・・・美少女の次はこれかよ・・・夢の中の夢とはまさにこれだな」

「「うんうん」」

 志隆が反論を開始させる。

「だって、一度くらいない?夢の中にとどまりたいっていうときとかそういうの」

「いや〜、もちろんあるさ。あのときはさいこ――」

 志隆の無表情顔面ナックルが炸裂した。

 容赦なく後頭部が机にヒットする。

「お〜、久しぶりに出た無表情顔面ナックル!」

「でもさ、何にしろ夢の中の女に惚れるのはどうかと思うよ?

 第一、それが夢ならもう多分二度と会えないわよ?」

「でも、同じ夢何度も見ることってあるじゃん。

 それに『私は私達が来たときにまた会えます』って言ってたし」

 二人が近くにあった机にへばりつく。

「だって夢でしょ?何とでも言えるじゃない」

「それはそうだけど・・・・・・」

 校舎内がいきなりの揺れに襲われた。

「じ、地震!?」

「全吉良風市民へとお伝えします。

 すみやかに近くのフィルターへとお逃げください」

 どの先生でもない声が校内放送で流れる。

「な、何、フィルターって!?」

 志隆のみが状況を察知した。

「とにかく急いで逃げて!ほら!小暮!」

「なんだよ寝させといて・・・・・・」

「とにかく行くんだよ!」

 志隆が小暮の肩を担いで走り出す。


 町中が混乱の渦と化していた。

「一番近いのは東フィルターのはずだからそこに急いで!」

「わ、わかった!」

 少し違った眼差しを志隆に向けながら二人は走っていった。

 志隆が小暮を下ろす。

「ほら、小暮も!」

「まったく・・・マラソン大会に参加する気はねえぞ?」

「いいから!」

 志隆が無理やり小暮の背中を押し出す。

 人の波へと見事に飲み込まれた。

「とにかく防時局に・・・!!」

 中央交差点から何かが出てくる。

 白い包帯をまかれたような細長いレモン状の体。

 中央より少し上の部分にある一つの赤目。

 こちらを向いた。

「・・・・・・」

 何も言わずにただ立ち尽くす。

 死生物がこちらへと近づいてくる。

「・・・・・・」

 志隆が腰を抜かし、その場に動けなくなる。

 じょじょに目の角度が大きくなっていく。

 あと数十メートルと迫ったとき、横からエレクシエストが飛び出してきた。

 そのまま体当たりをくらわせてビルもろとも倒れこむ。

 エレクシエストの腕に白い包帯が巻きつく。

 そのまま天高く掲げられ、志隆からは見えないところに放り投げられる。

 死生物はそれを追って見えなくなった。

「・・・!!」

 志隆が我に返る。

 すでに辺りに人の姿は無かった。

 代わりに何か別の物体が近づいてくる。

「車・・・?」

 時速100kmは軽く超えている。

 志隆までの距離が100m以内になってもブレーキをかける気配が無い。

「・・・やば」

 死生物がいるにも関わらず、逆方向へと走り出す。

「死生物に食われるより、轢かれたほうが最悪だよ〜」

 もちろん、勝てるわけもない。

 エンジン音が近づいてくる。

 轢かれる。

 死ぬ。

 急ブレーキ音が聞こえる。

 ・・・止まった。

「おい志隆!」

「せ、清輝?」

 息を切らせながら志隆が後ろを振り向いた。

 青色のどちらかといえばかっこいい車が止まっていた。

「乗れ!」

「だって一回しか運転したことないって・・・・・・」

「あのときは冗談だ!何言ってんだ!」

 清輝が運転席の窓を閉める。

 エンジンをかけると共に志隆が乗り込んだ。

「ちゃんと締めとけよ!」

「えっ何――」

 質問をする間もなく清輝がアクセルをベタ踏みする。

 嫌な焦げ臭いにおいと共に勢いよく急発進した。

「締めろって言ったら普通シートベルトだろうがよ!」

「言うの遅いよ〜」

 志隆が左手で額をさすりながらなんとか締めた。

 締め終わったのを確認した直後、再び額に痛みが襲う。

 前を見てみると、倒壊したビルによって道がふさがっている。

「もうちょっとゆっくり走ったら――」

「半径55m内にゲアがいるって言うのにか?」

 バックしながら左へハンドルを切る。

 清輝がギアをバックからドライブへ変え、急発進する。

「かっこいいね」

「お世辞をどうも」

 ほぼ無事に危険地帯を抜ける。

「くそっ!かりんのやつ、どこに吹っ飛ばされてやがんだよ!」

 目の前の交差点にエレクシエストが煙とともにどこかから飛ばされてきた。

 清輝がギアをバックに入れ、右へと切る。

 半反転したところでドライブへと戻し、左へ切る。

 ウィンカーを上げもせずに路地裏へと入る。

「それってやって――」

「こんなときまで律儀に守るやつがいたら教えてほしいもんだね!」

 路地裏を抜ける。

 と、予想もしない事態が起きていた。

「好きなやつが足下にいるくせに戦闘続けてんじゃねえよ!」

 足を一本かわし、二本目をぎりぎりで避けた。

「・・・天井すったな・・・・・・」

 そのまま直線道路を走る。

「ジェットコースターよりはるかにすごいや」

「それなら、あいつは乗れないな」

 志隆が考え込む。

「そんなに低かっ――」

「くそやろうがっ!」

 道路が一面影で覆われる。

 急いでまた路地裏へと逃げ込む。

 車体の後ろのほうが大きく揺れた。

「しょえ〜」

「・・・お車ごっこはここで終わりだな。少し残念だが」

 清輝が地下駅へと一気に突入した。

「ちょ、ちょちょ、ちょっと!」

「我慢しろ!俺だってぎりぎりなんだぞ!」

 なんとか階段を下りると、改札口が地面に埋め込まれていた。

「すご・・・・・・」

「防時局にできないことはないからな」

 ホームに入ると台だけのものが線路の上に乗っていた。

 それをわざわざドリフトでつける。

「任務完了。出せ」

「了解」


「活動限界まであと30分!」

「思った以上の長期戦ね」

 双方共に、投げたり投げ返されたりが繰り返されていた。

「レールガンは使用不可能、武器投下も腕を掴まれているせいで不可能・・・・・・

 英子がどうにかしない限り、現状打破は不可能・・・・・・」

 再びエレクシエストがゲアの腕を掴む。

 しかし、自分の方へと引き寄せた。

 間に右前足をはさみ、ゲアと密着させる。

「エレクシエスト、リミッターブレイク!」

「活動限界、残り30秒!」

「やっぱりね・・・・・・」

 エレクシエストがゲアの腕を無理やり引きちぎる。

 落ちた腕が道路を真紅に染めた。

「εちょうだ〜い」

「ε、投下!」

 大鎌が投下された。

「一気に決めちゃお〜っと!」

 今までより想像できない速度でエレクシエストがゲアに接近していく。

「残り10秒!」

「スリルスリルスリルぅ!!」

 ようやくゲアが起き上がる。

「7!6!5!4!3!2!1!」

「ゲア、消滅!」


「・・・くさいね」

「我慢しろ。防護服は一応着ている」

 二人はルエの収容場へと来ていた。

 すでに3分の1はなくなっていた。

「これが俺達を絶望の淵に落としかけたやつだとはな」

「少し、かわいそうだね」

 見たことも無い数百人の研究者がこぞって群がっている。

「あと1週間もしたら全部消えるそうだ」

「消える?腐ってるだけじゃないの?」

 翼についている目が落ちた。

「腐ってることは腐ってるが、厳密に言えば死生物の体がAST粒子に分解されてるだけだ。

 ここに来ているやつらは、ほとんど兵器関係の研究者らしい」

「AST粒子を兵器化することなんてできるの?」

「無理だ。AST粒子はあるだけでまわりにあるものを分解していく。

 この部屋ぐらい広い場所だとあまり効果は持たないが、AST粒子は密着していれば密着しているほど効果を発揮する。

 銃弾にこめたりしたら、銃が分解するさ」

 肉片が一気に落ち、灰色の心臓があらわになった。

「うわっ・・・・・・」

「気持ち悪いか?」

「うん・・・・・・

 でも、死生物の構成物質は同じのはずじゃ・・・・・・」

 図太い注射器を刺し、血を採取している。

「確かに同じだ。

 だが、死生物の皮膚の色が黒と白ではっきりわかれているように、構成物質が同じなのにも関わらず、部位によって硬さや強度が違う。

 ま、骨がなかったら軟体生物と同じようなやつらしかできないだろうからな。

 ところでお前、なんでルエなんか見ようと思ったんだ?」

「多分・・・なんとなく」

「物好きなやつだな。

 ま、後は好きなだけ見てけ。中から外へ出るのにはパスワードも網膜認識もいらないからな。

 こんなところにいたら、鼻が折れる」

 清輝は少し千鳥足になりながらなんとか出ていった。

「・・・・・・」

 目の前に広がる黒と白の体。

 指揮室のモニターからでしか見ていないルエが今、目の前に横たわっている。

 近づくと、一目で見渡せないほどの大きさだった。

 志隆がルエの体に触れる。

 防護服を通じて、わずかに体温が感じられた。

「まだあったかいんだ・・・・・・」

 抱きついてみる。

 全体に温かさが伝わってくる。

「優しい・・・・・・」

「こら、触るんじゃない。君も高校生なら、それぐらいわかるだろうが」

「すみません」

 ゆっくりと、名残惜しそうに体を離す。

 体温がわずかに残っていた。


「出来たー!」

 英子ではない青髪でセミロングの髪の女がつぶやく。

「どれどれ?」

「今度こそうまくいったと思う」

 レナが数万行にもおよぶ0と1の列を見ていく。

「ふーん。うまくいきそうね。これなら」

「やったぁ、レナからOKもらったなら多分大丈夫だよね」

 背もたれに思いきりのしかかる。

「私以外にも見てもらったらいいじゃない。

 優越感にも浸れるしね」

「わかった」


「美月指揮官」

「入っていいわ。今開けるから」

 美月がパソコンを軽くいじるとドアが左へ開いた。

「失礼します」

「どうぞ」

 美月へとパソコン用の記憶媒体のようなものを差し出す。

「四次元フィールド簡易発生装置・・・ついにできたのね」

「はい。他の9人にも確認してもらいました。完璧です」

 美月がそれを照明にかざして眺める。

「あとはエレクシエスト転送後に本人達が使いこなせるかどうか、ね。

 ま、彼らなら大丈夫でしょうけど。

 許可は出すから、転送しておいて」

「わかりました」


「転送完了〜」

 彼女の膝にあるノートパソコンにはその文字が出ていた。

「ん?出来たか」

「ゆ、由佳里指揮官!」

 急いで身なりを整えだす。

「まあ、そう慌てるな。それに私はもう指揮官ではない」

「そ、そうでした・・・すみません」

 しかし、手は止めなかった。

「6年越しの大成だな。ちなみに何号なんだ?それは」

「79号・・・ですね」

「がんばったな。ずいぶんと」

「その一言をもらうために今までやってきましたから」

 由佳里が彼女の肩に手を乗せる。

「どうする?一仕事終わったが」

「続けます。この仕事。生きがいなんです」

「年下に命令されてもか?」

「はい」

 由佳里は鼻で軽く笑った。

 しかし、嫌味な心はまったく含まれていなかった。

「ま、がんばれ生きがいなんだからな」

「了解!」


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