年齢制限いらない風俗レポート【バルーン】
落ち着かない。
1泊で予約したファッションホテルの一角、SMルームのベッドに腰かけてデリヘル嬢の到着を待っているが、どうにも落ち着かずに何度も腰が浮きそうになる。
ケータイで時間を確かめるが、先ほど見た時から10分も経っていなかった。
ある日のこと、いつものようにネットサーフィンをしていたところ、風俗店のレビューをしているとあるブログにたどり着いた。
その中に何度も話題に出てくる風俗店があった。いわゆる特殊風俗と呼ばれるその店は一般的ではない性的嗜好に特化しているところだった。SM・赤ちゃんプレイ・AF等、いろいろな特殊風俗が求める欲望の数だけある。興味はあるが行く勇気や金がない人には特殊AVもあるので安心してほしい。
閑話休題。
とにかく、その店に興味をひかれた俺はさっそくHPを覗くことにした。
風俗店によくあるややはっちゃけ系のHPで嬢たちを眺めたり、可能プレイの内容を見てにやにやしたりと、人生の貴重な時間を投げ捨ててくだらないことに没頭していく。
一番人気の嬢は、なるほど、確かに目を引くほどの色白の美人であった。
だが、俺が気になったのは別の嬢だった。サユリ(仮名)という名前の彼女は美人ではなかったが、愛嬌があり好印象を抱ける感じで20代前半のまだ若い女性だった。NO.1嬢は特殊プレイのうち半数程度しか対応していないが、そのサユリ嬢はほぼすべてに対応している。そのことが余計に好感を抱けた一因だった。
さて、その店の特殊プレイにはSMに区分されるような過激なものも多数入っていた。それが余計に俺の劣情を煽ったのだろう。
特殊なプレイは常に人を引き付けてやまない。
想像してほしい。
肉感的な魅力のある色白美人が、ローションでぬるぬるな姿を。
想像してほしい。
清純そうなロリっこが、コスチュームでプレイしている姿を。
想像してほしい。
母性的で優しげな熟女が、赤ちゃんプレイで甘やかしてくれる姿を。
創造してほしい。
健康的に日焼けした女子校生が、最後まで制服を着ているAVを。
最後のはただの欲望だが、とにかく自分的には可愛いor美人の女性が特殊プレイをしているというのは、とても興奮する材料なのだ。
だんだんとノリ気になってきた俺は行くことを視野に入れつつ、店のHPを隅から隅までじっくりと見物しては、一人興奮していた。
とはいっても、自分の性的嗜好とはややずれているせいか、息子の反応はイマイチだった。
どうせ行くのならば、楽しみたい。興奮したい。満足したい。それが当たり前だ。金を払う以上、妥協してイマイチな嬢でイマイチなプレイをしたところで、後には虚しさしか残らない。どうせならば、心と息子の思い出に残るような良いプレイがしたい!
そんな思いで嬢の品定めをしていると、バルーンという文字が目に入った。初めはなんだ拡張か。とスルーをしたが、拡張は別にある。
では、このバルーンとはなんぞ?
早速、説明のページへと飛ぶ。
そこに書かれていたのは非常にわかり辛いふわっとした説明だったが、どうやら風船を割ったりするプレイのようだ。
ふむ、よくわからない。
だが心がわくわくしている! これはアリなのか!? しかもサユリ嬢はバルーンOK! これはアリなのだな!
なので、試してみることにしました!
というのが一か月ほど前の出来事。
それからしばらくの時が経ち、まったくの偶然なのだが特殊風俗店のある町にたまたま仕事で行くことになり、その機会に試すことにした。いやはや、サユリ嬢の勤務日に休みも連続して取れるとは、まったく偶然って怖いなぁ。はっはっは。
で、予約時の受付の指示に従い、大きな音が響いても大丈夫なSMルームを借りて、現在サユリ嬢が着くのを今か今かと待ちわびている状態である。
店で体験した方が面倒はないしやすいのだが、特殊な傾向に特化している所なので、もし誰かに見られた時のリスクがでか過ぎる。ここがデリバリーを頼める店で本当によかった。プレイ終了後はこのままファッションホテルに引き続き泊まる予定なので、宿代が浮くのも良い。
泊まるのはいいが、俺は枕が合わないと眠りが浅くなるのだが、ここの枕の具合はどうだろう?
そんなくだらないことで時間をつぶしていると、到着を告げる電話が鳴った。
心臓が跳ねるのを抑えつけて、いやに背筋を伸ばしながら部屋の場所を告げる。ああ、もうすぐくるのか。携帯を鞄にしまうと、換わりに持ってきた風船を取り出した。
赤や緑の原色がケバケバしい子供向けの風船のゴム臭さに懐かしさを覚える。縮んでいる風船の表面はなぜか粉っぽく、触った指にかすかに白いざらつきを残した。
やがて、部屋のドアがノックされた。
建てつけの悪いドアを開けると、HPで見たのよりも魅力半減のサユリ嬢がいた。これも風俗の試練だ。
「こんにちは。赤井さんですか?」
かすれた声で問いかけられた名前に頷けば、サユリ嬢は部屋へと入ってきた。
名刺を渡してくると、次に持ち込みのバルーンの点検を始めた。そのキビキビとした動きにプロなんだな、と妙なことを思った。普段はAVや本の世話になってばかりで、風俗を利用するとどうしても思考が変なところにばかりいってしまう。この前も風呂を利用した際に業務用ローションの大きさに興奮したばかりだ。テンションメーターが降りきれた俺に触発されて、泡姫はもっと大きいのがあるんですよと業界話をしてくれて、結局その日は話をするだけで終わってしまった。まさかドラム缶サイズがあるとは……世界は広いな。
「始めましょうか。時間は90分で変更はないですか?」
「はい、大丈夫です」
簡単な説明が終わり、タイマーが押される。
昔はこの時間制限に焦って、早くフィニッシュして時間が余ったり、逆に焦るあまりに続行不可能に陥ってしまったりと失敗も多かった。だが、今はオーバーしても金を払えばよかろう。と鋼の精神を身に付けているので怖いものはない! つまみだしにくる黒服は怖いが!!
残り89分の表示を見てから、俺は再びベッドに腰かけると偉そうに腕を組んだ。
「それでは、着替えてもらえるかな?」
「はい」
もぞもぞとサユリ嬢は着ているピンクのワンピースを脱ぐと、店から持ってきた紙袋からセーラー服を取り出して着替え始めた。
俺がつけたオプションは二つ。セーラー服(生着替え)+風船持ち込み。
ここの店はコスプレの種類が豊富でいろんなものから選べた。チャイナもいいなって思ったけど、今回は制服に心が引かれたのでこちらにしてみた。襟が藍色でリボンが赤、白の上に赤チェックのスカート。アニメっぽいがそれがいい。
流石に着替えるのには慣れているのか、サユリ嬢はサクっと着替え終わった。脱いで着る。それだけだ。一分もかかっていない。
着替えがメインのコースだともっとじっくりと焦らすように魅せてくれるのだが、今回のメインディッシュは別なのでさらっと流れても泣きはしない。
セーラー服へとチェンジしたサユリ嬢は風船を手にした。
「とりあえず、ふくらましてよかったですか?」
哀しい気持ちでいっぱいな俺を放置して、淡々とプレイを進めようとする彼女にややイラついたが、今回はバルーンを楽しみにきたんだと気持ちを切り替えた。
「お願いします」
短くそう告げると、サユリ嬢は赤い風船を口につけた。
淡いピンク色の頬が、風船のように膨らむ。静かな部屋には風船に空気が送りこまれる音だけがしていた。
しばらくしてから、頬は凹み、彼女は大きく口を開けて息を吸い込むと、また風船に空気を吹きこみはじめる。その繰り返しだ。
ひとつの風船が膨らめば、ふたつめに。それが終わればまた次に。3つも膨らませれば、酸欠と疲れにサユリ嬢の顔が赤くなってきた。
全体的に赤く上気した顔では、ピンクの頬紅はもうわからない。しっとりと滲みだした汗で流れていってしまっているのかもしれない。足元に転がっている風船の一つを手に取れば、吹きこみ口にわずかな口紅がついていた。
「まだ膨らましますか?」
「お願いします」
徳用50個入りの風船を買ってきている。これだけあるのならば満足するまで楽しめそうだ。残り時間を見ればまだ半分以上残っている。だが風船はまだ20個も膨らんでいない。
「ペースアップしてください」
「はい、わかりました」
早くしろと頼めば、荒れた息で了承の言葉が返ってきた。はじめから嗄れていた声は、さらに荒くかすれている。風船を膨らませると案外、口の中が乾くものだよな。
黄色の風船が膨らんでいく。
初めは濃い黄色だったのが、嬢の握った手の中で呼吸に合わせて大きくなるたびに、色が淡くなっていく。どんどんと褪せていく色の中心に透明度が増すころになると、彼女は膨らませるのをやめて、慣れた手つきでくるりと口元を縛って止める。そして次は水色を。
セーラー服の女性が風船を膨らます姿は、子供じみているようにも思えるが、淡々としたテンポで進められると作業としか言いようがない。
俺はその作業をベッドに座って、ただ見ていた。
初めは興奮していたのだが、見ているうちにだんだんと悟りを開いた気持ちになってきたのだ。青い風船。赤い風船。いくつもの風船が膨らんでは、床に転がっていく。淡々としているからこそ、良いのだと静かな頭の片隅で思った。
眠りに入る一歩手前の脳内に、脹らまし終えたという言葉が響く。
そうか、もう終わったのか。
終りというものは、それがなんであれ物悲しい気持ちになるものだ。
「では、最後にコレで割ってください」
「全部ですか?」
「お願いします」
一本のプッシュピンを渡すと、サユリ嬢は指示に従って自らがふくらました風船を割りだした。
パンッ、パンッ。乾いた音が響く。
破裂音は大きなようにも、小さなようにも聞こえる。
まるい指が風船を押さえて、ピンを刺す。ピンク、水色。割れる音が鳴るたびに彼女の眼は一瞬だけ閉じられた。紫、黄色。先ほどまでは色とりどりの花畑に埋もれるようだったのに、今ではその残骸が散らかっている。
「お疲れさまです」
「ありがとうございました」
最後はとても短い言葉だった。
サユリ嬢が去った部屋で一人、割れた風船を見下ろす。しぼった口のところにかすかに残るゴム布が、虚しく床に投げ出されていた。
ふと、カーテンの影に赤い風船が残されているのをみつけた。
多くの風船を処理したのだ、ひとつくらい取り残しがあるのもしかたがないか。
俺はピンを片手に、その赤い風船を拾い上げる。
パンパンに膨らんだ風船は強く握っただけで割れてしまうほどの儚さがあった。周囲に濃い赤を残したゴム風船の、中心部の透明にゆっくりと針先を近付ける。先ほど大量に割ってもらった時はさほど緊張しなかったが、やはり自分で割るとなると心臓がドキドキした。
軽く押し当てても割れないでいるので、もう少し力を込めようとした矢先に、風船はパンッと勢いよくはぜた。
「これで終わりか」
赤いゴミを床に捨てると、俺はベッドへと潜り込んだ。
片付けは起きてからすればいい。
心が満たれてはいるが、どこかそれは風船のふくらみにも似ている気がした。ホテルの枕はやわらかすぎて、やはり眠りは浅かった。