空白と虚無
いやー…真っ白な空間って結構居心地悪いのね。上がどこで下があるの?みたいな精神になるってことがわかったよ。
「…で、どうすればいいのかしら、神様。多分いるんでしょ?」
「もちろん。それにしても君の魂はいつ見ても丸くて綺麗で本当に僕のコレクションにしたいくらいだよ。」
振り返ると金髪美人な青年がこちらをみてニコニコしていた。昔きいた話だと神様って姿は見ている人間のイメージっていうから私の神様のイメージってこんな感じなのね。
「私って何回ここに来たのかしら…」
「516回。さしずめ異世界転勤族ってところだね。異世界に生まれ変わって、記憶を失ったり失っていなかったりもするけど、失望も希望もなくここに戻ってきてまた僕と話して次の世界へ旅立って行くんだ。」
どうやら私は異世界転生ベテランのようだ。チートないのに。いらないけど。
「ふぅん…そっか。それで?次は何処の世界へ旅立たせてくれるの?それとも地獄行き?」
「ふふ、君は記憶を引き継いでいないのにその言葉は昔から変わらないね。もちろん地獄なんてないし、天国なんてものもないよ。魂が満足したら消えてしまうだけだからね。さ、準備は出来てるよ、何か1つお願いを聞いてあげよう。」
「…そうね、不自由しなければ何でもいいんだけど…」
「わかった、君は次の生ではお金にも、魔法にも、権力にも、愛にも不自由なく過ごせるように運命をいじってあげよう。でも、犯罪や、取り返しが付かないようなことまではフォローできないことを覚えておいてね。じゃあ、君の次の転勤先にいってらっしゃい。」
とん、と優しく肩を叩かれ私の意識は暗転する。
「さぁ、イヴ。無欲なようで一番強欲な愛しい僕のイヴ。早く生に絶望して帰っておいで。いつまでも、いつまでも僕と一緒に暮らすんだ。ひとりは寂しい、もう待てない。早く、早く。最後の人生を楽しんでおいで。あぁ、僕のイヴ。」
金髪の青年は魂を送りだした泉に浸かり自身を抱きしめるようにして独り言を紡ぐ。彼は神であり、世界の中間地点に存在するがそこには人間が留まる事はできない。もちろん彼以外に生き物はいない。彼も生き物ではない。
世界ごとに彼とは違う神々がいる。そこでは神々が作った人間がいるが、ここにはなにもない。あるのは彼と泉のみ。
彼は孤独でおかしくなっていく。唯一縋れるのは彼がやっとのことで作れた丸い魂、イヴ。
ー今世では鈴木由紀子という名前であった魂だけだった。